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チャットサイトで出会った物書きさんとの出会いと別れ


9年も前の出来事を、少し大げさですが、宝物のように今も心に閉まっています。

でも、急に話したくなったので、書いてみることにしました。29歳になる私が、夏が近くなると毎年思い出す、ネットでのとある小さな出会いと別れについて。


自宅のパソコンでネットが出来るようになったのは、みなさんいつ頃なんでしょうか。私は2005年、当時14歳、中学2年生の頃でした。

それまでは、インターネットは学校のパソコンか、友達の家でしか出来ないものでした。それが、14歳の時に自宅でもインターネット環境が整って、いつでもネットが出来るようになりました。

かといって、ネットで何をするでもなく、たしか当時はYahoo!キッズなんかでゲームをしていたような気がします。懐かしい、Yahoo!キッズ。

家でネット出来るようになったんだ、と当時の親友に話したところ、その子が私にとあるチャットサイトを教えてくれました。今思うと、ネットに対する知識がそんなになかった私が、よくすんなりとチャットサイトなんか訪れたなぁと思います。

チャットを知らない方もいると思いますが、チャットとは、ネット上の部屋(ルーム)に入り、その時その場にいる匿名の者同士で会話をするのです。

チャットサイトであるものの、いわゆるチャットだけをするサイトではなく、そこには「お絵かき掲示板」とか「ポエム・小説掲示板」とか色々な掲示板があって、その名の通りイラストを投稿したり、ポエム(詩)や小説を投稿したりするコミュニティもありました。

そして私がハマったのは、そのコミュニティのほうだったんですね。

なので、チャットはほとんど経験がありません。2~3回チャットルームに入って会話した記憶があるんですが、たしか、こんにちは?こんばんは?を略して「こん!」というのが挨拶だった気がします(おはよう、だったらおは!だったのかな)。

はじめに興味を持ったのが、お絵かき掲示板でした。もともと趣味でアナログイラストを描くことが好きだったんです。慣れないながら、マウスでイラストを描いて、1日1回しか投稿してはいけないルールを守りながら、こつこつ投稿して、地味にスキルを磨き、イラスト仲間も増え、楽しい時間を過ごしました。当時は「しぃペインター」というお絵かきツールを使って、一生懸命描いてました。


そして当時、どういうきっかけかは覚えていませんが、詩や小説(といっても、情景描写もほとんどないような、セリフが多い物語)を書くことにも興味を持って、ポエム・小説掲示板にも投稿するようになりました。

今、私がこうして文章を書いている原点かもしれません。

イラストは友人に見せることはあっても、詩や小説を見せるってけっこうハードルが高い。でも、どこかに披露したい。そんな気持ちもあって、自分のことを誰も知らない、匿名で投稿できる掲示板がベストな場所だったんだと思います。

初めて投稿したのは、向日葵をテーマにした詩でした。データは消えたけど、なんとなくの内容は覚えてます。向日葵の気持ちになって、向日葵としての一夏の人生を書きました。我ながら、面白い視点で書くじゃん?と思ったり。初投稿のわりにコメントをたくさんもらったのが嬉しくて、それから詩は良く投稿するようになりました。

ちなみに、当時中学2年生。がっつり厨二病を患っていたと思います。

でも、だからこそアイディアがものすごく浮かぶんです。書いても書いても、次から次にアイディアが浮かんで書くのが本当に楽しかった。パソコンを開けば自然と指が動いて詩を書いていました。

そして、小説(さきほども書いたように、ちゃちな物語)も同じように投稿しだして、コメントをそれなりにもらえたことが嬉しくて、投稿頻度を増やしていきました。

あまり覚えていないんですが、たしか、初投稿はいじめをテーマにした作品で、苦難に立ち向かう主人公の物語を書いた気がします。そんなハードな内容ではなく、子ども同士の喧嘩の延長戦のような話。

これまた初投稿のデータは残ってません。が、詩も小説も、実は途中からデータ保存するようにしたので、今でも膨大な量のデータが残ってます。恥ずかしいので読み返すことはほぼないですが、無くなるのも寂しいのでUSBにバックアップは取ってます。あと、たまに読み返したくなることがあります。数年に1回くらい。

なんか、恥ずかしいんですけど、それは作品としての未熟さが恥ずかしいなぁというだけであって、私は厨二病を患っていた自分のことを恥ずかしいとか、黒歴史と思う感覚はあまりないです。独特の青臭さって、あの頃にしかないと思うので結構好きなんです。

でも、未熟な作品と思う反面、今では絶対に書けない!と即答できるくらいの、まっすぐな、勢いのある作品がたくさんあるので、若いエネルギーってすごいなと感じます。

話は逸れましたが、その小説掲示板、別にすごく専門性の高い掲示板ではなかったので、当然小説のクオリティも低かったです。だいたいが、冒頭で登場人物をざっと書いて、あとは数行の情景描写を挟みながらほとんどが登場人物の会話だけで進行するような、台本のような小説がほとんどでした。

でも、その中でもたまに、プロの小説家さんのような作品を投稿される方もいました。

とある日、珍しいハンドルネームと、小説のタイトルを目にしました。初めて見かける方だったんですが、コメント数がわりと多く、コメントが定期的にあるおかげで、いつも掲示板の1ページ目にいました。

掲示板は、全部で3ページまで遡れて、3ページを過ぎたものは過去ログへ行ってしまいます。当時はコメントがつくと新着扱いになり、過去ログへ流れず1ページ目に表示されていたので、定期的にコメントがあるということは、ずっと1ページ目の上位に居るわけで、当然目に留まる頻度が高くなります。ハンドルネームも珍しいし、なんだこの人は?と思って、興味本位でその方の小説を読んでみました。

内容は覚えていません。(なんということでしょう)。

ただ、コメント欄に「お久しぶりです!」「おかえりなさい!」「また新作読めるの楽しみにしてます!」といったコメントが多数並んでいて、どうやら私がこのチャットサイトを知るよりもずっと前から、ここに出入りされている方らしかったんです。


その時、私はなぜか、私はその人と親しくなれたらいいなと思ったんです。なんででしょうね。もしかすると、嫉妬もあったのかもしれません。この掲示板でこんなに人気だなんて、負けてられない、みたいな。

それから、親しくなるための近道として、その方が新しいシリーズの小説を投稿し始めた時、私は毎回欠かさずコメントをしに行きました。今思うと、その行動力がすごい。いくら匿名とはいえ、感想を投稿して認知してもらおうとしたその勢いがすごい。今なら絶対にしません(いや、出来ない)。

そして有難いことに、その行動力が実って私はその方に認知してもらえ、私の小説にも感想を送ってくださるようになるなど、割と親しい関係になれました。すごく嬉しかったのを、今でも覚えています。

その方が書かれていた小説の作風としては、私の知る小説家さんで例えるならば、豊島ミホさんや朝井リョウさんのような作風でした。

高校生の、日常を切り取ったお話。恋愛話なんですけど、その当時流行っていたような携帯小説みたいに劇的なことが起きるでもなく、ただ普通の高校生が、普通に学校生活を送っていて、恋愛をしている。それだけの話なんですけど、その普通の中にある、当人たちだけの特別さ、みたいなものを鮮明に感じられる作品で好きだったんです。あと、タイトルも上手につけられていて、目を引きました。

実は2作だけ、当時のその方の作品をテキスト保存しているものがあります。自作の詩などを保存していたフォルダに保存しているのを発見しました。なぜその2作を保存したのかわかりませんが、1作は読み切り作品、もう1作はシリーズものの第1話(でもこれは、2話以降はたしか更新されなかった気がします)。

今読み返しても、すごく好きだなと思います。褪せないです。そして、これを私とそう年の変わらない方が書いていたということにびっくりします。

その方は、たしか私よりいくらか年上だったと思います。私が中学生のとき、高校生くらいだったような。何かの拍子で、学生であると話されていた気がします。性別は男性でした。

でも今思うと、結局はネット上での情報なので、もしかしたら年齢も私と近くなかったかもしれないし、性別も女だったかもしれないし、その方がどんな方なのか、私は全然知らないのです。

シリーズものから短編まで、その方が掲示板に現れるたび、私は嬉しくてすぐ読んで、コメントを残していました。私自身は毎日のようにそのチャットサイトを覗いていたし、暇さえあればイラストや小説、詩などを投稿していたんですが、その方は小説の投稿がメインで、しかも私ほど投稿頻度は多くなかったので、見つけた時は「やっと会えた」感が強く、ものすごく喜んでました。

そうしてゆるやかに交流を続けていましたが、月日は流れ、高校2年生になる頃くらいから、私はそのチャットサイトに通うことが減っていきました。

なにかトラブルがあったとか、明確な理由があったわけではないんですが、しいていえば、イラストも詩も小説も自信がなくなり、次第に離れて行ったというかんじです。今思うと、スランプだと思います。あとは、受験も控えていましたし、チャットサイト以外に取られる時間が増えてしまったのも原因だったかもしれません。

生活の一部になりつつあったチャットサイトを離れ、気づけば1年くらい離れていたと思います。その間、まったく通っていなかったというわけではなく、たまに覗いたり、思いつけば作品を投稿したりはしていました。でもその方に会うことはほとんどなく、もともと投稿頻度も多くない方だったので、会わなくなるとめっきり会わなくなりました。

そうして、だんだんと見知った顔も減っていき、極めつけにはチャットサイトの管理人さんが変わってサイトの名称が変わってしまい、通いだした当初に比べるとそのチャットサイトの仕組みも随分変わってしまいました。過渡期だったんでしょうね。

それからまた月日は流れ、私は無事に受験を終えて大学生になり、新生活をスタートさせていました。

高校生の頃とは違う自由さの中で楽しく過ごし、パソコンを開いてすることといえば動画を見たりブログを書いたりで、そのチャットサイトには通わなくなりました。

チャットサイトの存在すら、忘れていたんじゃないかなというとある日、2011年の7月。はじめてチャットサイトを訪れてから、7年が経っていました。なにを思ったか、私はそのサイトをふと覗いてみたんです。そういえば、今ってどうなってるんだろう、と。何かを投稿する気は全くなく、ただ単純に、見てみようかな程度のノリで訪れました。

訪れてすぐ目に留まったのは、トップページにあった「閉鎖のお知らせ」。

詳細を見ると、1~2週間くらいで閉鎖します、ということでした(実際は具体的な日にちが記載されていたと思います)。無くなることってあるんだ、と、漠然とショックを受けたのを覚えています。

もうずっと訪れていなかった場所ですが、私にとっては「その方」と出会った場所であり、思春期の自分を表現できた唯一の場所でもあったので、やはりショックでした。

でも落ち込んでてもしょうがないので、だったら最後に何か投稿をしないと、という思いになりました。もう随分と投稿していなかったので、良い作品を作れる気はしなかったんですが、閉鎖するのを何もせずに見ているのも嫌で、とにかく何か書かなければ、と勢いで書きました。

小説はネタが思い浮かばず、イラストは腕がなまっていたので、私が選んだのは比較的すぐに書ける詩でした。

投稿したあとの自分のコメントを、私は保存しています。そこには、あとがきとしてこんなメッセージを残していました(長いので、一部割愛)。

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このサイトには本当に本当にお世話になりました。
もともとはお絵かき掲示板から入って、気づけは詩や小説の投稿もして。
絵以外の表現方法を教えてくれた大事な場所です!

そして、ここで名を上げるのはどうかと思いますがどうしても書きたいので。

●●さん(「その方」のハンドルネーム)。
ファンになったのは割りと遅い方でしたけど、この掲示板で一番大好きな作家さんでした!見ているかは分かりませんが、本当にあなたの小説に会えて掲示板のみではありますが交流も出来て楽しかったです。
いつかまたどこかでお会いしたら、その時はよろしくおねがいします!
それではまた!

というわけで最後だからとめちゃくちゃですが、このサイトを教えてくれた友達、そしてお世話になった7年間、出会えた方々、すべてに感謝してます。

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ネット上の出会いなので、当然その方の連絡先を知らなかった私には、その方への感謝を伝える場がこのあとがきにしかなかったんですね。

なので、本来のあとがきは作品について「こんな思いで書きました」とかを書くスペースだったんですが、思いっきり私信のメッセージを残しちゃいました。どうせ閉鎖するなら、いっそ何でも書いてしまえ、そんな気持ちだったと思います。

その方が、今もこのサイトへ来ているかどうか私には分かりませんでしたけど、直近の投稿歴からも名前は見当たらなかったのと、昔私が通っていたころから、そんなに投稿頻度が多い方でもなかったので、おそらく今はもう訪れていないのではと思いました。

私が大学生になったということは、その方はもしかしたら就職されるかどうかくらいの年齢だったでしょうし、もうこの場所に来るような年齢でもないか、とも思いました。

私みたいにたまたま訪れない限り、このメッセージは読まれないまま過去ログへ流れていくだろう、と思いました。

それから数日後にサイトは本当に閉鎖しました。

しばらくは、閲覧だけできる状態にされていましたが、それもそう長くはない間に終わり、チャットサイトを検索しても、検索結果からも無くなってしまいました。

かくして、私の思春期を過ごしたチャットサイトはこうして終わりを迎えたわけですが、サイトが閉鎖する本当に数日前、私は1度だけサイトを覗いたことがあります。最後に投稿してから6日が経った日、自分の書いた詩を誰かが読んでくれているだろうか、コメントは来ているだろうか、と気になりまして。

というのは建前で、本当は「その人」が来ていたら、という淡い期待を抱いていました。

自分の作品を探して、ギリギリ過去ログへ流れていないのを確認し、コメントがついていることに気付いた私はそっとボタンを押し、コメント欄へ飛びました。その人が、来ていました。

そうして、こんなコメントを私に残してくれました。これが最後のメッセージだと思って、コメントを保存していました(これまた一部割愛)。

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こんにちは、▲▲さん!(私のハンドルネーム)

虫の知らせでしょうか。
もうずっと開いていなかった○○(チャットサイトの名前)をどうしても開きたくなり、開いたところ閉鎖のお知らせ。

閉鎖という言葉の意味と、その言葉がもたらす現象を思うと、自然と▲▲さんを含める、交流のあった作家さんたちのことを思い出していました。

▲▲さんと同じく、自分もこの掲示板と共にたくさんの素敵な方々と出会い、表現と出会い、感性豊かな時期をこのサイトと歩んできたように思います。

当時、何もかもが新鮮で、何に対しても不安や期待を抱き、常に心のにパワーが溢れていた僕達。はけ口にも似た、表現する場をここは与えてくれました。

そして作品として自分の内から世界へ排出したとき、それに頷く人、受け入れてはくれない人を与えてくれたのもここでしたね。

▲▲さんは僕の中でとても印象深い方です。

まだまだ人生も長く、可能性は自分次第で広げていけるものだと思っています。同じ時代に生きている限り、ご縁あらばいつか出会うことも叶うでしょうね。

その時まで!
今までありがとうございました。
いつかお会いしたときは、迷わずお声掛けくださいますよう^^
僕も▲▲さんが大好きです!

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私もこの方も、もうずっとこのサイトに来ていなかったのに、不思議な偶然って起きるんだなと思いました。出会いもこの場所で、そして別れもこの場所で、こんなに綺麗に終れたこと、この巡り合わせに私は胸がいっぱいになりました。

こうして、本当の本当に終わりを迎えました。

この2011年のお別れを最後に、私はこの方を別の場所で見かけたことはありません。この広いネットの海で、見つけられたらそれこそ奇跡です。今、なにか文章を書かれているのかもわかりません。

でももし、私が手に取った小説の作者が、実はこの方だったら?

なんて、ちょっとした期待を持ちながら私は本屋で本を買うし、この広いネットの世界で、またお会いすることが出来たら?なんて限りなく無に近い希望を、9年が経つ今も抱いてます。

夏が近づくと思い出す、私のはじめてのインターネットの思い出です。

#はじめてのインターネット

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