ゆる言語学ラジオさんの『英単語ターゲット1900』の語源企画を、ゆるく(?)サポートする、オマケ的な【ゆる補修 note】です。
はじめに
語源には諸説あります。
そこが一つの醍醐味でもあり、ときには迷路に入ることもあります。
こちらの【ゆる補習 note】では、高校生の方々が英単語の勉強で悩んだときに少しでもヒントになればいいな、という思いから「わかりやすさ」と「愉しさ」、「美しさ」を基準にしながら、語源のもつイメージを<翻訳>しました。
わたしは語源が大好きなので、みなさんと一緒に勉強ができてとても嬉しいです。
それでは【ゆる言語学ラジオ『ターゲット 1900 ⑦』】で取り上げられた英単語を、ひとつずつ見ていきましょう。
* 使用教材:『ターゲット1900』5訂版
(最新版は6訂版です)
< 今回のおはなし >
ゆる言語学ラジオ「ターゲット⑦」 はこちら(↓)
*ゆる補習 note では、こちらの一覧表を使います(↓)
48. view [14] 見ること・見えるもの → 見解・眺め
オーシャンビューも、レビューも、プレビューも、どれも「見る」繋がり。
view は、たった1つのパーツでできています。
フランス語を経由してきたので、フランスの風(という名の訛り)を感じる英単語になりました。
昭和の香りただよう「ビデオ」も同語源。
英語では今でも動画のことを video と呼びますが、これは「見る」ためものというラテン語本来の意味が強く感じられるからかもしれません。
そしてテレビも同語源(television = tele- 離れて + vision 見えるもの)。
「遠く離れた場所の景色が見えるもの」というのが一目でわかる造語です。
《番組内で紹介された関連語》
《接頭辞なし》
《接頭辞あり》
アタマが変われば、時空(条件)が変わる。
《その他の組み合わせ》
《チョットついでに》
会社の経営理念としてよく使われる「ビジョン」も同語源です。
《ターゲット・シス単関連語》
view の仲間は少し多め。ターゲット①で扱われた 3. provide も含まれます。
49. situation [15] 置かれた場所 → 状況、立場
シチュエーションとウェブサイトとキャンプサイトは、どれも「置かれている」仲間。
situation は、2つのパーツでできています。
この言葉の本質部分は、前の sit- で、ラテン語 sinō =「放っておく、(〜の状態に)しておく」が元になっています。
ここに「〜すること・もの」を示す接尾辞 -ation がついています。
2つのパーツが組み合わさることで、英単語の意味がうまれます。
《派生語》
シッポが変われば、品詞(状態)が変わる。
《番組内で紹介された関連語》
ウェブサイトやキャンピングサイトの site も同語源です。
《訂正とお詫び》 2023/03/12 追記
番組内(17:11)で position と situation について「関係ありませんでした」と
テロップに表示されていますが、これは誤りでした。
position は、situation は、以下のとおり同語源とみられます。
したがって、situation や site と同語源。堀元さんの予想が正解でした。
こちらはわたしの動画チェック時のミスによるものです。申し訳ございません。
以後再発防止に努めます。
なお、今回ご指摘くださったきざはし様(https://twitter.com/kizahashistairs)、本当にありがとうございました!
《ターゲット・シス単関連語》
50. effect [14] つくり出されたもの → 効果、結果
effect は甘いお菓子「パフェ」や「金平糖」と同語源。
effect の本来の意味は「なにかをつくり出すこと」で、2つのパーツからできています。
この言葉の本質部分は後半の fect で、「つくる、する」を意味するラテン語 faciō が由来です。
たとえば factory は、製品をつくり出す「工場」ですね。
ここに「外へ」を表す接頭辞がつきます。
なにかを現実世界につくり出すことは、植物が実り(果実)をもたらすことに似ています。ここから、effect の意味が生まれました。
《派生語》
「効率と効果」のことを、英語では efficiency and effectiveness と言います。
どちらも ex- + faciō から生まれた兄弟なのですが、語の成り立ちをよくみるとこんな温度差があります。
こうしてみると、効率も効果も素晴らしい訳語のように感じられますね。
《番組内で紹介されたその他の言葉》
甘いお菓子のパフェや金平糖も同語源です。
また、お菓子や菓子店を表すコンフェクショナリー(confectionery)も同語源です。
《チョットついでに Google 論文》
リサーチ当時楽しく視聴していたゆるコンピュータ科学ラジオのGoogle 論文シリーズはこちら(↓)*番組の概要欄に論文(簡易版)へのリンクがあります。
なお、番組では「efficient系の言葉が18回登場する」と紹介されていましたが、これは私のカウントミスで、実際には17回でした。ごめんなさい!
(*テロップにて修正対応済)
《ターゲット・シス単関連語》
faciō は「ターゲット・シス単関連語」の語源のなかで最も登場回数が多く、私にとってはこちらが最強(最恐)の語源です。というわけで、今後もたくさん登場します!
なお、「ターゲット④ 30. affect」でも同語源の仲間が扱われましたので、ぜひそちらも併せてご覧ください。
51. influence [14] (天から)流れ込むもの → 影響
影響(力)と液体とインフルエンザは、同じ仲間です。
influence は、3つのパーツからできています。
この言葉の本質部分は「flu-」で、ラテン語 fluō = 流れる が元になっています。
ここに「内へ」を表す接頭辞 in- がつきます。
最後に名詞化のシッポ -ence がくっつきます。
3つのパーツがひとつになり、influence の意味が生まれました。
《シェイクスピア劇の台詞から》
ファーストフォリオには入っていませんが、シェイクスピア劇『リア王』のこちらの台詞はとても有名です。
英語で天災は disaster。天の星々の配列が乱れることを意味していました。
現代に生きる私たちが「星占い」を楽しむ感覚とは異なり、かつて西洋では天文学(astronomy)と占星術 (astrology) が相即不離だったのではないか。そんなことを考えさせられる一句です。
《番組内で紹介された関連語》
《接頭辞なし》
《接頭辞あり》
《ターゲット・シス単関連語》
52. term [13] 境界 → 境界までの範囲
こちらはゆる言語学ラジオ「春とバネ、なぜ両方springなのか-多義語パズルへの招待 #12」で紹介された単語です。(昔懐かしい映像をお楽しみください)
英単語 term は、ラテン語で「境界・限界」をあらわす terminus から生まれました。
《派生語》
《接頭辞なし》
シッポが変われば、品詞(状態)が変わる。
駅のターミナルも端子のターミナルも、今回あつかった term と同語源。
どちらも終着点や末端になっているのが共通点です。
《Terms and Conditions》
欧米では「取引約款」のことを Terms and Conditions と呼びます。
語源から「取引の適用範囲、関連用語と諸条件」といった趣きが感じられますね。
ビジネスの場では取引契約の際に取り交わし、トラブル発生時にはここに書かれた内容に照らし合わせて対応を協議することになります。
覚えておくと便利かも?
《ターゲット・シス単関連語》
53. skill [12] 分け隔てる力 → 技能、熟練
スキルは、貝殻をあらわす shell や盾をあらわす shield の仲間です。
印欧祖語まで遡ると、どれも「切る、分ける」という意味を持っていたとされます。
たとえば貝殻は2つに分かれるものが多く、外の世界と内側の世界を「分け隔てる」働きも持っています。盾も同様に外からの攻撃に耐えられるよう「分け隔てる」ものです。
この「分け隔てる」イメージが、skill の核イメージといえます。
《番組内で紹介された関連語》
日本語からは想像もつきませんが、天秤の皿や魚のウロコ、ホタテに貝殻、盾、頭皮などはどれも「スキル」の仲間のようです。(*諸説あります)
「いったい何をどう切ったり分けたりしているのだろう?」と考えながらお愉しみください。
ところでかつてネスカフェに「違いがわかる男」というCMシリーズがありました。これがわかるのはきっと昭和世代だけ……。スミマセン。(ダバダ〜♬)
《ターゲット・シス単関連語》
54. theory [16] じっくり観て考える → 理論、学説
theory は劇場と同語源。
どちらもしっかり「観る」ことが核イメージです。
この単語は、3つのパーツからできています。
本質部分は theor- と or- の部分です。どちらもギリシャ語で「見る」を意味する言葉が元になっています。
日本語でも「眺め見る」などと同じような言葉を並べることがありますが、これに似た感覚です。
ここに名詞化のシッポ -y がついています。
この3つのパーツが組み合わさって、theory の意味が生まれました。
《番組内で紹介された関連語》
《Theory といえば?》
ターゲットの例文には「進化論(Theory of evolution)」が挙げられています。日本語で親しんだ理論や書籍の名前でも、英語の名称はパッと思い浮かびませんよね。
タイトルだけなら、後者は意外に英語のほうが親しみやすい気がします。
ちなみに……
こちらはゆるコンピュータ科学ラジオに登場したサイモン・シンの小説タイトルにも使われていましたね。この theorem も同語源です。
《古代ギリシャのエピダウロス劇場》
劇場(theater)といえば、古代ギリシャのエピダウロス劇場が思い出されます。
紀元前4世紀に建造され、その2世紀後の古代ローマ時代に上段部分が増設されたもの。1万4千人ほどを収容できる野外大劇場です。
なんといっても驚くのは、マイクなしでもちいさな囁き声や紙を破る音、硬貨を落とす音が最後尾の席まで届く完璧な音響設計。2千年以上も前からこんなに高い技術が存在したことに、ただただ圧倒されます。
コロナが明けたら、ぜひ何度でも再訪したい場所の1つです。
《ターゲット・シス単関連語》
55. issue [14] 外に出るもの → 発行(物)、問題(点)
issue は、2つのパーツからできています。
ご覧の通り、フランスの風(という名の訛り)の影響で、元のラテン語から随分変化しています。この単語の本質部分はラテン語 eō で「行く」の意味を持ちます。
ここに「外へ」をあらわす接頭辞 ex- がついています。
この2つのパーツが組み合わさり、さらにフランス訛りが加わることで、issue の綴りと意味が生まれました。
《その他の仲間》
じつは「出口」をあらわす exit も同語源。issue のラテン語の語源(の過去分詞 exitum)にカタチがよく似ていると思いませんか?
《ターゲット・シス単関連語》
まとめ
今回あつかった8単語の語源は、6つがラテン語系、1つがギリシャ語系、1つがゲルマン語系でした。
私たちが普段「英語」だと思っているものは、意外と古代ギリシャ・ローマにルーツがあるんですね。
ゆる言語学ラジオをきっかけに、みなさんに英語の語源(特にギリシャ・ラテン語の由来)を楽しんでいただけるようになれば幸いです。
今回も「超」長文をお読みくださってありがとうございました!
どうぞ良い一日を🍀
心より感謝を込めて
夏野 真碧
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*すべてのお便りにお返事できないこともありますが、
いつも楽しく拝読しております。
ほんとうにありがとうございます!
《主な参考文献》
① 英単語ターゲット(旺文社)
② システム英単語(駿台文庫)
③ 語源辞典(おすすめ洋書)
いちばんお気に入りの語源辞典。
ターゲット②の放送ではバラけて「使えなくなった」とされていましたが、過言です(笑)。テープと木工用ボンドとカバーフィルムで修復したので、まだ1代目は現役!念のため、2冊目を購入して手元に置いてあります。
(潰して使えなくなったのは、ほかの英和辞典です!)
この語源辞典は誤植も多いのですが、内容が充実していて、ストーリーもわかりやすいので、本当におすすめです。
こちらはマニア向けですが、内容は充実しています。
こちらは柊風舎の『オックスフォード英単語由来大辞典』の原典です。
英語で OK という方であれば、こちらの方がお求めやすい価格帯になっています。
(2022/12/05時点、Amazon ではハードカバーの方がペーパーバックよりも安くなっているようです。)
④ 英英辞典サイト
Google 検索画面を表示 →「◯◯ meaning」で検索すると、Oxford Languages の語釈と語源が表示されます。これは、かつての LEXICO とほぼ同じ内容の語釈と語源となっておりますので、ご参考になさってください。
また、Merriam-Webster のサイトは昨秋大幅刷新され、語源欄や類義語の比較など、より深く、より使いやすくなりました!
(それにしても、LEXICO がなくなってしまったのは本当に残念でなりません。)
⑤ 英和辞典サイト
⑥ 英英辞典アプリ
⑦ 羅和・希和辞典
⑧ 羅英・希英辞典サイト
シカゴ大学運営。
羅英辞典 Lewis & Short や希英辞典 Liddel, Scott and James (LSJ) が無料で調べられます。
⑨ その他(紹介順 + α)