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丸石道祖神の怪~物事は自分の期待どおりに行かない恐ろしさについて~


 私の住む町の道祖神は、丸い。
 本来、道祖神は男女の双子の姿をしている(多くの場合、体はひとつに繋がっている)
 山梨や長野の一部だけ、まん丸の石を道祖神として奉る地域がある。

 私は、この丸石道祖神が、小さい頃から好きだった。

 理由は、その理由がわからないところだ。

 小学生の時に母に聞いたら
「うーん、長野や山梨には海がないから、真ん丸になるほど角が取れている石は珍しかったんじゃないかな」
 と答えられた。

 成る程、納得感のある答えだった。

 しかし、大人になった私は、もっと真実に近づきたくて、自分で調べた。幸いインターネットは私の手のひらの中にある。
 真実を探るためにアマゾンの奥地へ行かずとも、スマホを起動すればすぐにわかるだろう。
 半分暇潰しのつもりで、私はGoogle先生に
「丸石 道祖神 なぜ」
と聞いてみた。
 
 これがどこにも載っていないのである。

 これだけインターネットが広まった世界で、こんなに情報がないことある?
 丸石道祖神、そこにあるのに?あっちにもあるのに?なのにこれに関するネットの記述、ほぼゼロ??

 そんなことある???ソ連のスパイか何か????

 もしかしてアレは、私の一族にしか見えていない神の姿なのだろうか。他所で丸石道祖神のことは言わない方が良いかもしれない。半ば本気でそう思った。

 孤独に調査を続けていると、ある一冊の本に出会った。絶版になっているこの古い本が、どうやら丸石道祖神についての唯一の書籍のようだ。

 地元の図書館にあるかなあ。そう思いながらスマホを閉じた。眼がつかれた。私の瞼の裏には膨大な量の、意味のうっすーい文章と、その本のタイトルと作者名だけが残った。

 その作者名と再会したのは、なんと実家だった。

 実家のトイレの本棚に、見覚えのある作者名の真新しい本が置いてある。本のタイトルは違うが、間違いない。私の愛する丸石道祖神について、唯一の本を執筆したあの作者。その名を、中沢新一。

 母!!!!

 私はトイレを飛び出し、手洗いもそこそこに母へこの本を借りたいむねを伝えた。

 母は私の勢いに圧されつつ、快諾してくれた。内容が難しくて読み進んでいないらしい。

 私はその本「アースダイバー神社編」を、ゆっくり読んだ。いつも読んでいるエンターテイメント性に溢れた小説とは訳が違う。日本の聖地について、様々な神話や伝説、歴史を用いて説明がされている。難しい。一行読むことに消費するカロリーが高い。

 諏訪の話がはじまったあたりである。

 私の、積年の疑問の答えが、そこに書かれていた。

 以下、ネタバレ。丸石道祖神の謎を自力で解き明かしたい御仁はブラウザバックして欲しい。

えっ…… 

 弾かれたように、私は雨の降る町へ飛び出した。衝動のまま走れる範囲の中で観測できる丸石道祖神のもとへ行く。

 

 以下、必要な人は心でモザイク

うん。

うん…

 丸というシンプルな形で、他に主張がない感じが好きだった。
 小さな細胞でも、広大な宇宙でも、内包できてしまう自由な形だと思った。
 かわいくて、プリミティブで、丁寧な形だと思った。

 もっと深い意味があって欲しかった。
 性とか人間とか、そんな生き物の匂いのしない、もっと普遍的で、おおらかな存在であって欲しかったのだ。

 でも、私がいくら望んでも、例えば適当な意味を付け足して溜飲を下そうとしても、意味はない。

 私自身が意味を知ってしまったから。
 知らなかった頃には戻れない。

 意味を知らなかった頃は、神秘的で得体の知れない、でも少しいとおしい、人とそうでないものとが友達になれるような、ここを目印にしてちょっとだけ会えるような、不思議な場所だった。

 睾丸がモデルだとわかった今、知る前の気持ちには戻れないけれど、答えを知る前に自分の望む答えを心の中に期待してしまうのは愚かだなーと思う。

 これに懲りず、気になるものはどんどん探求していきたいし、答えが私の望んだものとは違ったとしても、貪欲に得ていきたい。

 知識に関しては、かなり欲張りなタチだと自覚している。

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