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ROMや筋力の『量』と『質』【For 理学療法士】

こんにちは、理学療法士 兼 イラストレーターの〇っち~です。

みなさんは評価で関節可動域(以下、ROM)や徒手筋力検査(以下、MMT)をとる際に、そこからどのような情報を得ているでしょうか?数値として「どれくらい動くか」や「どれくらいの力が出せるか」ということでしょうか?当然、これらの情報は評価で得られます。…むしろ、ROMやMMTはこれらの客観的な数値をとりに行くものですよね。
今回はそれに加えて得ていた方が良い情報について共有します。言われてみれば当然のように思うかもしれませんが、意識しないと見逃しがちになる視点だと思います。
それではよろしくお願いします。


ROMや筋力には『量』だけでなく『質』が備わっているかという視点を持つことが大切です。

冒頭で挙げた「どれくらい動くか」や「どれくらいの力を出せるか」といった情報は『量』に関するものです。これらは明確に数値化することができるものです。
しかし、ROMにもMMTにももう一つの側面が存在します。それが『質』という側面です。これは明確に数値化することは難しいですが、意識をすることで捉えられる情報ではあります。
ここではこれら『量』と『質』という観点について具体例を交えながら説明していきます。



ROM:『どれだけ曲げられるか(量)』だけでなく、『どれくらいスムーズに・自然に動かせるか(質)』

例として、人工膝関節全置換術(TKA)後のAさんの膝関節屈曲ROMを考えてみましょう。

「リハビリでマッサージをして、他動でぎゅーっと押してやっと曲がった120°」はどうでしょうか?

』は一般的な目標値を達成しているとは思います。しかし、Aさんは自宅の階段を1足1段で『スムーズに』降りることができるでしょうか?自転車に『気兼ねなく』乗ることができるでしょうか?

答えはNoです。

ここで必要となるのがROMにおける『』という考え方です。
「最大で何度曲がったか」ではなく、「どれだけ楽に・スムーズに曲げられるか」ということです。

仮にAさんの膝関節屈曲ROMが、
 ・マッサージをした状態で自動運動100°、他動運動120°
 ・マッサージをしない状態では自動運動で80°、他動運動で100°
であったとしましょう。

マッサージをしたとしても自動運動では100°しか曲がらないのでは、自転車に乗る事は難しいでしょう。
(参考;一般的に階段昇降や和洋式生活,自転車や歩行などのADLを支障なく行うためには屈曲角度120度が必要であるとされている.「竹下明里,TKA後の膝屈曲角度の予測,第53回日本理学療法学術大会,2018」より)

”マッサージをしない状態”=”リハビリがない状態”=”退院後の状態”では他動ですら100°しか曲げられないのであれば、自宅の階段を1足1段で降りることは困難だといえます。
(参考;一般的に駅の階段は段差約15㎝程度、自宅の階段は23~25㎝程度。)
(参考;階段降段時に必要な膝関節屈曲角度は段差15㎝→約80°、段差25㎝→約105°、段差35㎝→約135°、段差45㎝→約145°である。「橋本貴幸,膝関節拘縮の評価と運動療法,運動と医学の出版社,p16」より)

「………さて、この頑張って曲げた120°は退院後の患者さんのADLにどれだけ有用なものになるでしょうか?」という考えをもつことが大切ですね。大切なのは、『セラピストがいない状態でADL・IADLの自立ができるか』なのです。



筋力:『どれくらいの力が出せるか(量)』だけでなく、『全可動域で同じ様にその力を出せるか(質)』

次は筋力についてです。片麻痺などの中枢神経系の障害でよく見られる症状ではないかと思いますが、個人的にはその他にも整形疾患や筋疾患などあらゆる症例に対して持っておくべき視点だと考えています。

ここでは、パーキンソン病(以下、PD)でYahr分類4で後方への姿勢反射障害を呈したBさんの股関節伸展筋力について考えてみましょう。

MMT(右/左):股関節伸展(5/5)
※股関節伸展ROM(右/左)は(5°/5°)と制限あり。そのため、立位でベッドに上半身をもたれさせて行う変法にて計測した。

この結果を見ると「筋力は問題ない」と判断される方が多いでしょう。

しかし、ここでよく考えていただきたいのが『本当に最終域まで動かせていたのか』です。

実はBさんは最終域まで自分で動かすことができず、自動運動での股関節伸展ROMは(-10°/-10°)だったとしましょう。この場合、後方への外力を加えられて足を出そうとしても、そもそも重心位置よりも後方へ足を出す(=股関節を伸展する)力が出せないわけですから転倒してしまいます。

つまりこの場合、MMT5レベルの股関節伸展筋力を発揮できる範囲を拡大させていく必要があるという考えを持つ必要があります。

実はBさんは僕が担当していた患者さんの話です。左右後方への姿勢反射障害が著明で転倒を繰り返していました。僕も初めは筋力には問題がないと思い込みROM拡大を中心に取り組んでいましたが、ある時筋力に『質』が伴っていないことに気づきました。
その後、筋力が発揮できる範囲を拡大するよう治療方針を変更したところ、Yahr分類4(姿勢反射障害が高度に出る段階)であるにもかかわらず、左右後方への立ち直り・ステップ反応が見られるようになり、転倒が大幅に減ったという経験をしました。



まとめ

ROMも筋力も評価においては『量』を記録し、変化を追うようにできています。もちろんこれは客観的に対象の変化を追っていくためにとても重要なことです。
しかし、上記のように『量』はもちろん『質』が伴っていなければ患者さん・利用者さんの生活の質を上げることができません。

今回はそのことを頭の片隅にでも置いていただけると幸いです。



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