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夜を呼吸して列車はいずこへと走る [日記と短歌]23,7,18



肋骨のあいだに夜がありぼくを塗りつぶしてく、星になりたい/夏野ネコ


夜のローカル線の普通列車が持つ独特の雰囲気が好きです。
都会の列車と違いサイネージ動画も派手な広告もなく、ドアはボタンでのセルフ開閉式、懐かしみのあるボックスシート、と総じてアナログ。そうして都市部から郊外、郊外から地方へと走っていく普通列車。

さまざまな人が乗っては降り、徐々にガランとしていく車内は言葉を交わすものもおらず、山間部の長い駅間にただガタゴトと走行音だけが空間を支配し、ときおり灯火が、汚れた窓の先にある闇の中を通り過ぎていく。

残った乗客たちにはみな、それぞれに目的地があるのだろうけれど、それは誰も知らない。まぁそんなの当然なのだけど、でも青白い蛍光灯が照らす夜の内臓みたいなこの車内をつかの間共有しているだけで…なんというか、全員ワケありに見えちゃうんですよね、奇妙なことに…。

夜を切り裂く、なんて定型文などちっとも似合わずに、むしろ夜そのものとして一体化する感覚と言えばいいんだろうか。これはちょっとした異界です。

乗る者も降りる者もいない、ぽつねんとライトの灯る無人駅に停車しているとき、夜露に濡れた草の匂いが不意に入り込み、それが合図であるかのように、なにも言わずにゴトリと列車が動きだす。
そのときの感触。
人知れぬ夜の底にあって、この列車だけが世界と切り離されているような、このままどこかに連れ去られそうな不安と、いっそ連れて行かれたい欲求とが混じり、言葉にし難い不思議な気持ちにおそわれて、でもそれはけして不快でなく、ひたひたと静かな昂揚のようでもある…。

特急列車の清潔さは航空機のそれに近づいているけれど、停車するたび夜を呼吸しながらいくこれは普通列車ならではの手触りだな…。

とはいえ客観的に見ると田舎の夜を電車に乗ってただ移動してるだけなんですけど!
不思議ですよね、って感じでオチはありませんし、乗車中は基本ずーっとヒマなのにそれを持て余さないのも不思議といえば不思議です。まぁこんな無駄なことずっと考えてるからですよねやっぱ。まだ心が銀河鉄道めいているのかも。

そのときsuiuに思わずあげた短歌一首、再掲しますね。

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