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日本の宇宙開発の発展に!経済産業省からの委託業務「ロケット技術開発」レポート


こんにちは!インターステラテクノロジズ(以下、IST)広報チームです。

最近、ISTだけでなく、多くの民間企業が宇宙開発のフィールドに参入しています。そんななか、国が民間の優れた技術や民生品を活用しながら、宇宙産業を活性化させようという動きを行っていることをご存知ですか??
今回は、なかなか知られていないインターステラテクノロジズが受けている経済産業省(以下、経産省)からの宇宙産業発展のための事業委託について紹介させていただきます。


日本の宇宙開発のさらなる発展に向けて

長年、宇宙開発は国の科学技術発展や国家安全保障の理由などから国主導で行われてきました。開発にも莫大な資金がかかるため、従来は幅広い民間企業が参入するのは厳しい業界でしたが、宇宙活動法などの法整備や、安価で最新の技術を使った民生品も活用しながら衛星やロケットを作れるようになったこともあり、民間企業の資金調達でもロケットが作れる時代になってきました。

ロケットは自動車などと同様に工業製品ですが、製造業が得意な日本は、技術力・サプライチェーン・人材・ロケット射場などの立地優位性などから、宇宙開発産業で世界トップレベルになれるポテンシャルがあると言われています。

近年は国としても、民間の優れた技術や民生品を活用しながら、低価格で高品質なロケットや人工衛星を作り、日本の宇宙産業を活性化させようという動きが活発化。経産省もその役割を担い、近年では「宇宙産業技術情報基盤整備研究開発事業」を行っています。

<2020年度事業目的>
本事業は、ロケット打上げサービスの低コスト化、高機能化、短納期化等による国際競争力の強化を目指し、我が国の優れた民生部品・民生技術を活用した、性能及び価格に優れた機器及び部品、並びにその製造や運用技術の開発を行う。特に、今後、市場の拡大が見込まれ、国際的な開発競争が進む超小型衛星用ロケットシステムの実現へ向け、その国際競争力の強化に資する、桁違いの低コスト化につながる研究開発を行う。


参考)宇宙産業技術情報基盤整備研究開発事業の概要
https://www.meti.go.jp/main/yosan/yosan_fy2020/pr/ip/sangi_13.pdf

何百回もの燃焼試験、ロケット打上げ実績から事業受託へ

ISTは2015年度から、経産省の「宇宙産業技術情報基盤整備研究開発事業」の委託先となっています。
2015年度以前、ISTは民間企業として独自にロケットの開発を進めており、ロケットエンジン燃焼試験を何百回と実施。また、小型のロケット打上げはもちろんのこと、LEAPという姿勢制御の実験ロケット(現在打上げている観測ロケットMOMOは、機体自身が自分の姿勢をコントロールするためにエンジンを振って姿勢を保って飛びます)など何機もの打上げなど、国内では他に例の無い実績がありました。

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2011年に実施した最初の試験機「はるいちばん」の打上げの様子

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LEAPの打上げ実験

これまでの常識に捉われず、自分たちで1から技術を開発する過程で得られるイノベーションや創意工夫。民間ならではのコスト意識とスピード感。
日本の宇宙産業技術の発展のために、私たちが貢献できることがあるのではないか。
そのように感じて、ISTで出来ることを経産省に提案したところ、今後の実績が期待され、本事業の受託が決定しました

これまでの事業の受託内容と成果

2015年

事業内容:

 ①高い燃焼効率を狙った1,500N級エタノール・液体酸素のインジェクタの開発
②推力10kN級エタノール・液体酸素ロケットエンジンでの長秒時燃焼を可能にするアブレーション冷却システムの開発
③推力10kN級エタノール・液体酸素ロケットエンジンの燃焼器の開発

■事業成果:

①5種類のインジェクタ設計と2種類の燃焼室設計を評価し、開発目標とした燃焼効率を達成し得るインジェクタの開発を完了した。

②、③ 3種類の設計を燃焼試験によって評価し、燃焼時間100秒に耐え得るアブレーション冷却カーボンノズル型燃焼器の開発を完了した。
本開発で得られたロケットエンジンの試験結果を用いた飛翔計算を実施し、観測ロケットの実用化に供することの出来るシステムの要素の実証ができたことを示した。


委託費:1800万円


2016年

■事業内容

①ガス発生器の試作開発
②電動アクチュエータ駆動の水作動ポンプ性能試験機及びポンプの基礎研究モデル の設計・製造・試験

■事業成果

①ガス発生器の基礎研究モデルの設計を行い、燃焼実験で性能の取得および各種デバイスの評価を行うことで実機の設計に有効なデータを取得した。

②ポンプの性能を測定できるポンプ性能試験機の設計と製造を行った。また、軌道投入が可能となるロケットエンジンシステムに供するポンプの基礎研究モデルの設計・製造を行い、ポンプ性能試験機で性能の試験を実施した。LOX側は予定の圧力、流量において、実機の設計検討に必要な性能を取得し、また、3Dプリンタ技術を用いて製造したインペラを試験に供して性能を取得し、表面粗さを向上させることで機械加工による製造品と同等の性能が得られることが示唆された。

委託費:1800万円


2017年

■事業内容

①軌道投入用ロケットエンジンシステムの高圧力なガス発生器の開発
②軌道投入用ロケットエンジンシステムのタービンの試作設計・製造・試験

■事業成果

①軌道投入用ロケットエンジンシステムの高圧力な燃料リッチ2液式ガス発生器の基礎研究モデルの設計を行い、燃焼実験で性能の評価を行った。また、ターボポンプと組み合わせた熱走試験で実際にタービンを駆動させ、出力を計測した。開発の成果として、汎用材料(一般ステンレス鋼)を用いて、また一般の工場で製造可能な設計で、タービン駆動に供することのできる高圧ガス発生器の動作実証を行った。国内独自開発のものとしては実機に搭載実績のない炭化水素系 GGサイクルエンジンの実用化に向けて大きく前進した。

②軌道投入機用ロケットエンジンシステムを前提とした、熱走試験用の超音速タービンを設計製造した。タービンの負荷装置として、28年度の開発成果を活用した、3Dプリンタ技術を用いたポンプを供した。電動モータによるポンプ性能取得、ベアリングやメカニカルシール等の健全性を確認する冷走試験を経て、ガス発生器と組み合わせた熱走試験を行い、目標u/c0におけるタービン効率の取得を行った。

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委託費:1800万円


2018年

■事業内容

①60kN級高燃焼効率のロケットエンジン燃焼器の開発
②60kN級ロケットエンジン燃焼器の冷却システム開発
③60kN級GGサイクルロケットエンジンのガス発生器の開発
④60kN級GGサイクルロケットエンジンのターボポンプ開発
⑤CFRP材料の評価試験
⑥FSWで接合した試験片の曲げ加工試験

■事業成果

①、②一般流通材料を多く用いた燃焼器を製造し、着火特性の不明な高リスクの実験で利用できる、経済的かつ短納期で準備可能な実験環境を整えた。この燃焼器で、今後のロケット実機を見据えた燃焼効率の向上に向けて良好な値を得た。
また、低リスクな水/実液流し等の予備実験を利用して、着火不良が原因で生じる異常始動によって供試体が破損するリスクを低減した。

③昨年度開発の実績と比較して燃焼効率や 温度効率は同等の値を維持しつつ小型軽量化した燃焼器を、3Dプリンタを用いた積層加工品と、民生部品および一般流通材料の加工品との組み合わせで製造した。製造された燃焼器を利用して、昨年度開発の課題であった燃焼器の焼損が起きないことを長秒時燃焼実験で実証した。さらに、昨年度実績よりも良好な温度均一化を達成した。

④詳細設計としてターボポンプ形態の検討および、長納期となる軸受、軸シール部品の仕様検討まで進めた。

⑤CFRP材料の評価試験の種類が少なくて済む単一方向積層板の強度試験結果を用いて、積層構成を 変化させた積層板の引張、圧縮強度を予測するためのデータを取得した。

⑥実機に使用するアルミ合金にFSW接合を適用し、基礎的な物性を取得し、曲げ加工 試験を行った。非破壊検査等によりタンクとして利用する際に問題となる傷や歪みが発生しないことを確認した。曲げ加工した材料を製缶しサブスケールタンクを製造し、FSWを取り入れたタンクの生産工程を検証した。

委託費:2997万円


2019年

■事業内容

①60kN級ロケットエンジン燃焼器の冷却システム開発
②60kN級GGサイクルロケットエンジンのターボポンプ開発
③CFRP材料の評価試験

■事業成果

① 水独立冷却方式による燃焼室熱負荷の測定、CNG推進剤を用いた始動停止シーケンスの確立、を達成することができた。また、冷却水吸熱量、溝圧損、燃焼器の詳細設計なども、設計時の前提が正しいことを確認することが でき、再生冷却燃焼器設計に向けて必要な知見が得られた。


②60kN級GGサイクルロケットエンジンのタービン開発について、ターボポンプシステム について仕様変更および再設計を実施し、メタン系燃料用タービンの概念設計を完了した。ターボポンプシステム全体の開発、およびタービンの性能確認試験のための有益な知見が得られた。

③UD材、調和積層材、荷重方向強化材、2方向強化材、3方向強化材、疑似等方性積 層材における引張強度、圧縮強度、曲げ強度およびファスナー強度のデータを取得した。実験値と計算値を比較することで、精度良く予測可能なもの、予測が難しいもの、及び試験方法に改善の余地があるものを明らかにした。

委託費:5247万円


2020年(今年度)

■事業内容
①60kN級ロケットエンジン燃焼器の統合システム開発と地上燃焼試験
②CFRPを活用した複合構造の評価試験
③実機スケールの推進剤タンクシステムの開発モデルの製造・評価

■委託費5300万円


通常ロケットエンジン開発には、数百億〜数千億円

ISTでは経産省からの業務委託で、2015年から6カ年にわたって数千万円の業務委託費を受託しながら、ロケットエンジンの要素技術の開発を進めてきました。しかしながら、通常ロケットエンジンの開発には数百億〜数千億円、開発期間5年以上というように、莫大な資金と時間がかかります。

<世界のロケットエンジン開発>

F-1ロケットエンジン:2000億円
アメリカのロケットダイン社が開発した大型ロケットエンジンで、世界一大きいロケットエンジンと言われています。開発には約2000億円がかかったそう。

図1

引用元:Wikipedia

スペースシャトル メインエンジン:150億(1機あたりの製造費)
みなさんがよく知っているNASAのスペースシャトル。メインエンジンの製造費はエンジン1機あたり50億円。スペースシャトルには3機のエンジンが必要なので、合計150億円のコストです。しかもこれは開発完了後の製造費なので、開発費にはさらに何倍もの費用がかかっているであろうことが推測できます。

図2

引用元:Wikipedia

ロケットエンジンは宇宙産業としての基盤技術であり、日本としてきちんと保有するべき技術です。しかしながら開発リスクや開発コストが高く、国内に無い技術を新規に開発するのには民間単独では困難が伴います
現在、各国が成長産業である宇宙産業において戦略的に民間への投資を行っていますが、日本はアメリカや中国に対して投資が不足しています。拡大する市場に対して競争力を持てるかどうかは日本の発展にも大いに繋がります。
また、私たちも日々どのように最小限のコストでスピード感と信頼性を両立させるのかに知恵を絞っています。

事業の成果は、日本の宇宙開発に還元される

本事業によって得られた成果は、国の成果となります。そのため、得られたデータや試験結果、設計図面など全ての技術成果は国の宇宙開発の発展に活用されます。また、民生分野における部品・技術を活用した宇宙機器のQCD(品質・コスト・納期)の向上は日本において待ったなしの課題です。本事業ではロケット技術の開発によって日本の宇宙産業の競争力強化・裾野拡大が図れるように期待され、ISTとしても期待に答えられるよう努力しています。

日本の宇宙産業の競争力という観点では、ロケット打上げコスト低減による宇宙アクセスの改善が極めて重要な課題です。
ISTはこの大きな課題に正面から取り組んでいます。民間企業として国内初の実績も保有しているISTはイノベーティブな技術開発が可能な組織であると自負があります。これは国の研究機関であるJAXAやエスタブリッシュスペースと呼ばれる既に実績のあるメーカーとは異なる手法での開発が可能であるからです。

ISTの開発スタイルは、「オープンな開発」。これまでもテレメトリデータをGitHub(https://github.com/istellartech/OpenMOMO)にて公開するなど、オープンイノベーションの考え方に基づき、様々な情報をオープンに開示することで、技術開発を加速させてきました。本事業によって得られた成果が国に還元されることも、大変意義のあることだと感じています。

また、本事業で開発しているのは炭化水素燃料の液体ロケットの技術。炭化水素燃料ロケットはSpace XやBlue Origin、Rocket Labなどといった世界の勢いのあるロケット企業も活用しているもので世界の主流でありながら、国内で現在その技術を活用して打上げ運用を行っているのはISTのみです。観測ロケットMOMOでは本事業で得られた知見がふんだんに使われていますし、このおかげで3度目の打上げで国内民間企業では初めてとなる宇宙到達という結果を出すことができました。

私たちは、世界で闘うロケットを作ることはもちろんですが、日本の宇宙開発を加速させ、宇宙開発において世界トップに押し上げたい、その一端を担いたい、と考えています。

今後の開発についてもぜひご期待ください!


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<みんなのロケットパートナーズ>
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詳しい内容はこちらをご覧ください!
http://www.istellartech.com/minroke

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皆様のご応募、お待ちしております!

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