見出し画像

たくさん電車に乗る旅②(鳥取編)

たくさん電車に乗る旅①のつづきです。


10月9日(日)

昨日は、ドッコちゃんのマンホール蓋を撮影した福知山から、宿泊地である江原に向かう電車に乗って出発を待っていたら、京都での人身事故の影響で遅れが出ていて、乗り換え客を待つため出発が15分ほど遅れるとアナウンスがあった。

遅れた乗客を待ち、パンパンになった車内がようやく動き出した。
もう少し明るい時間に江原駅に到着できると思っていたが、駅舎を出るとものすごく暗かった。駅前はかろうじていくつかの街灯に照らされていたが、わたしの泊まるホテルのある方向は漆黒につつまれていた。怖かったので、走ってホテルに向かった。

電車が遅れたので、キングオブコントに間に合うかひやひやしたけれど、1組目のネタ開始と同時に部屋に滑り込めた。周辺にはコンビニもスーパーもなかったから、山科駅のSHIZUYAで買ったクロワッサンと舞茸フィッシュフライサンドを夕ごはんにした。


7:00 出発

夜が明けて、朝になってから、こんな町だったのかと驚かされることがある。以前泊まった北海道の長万部町もそうだった。
闇につつまれていた路地には、民家やいくつかの商店が軒を連ねていた。あたりをつつんでいた黒いものの正体は、このあたりを取り囲むたくさんの山々だった。

今日は鳥取へ行く。今回の旅の目的地だ。
わたしは鳥取県に行ったことがない。鳥取に
は、砂丘とすなば珈琲があって、わたしが高校生くらいの頃にスタバが県内初上陸したというニュースで賑わっていた、という印象しかない。だから鳥取に行ったら砂丘と、すなば珈琲に行ってみようと思う。


7:14 江原駅を出発

無事、予定していた電車に乗れた。
知らない人が後ろの方で盛大に音漏れしている。イヤホンから漏れたガサガサしたなにかの音楽は、まるでラジオから流れているみたいに聴こえる。いつもなら迷惑だけど、がらりとした朝の電車だったし、旅情あるなあ、なんて思えてしまう。


城崎温泉を通過。
THE・温泉街な、川と街並みが見えて、降りたくて降りたくてそわそわしたけれど、安易に降りたところで、数時間くらい電車が来なくて後悔するのだ。今回はギリギリで宿を決めたので、城崎温泉あたりは高い宿しかなくて断念した。いつか、こういう温泉街の旅館に泊まってゆっくりしてみたい。

山陰本線のシートは、弾力はないけど、軽くてベコっとしているので、電車が揺れるとトランポリンみたいにボヨンボヨンと跳ねてしまう。
鳥取行きのこの電車はやけに大きな揺れが多くて、そのたびわたしは一人でボヨンボヨンと跳ねながら、山がいっぱいの景色を眺めた。



8:54 浜坂駅で乗り換え待ち

鳥取県まであと少しのところにある、浜坂駅で50分ほどの乗り換え待ちがあった。散歩チャンス!偶然乗り換え待ちで降り立った、全く知らない町が最高だったりするから、電車の旅はやめられない。浜坂はどんな町なんだろう。



完全に当たりだった。駅舎を出た目の前にこのゲート。曇天が似合いますねえ…

というか、その前のホームから良い予感しかしていなかった。

歓  カニと湯の町  迎


この派手な色使いと文字よ!
わたしは看板の文字などが大好きなのでたまらない。カニと湯の町なんだね。

駅前には古い商店と古い民家が並ぶ。ななめに道が入り組んでいて、どの路を行っても味わい深い町並みが広がっていた。




ちょっと面白そうな路地を発見したので進んでみる。


すると、小さな川沿いの小道に出た。
木の橋がいくつもかかっていて、小川沿いを地元のおばあちゃんがカートを押しながらゆっくりと歩いてた。この小道には、「あじわら小径」という名前が付いているそう。なんてのどかな景色なんでしょうか。

あじわら小径から外れると、広大な田んぼと山の景色が広がっていた。昨日まで人の多い電車、人の多い場所を散歩していたので、旅先でしか出会えない光景に心が洗われてゆく。こういう町とか、景色に出会うためにわたしは旅をしている。


浜坂散歩の最後に、駅前の足湯のところで良いカニに出会った。かにソムリエってなんだろう。
浜坂だけでも撮れ高(書け高)がすごくて大満足だった。もっとお散歩したいくらい。

やがて電車がやってきて、ふたたび未踏の地・鳥取へと動き出した。



10:40 鳥取駅に到着

鳥取駅には自動改札機がなくて驚いた。駅前には「OYOU」という聞きなれない名前のデパートがあった。(入り損ねたのが悔やまれる)

すぐに砂丘行きのバスに乗ってしまったので鳥取市のマンホール蓋がチェックできなかった。バスの中から歩道に設置されたデザイン蓋を見て、「はやく蓋が近くで見たい、撮りたい……」という気持ちでそわそわした。

「砂丘センター展望台」で下車。砂丘の最寄りのバス停は「砂丘会館」だけど、砂丘センターには、砂丘が一望できる展望台があるらしい。はじめは、砂丘は見下ろすよりも歩いた方がいいから別にいいや、思っていたが、そこに砂丘リフトなるものがあると知り、降りることに決めた。
リフトは、とっても乗りたい。



リフトに乗ったが、個人的にはあんまりだった。わたしが、よみうりランドのゴンドラみたいなもので砂丘の真上をビュンビュンと走行するんじゃないかと期待していたせいだ。ゴンドラと比べたらスピードも遅く、スリルもなく、周囲に見えるのは草木ばかりだった。だから、最初からリフトだって言ってるのに。


リフトに乗って5分ほどで、砂丘の入口に到着した。

さ、砂丘だ〜!!すごい!!!!!

見渡す限り、ずっとずっと先まで砂が続いていて、砂が盛り上がった丘がいくつもある。丘ではないところには、緑が控えめに茂り、川ともいえないほどわずかに水が流れた地帯がある。あれがオアシスなのだろうか。

砂丘にはたくさんの人がいたけれど、砂が音を吸収しているのか、ガヤガヤした感じはなくて静かだった。大きな砂の丘の向こうには海が広がっているはずなのに、波の音も全く聞こえない。また、砂丘は風が強いと聞いていたが、この日は風もほとんどなく、静けさが際立っていて異様な感じがした。

近くにはラクダもいた。ここではラクダに乗って砂丘を散歩する体験ができるそうだ。
ラクダなんていままで生で見たことあったっけ…?どうしよう、ラクダに乗っちゃおうかな…とドキドキしていたら、

「は〜、めちゃめちゃ良い体験した!こうくんはどう?」
「うん、楽しかったよ」

と、ラクダに乗ってきたカップルがわたしの横を通り過ぎていった。その会話が聞けただけで、わたしのラクダ欲は満たされ、ついに壮大な砂の海へと歩き出したのであった。

砂丘に足を踏み入れて、まず目に入るのが奥の方にある大きな丘だろう。「馬の背」と呼ばれているらしく、入口からだとその周辺にいる人たちは、みな豆粒大のジオラマのように見える。
ここから見ると、丘は巨大な壁にしか見えないけど、みんなどうやって登っているのだろう。
わたしもまず、馬の背のほうにいってみることにした。

砂の上は歩きにくいと思っていたけれど、そんなこともなかった。触ると、砂のつぶは小さく、サラサラしていて、いままで行ったことのある海の砂よりもキメが細かくて、特別な感じがした。歩いていて気持ちが良い。


さて、馬の背のふもとにたどり着いた。
砂丘の入口のほうからは壁のように見えていたこの丘だが、ここから見上げてみても十分に壁だ。上の方を登っている人の背中は豆粒のように小さく見える。たくさんの観光客が家族や友人たちと声を掛け合いながら、巨大な壁を登っているのが、ここに来てもまだ信じられないほど。

あまりに大きな壁すぎて不安になったけれど、わたしも登ってみることにした。
砂がサラサラしていてかなり登りづらいけれど、先人たちがつけてくれた足跡をとっかかりにして登っていくと、いくらか楽に登れる。

足跡は色が薄いものより、濃いもののほうが、たくさん踏まれていて砂が固まっているので、登りやすい。だけど、たまに色の濃い足跡がまわりに全然なかったりする。そういうときは、まっさらな砂を頑張って踏み込んでみるが、踏んだところの上にあった砂が、ズザザザッと大量に落ちてくる。足も滑って怖いし、おまけに靴と靴下は砂まみれだ。

そんなふうに苦労して登ってゆくが、登っても登っても、頂上が一向に近づかない。よし、もっと頑張って登るぞ、とだいぶ進んだ気がしても、見上げるとまだまだ頂上は遠い。
ゆっくりと後ろを振り返ってみると、気づかないうちに、ものすごく高いところまで来ていた。勾配が壁みたいで、ふもとから見ていた時よりもはるかに恐ろしい。登っても全然頂上にたどり着かないし、振り返ったら崖っぷちだし、疲れてぜーぜーしているし、とても絶望的な気持ちになった。に、逃げたすぎる…… (自分で登ったのに)

一刻も早く脱出するには、自分がはやく頑張って登るしかないので、駆け足のスピードでさっさと登り、やっとの思いで巨大丘の頂上にたどり着いた。途中でころげ落ちなくて本当によかった。


馬の背の向こうには海があるはずで、それはさっきまで不確かだったけれど、登ったら本当にきれいな、大きな海があった。




砂丘の色はまっさらだったけれど、波打ち際に近づくといろいろな漂流物があった。こちら側は凪いでいるのに、海は静かで大きな波が立っていた。いつもみたいに、海水を触ってみようとはしなかったけれど、苦労してたどり着いたこの海の波のかたちを目に焼き付けてやろうと、しばらく眺めた。



さて、海まで来たのは良いが、この砂丘を出るには、ふたたび馬の背の頂上まで登り、また降りなければならない。できるだけ勾配がなだらかなところを選んで登ったが、それでもうんざりするくらい遠くて、とても疲れた。
杖がほしいと思っていたところに、砂の中に竹の棒がかくれているのを発見した。引き出してみたが、30cmくらいしかなかったので、わたしはまたがんばって砂をよじ登った。


親子三世代と犬と一緒に来て、写真撮影をしている最高なあったか家族を見かけた。どうか砂丘のお散歩を楽しんでください、わたしはひとり、旅の大きなリュックを背負ってはるかな砂丘をあとにした。

このあとはおみやげ屋さんを見たり、ごはんを食べたり、砂の美術館に行ったりしたのですが、長いのでこのあたりで切り上げます。

「たくさん電車に乗る旅③」につづく。


🚃 蓋のコーナー 🚃


①浜坂のデザイン蓋

浜坂町は蓋も最高だった。名物を全部詰め込んだタイプの蓋だけど、バランスが良く、絵柄のタッチと鉄蓋感がたまらない。本当に良い蓋!!


②浜坂の温泉蓋

温泉の蓋なんて初めて見た!
ちなみに浜坂の町名は「新温泉町」らしい。


③鳥取砂丘前にあったデザイン蓋

左のほわほわした植物はらっきょうの花らしい。背景には先ほど歩いてきた広大な砂丘が広がる。風紋と削げた部分の描き方が美しい。雲のかたちも良いですね。