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逃げられない、たった一本のペン
昔、小説を書いていた。
今となっては、小説と言うにはあまりに陳腐で恥ずかしいものばかりだけど。
サイトを作って、同じような趣味を持つ人たちと出会い、お互いの小説を何度も読み、影響を与えあい、世界を重ねて。それを原動力として、ペンを握る。
そんなことを心から楽しんでいたわたしたちだけど、いつのまにか、それぞれがそれぞれの生活に帰り、ペンを握る日々は終わりを告げた。
ひょんなことから、その当時の友人たちと連絡を取り合ったのは、ほんの数日前のこと。
誰かが、こう呟いた。
「みんな今は小説書いてるの?」
「書いてないよ。短歌ならやってる」
「文章は書いてるけど、小説はなあ」
「そう言うYは?」
「バリバリの現役だよ・・・」
三人中、小説を続けていたのは一人だけ。まあそんなもんか、と思うと同時に、あのときから5年以上経った今でも全員が、ペンを握り続けていることに驚いた。
そういえば、あの頃もお互いに話していたな。わたしたちはきっと、文章を書くことから逃げられないね、って。ずっとこのペンを握り続けるのだろうね、って。
わたしだってあの後何年か文章から離れたけれど、結局戻ってきてしまった。書くものは違うけれど、文章に対する思いは、日に日に強くなるばかり。
ひとりは国語教師、ひとりは開発職の理系女子、そしてわたし。三人とも、文章だけは手放したくても手放せなかったのだ。たった一本のペンは、いつだってわたしたちの救いだったから。
たぶんわたしたちは今も、あの頃と同じペンを持っていて。ずっと握っているから、ぴかぴかの綺麗なペンなんかじゃなく、ちょっと色褪せた、使いこんだペンで。
たまにインクが切れそうにもなるけれど、わたしたちはそのインクを必ず、自分の中から、あるいは街角から、海から、お気に入りのコーヒーから、音楽から、拾い集めて。
それをずっと、続けていくんだと思う。
そのペンは、わたし自身なんだ。わたしたちはいつだって、自分自身を救うために、ペンを握り、文章を書いているんだ。 逃げるなんてできるわけないよ。
世界はそれを愛と呼ぶんだぜ