見出し画像

新しい公園のユーグーズ

近所の公園の工事が終わり、
きれいな芝生と真新しいコンクリートが私を迎え入れてくれた。

子供の頃よく遊んでいた場所。

園内を少し歩くと、
子供連れの家族やブレイブボードに乗った小学生で溢れかえっており、
寂れた公園が一気に息を吹き返した、そんな息吹を肌で感じた。



見たことのない遊具を遠目から眺める。


遊んでみたいなと思ったが、時すでに遅し。私はもう30歳だ。

悔しい。見て遊ぼう。



円形の遊具に目が留まる。


ドーナツ状の遊具で、その天板の上を歩くのだが、
ハムスターの回し車のように、段々と早く回っていくのだ。

これです。



男児が恐る恐る乗り始め、ゆっくりしたペースで上を歩いている。

しばらくしてコツを掴んだようで、段々とスピードを上げ、
それをランニングマシーンのように回転させ始めた。


(大丈夫か?結構早いぞ?)


案の定、
ギュルンと回転盤に足を取られ、地面にみぞおちを強打。

上手く息が吸えずに泣きだしてしまっていた。
すぐにお父さんが駆け付け、「ほらな」と呟きながら
背中をさすってあげていた。




これは凶悪な遊具が出てきた。



私はワクワクしていた。


男児には悪いが、古今東西"遊び"というものにはリスクがつきものだ。

全国のわんぱくキッズがスリルを求め
あの遊具の上を我を忘れて走り、一度は落下し泣かされる。

しかし、
あの回しているときの高揚感が忘れられず、
また挑戦してしまうのだろう。


「子供たちには強く生きてほしい」

そんなありきたりな結論を出したところで、
誰に格好つけているのか分からない角度を仰ぎ見ながら、
私はその場を後にした。



数日後の夜。
近所の食料品店へお酒を買いに行った帰り、
たまたまその公園を通った。

涼しい風と、人っ子一人いない静寂が不思議と心地良く、
ベンチに腰を掛け、缶ビールをすすることにした。


足を組んで、一息つく。




円形の遊具に目が留まる。


僅かに高鳴る心臓の鼓動。



そそくさと、周囲に人がいないか確認する。




(よし。遊ぼう。)



そろりと近づき、遊具に足をかける。
みぞおちを強打した彼を思い出した。


(私が無念をはらしてやるからな。)


ぐっと右膝に力を入れ、
段差を上るように、遊具に乗る。




(あっ)




軸足が斜めに滑り、横向きに落下。
膝強打。激痛。砂まみれ。



私はすぐさまその場を離れ、
変な駆け足で帰路に着いた。




溢れた涙は止まらなかった。



(買い物袋はベンチに忘れた。)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?