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世界が終わる夜に



星が降る夜
白いコードを携帯に接続して
耳から流れてきた音楽に身を任せて
ひんやりとした空気を裂くように
自転車を走らせていた

少女のような声色からは、
想像ができない力強さで
混じり気のない透明な歌声



"しまった、もう世界は終わっていた"

白い息を吐きながら、ぼんやりと思う

明日学校へ行ったら、
変わり映えのしない教室に入り
きちんと整頓された冷たい椅子に腰をかけて、
人生に必要か必要でないのか、わからない理科や数学の授業を受けて、
馬鹿馬鹿しいと思いながら、外を眺める

それなりの友だちと一緒に
母が作ってくれたお弁当を食べて、
午後は引き続き、言うことを聞かない瞼を持ち上げて先生の話を聞く


そして、少しだけ気になる男の子を横目に、
今日も何も起こらなかったなと思いながら、

暗くなる帰り道を、自転車で走る
冷たい空気に触れて、スカートからはみ出る膝が痛いなと思いながら、家路について
家族と、うんとかあーとか曖昧な会話をしながらご飯を食べて、

やっぱり今日も何も変わらなかったなと思いながら眠りにつく

私の生活が激変するような、事件は起こらない
何も変わらない
そんな毎日が、繰り返されていく
一生繰り返されていく

「しまった!もう世界は終わっていた」

そう思っていた。



それから、どれくらいの時間が経ったのだろう



私は、自転車に乗らなくなった
星がこれでもかというくらい綺麗な道を通らなくなった
短いスカートを履かなくなって、膝がキンキンに冷えることも無くなった


退屈で、世界が止まっていると思っていた毎日は、少しずつ崩れていき、時間と共に、私の世界は変わっていった


「世界は終わってなかったのだ」


空っぽだった私
よくも悪くも変わらない人間関係
色んな理由で壊れ始めている世界は
意外と壊れなかった


これからも、私の世界は終わらない
残念ながら不本意ではあるが、進み続ける

終わってしまったと思う夜でも、割と良い朝は来る


よくも、悪くも、
世界は変化して進み続ける



早く世界が変わってほしいと嘆く夜でも
この時間ができるだけ長く続いてほしいと願う夜でも
新しい朝がやってくる


私にも、あなたにも、新しい世界がやってくる



あの星が降り注ぐ夜から、恐ろしいほどの時間が経ち
気がつけば、いつの間にか、彼女たちのバンドは解散していた



だけど、私はこれからも
世界が終わる夜にを
世界が終わってしまったと思う夜に
聞き続けるだろう

その度に、
今は跡形もなくなってしまった
あの、星が降る夜の続く、
退屈な世界を思い出し、



甘くもなく、苦くもない
あの日々を。
それから、永遠と続いていくような気がする毎日を。

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