マガジンのカバー画像

room

7
運営しているクリエイター

#短編小説

9月 君が知らない君

10畳の部屋には夕陽の光芒らしき光の筋が映えており、限りなく海に似た青が地面に塗られている。住人の空想が部屋の背景に反映される。9月29日が住む世界は特殊である。愛書を開き静かな時間を過ごそうと思った矢先、コンコンと、ノック音が響く。

「どうぞ」

優しい声色に促されるまま、一人入室した。9月29日とは近しい存在の9月30日だ。

「お邪魔します」
「こんにちは、9月30日」

言わずもがな、9

もっとみる

願いと夢

「願いと夢の違い?」
僕の質問を復唱する。
「自分の力で叶うものが夢。自分の力だけでは及びもしない願望が願い」
先月より涼しい今日。縁側で団扇を強く煽ぐ君。敢えて髪留めなんかしちゃって。
「ほら、夜空の星に願いを込めるのとか。自分の力で叶うなら、流れ星にも天の河にも祈らないのよ」

乾きと俯瞰が入り混じった答えだと思った。神様によって裂かれた彦星と織姫の二人に、僕は願いを短冊用紙に書いていいのか、

もっとみる