わたしと彼と生理と手のひら
下半身に、慣れた違和感を感じた。
「あ、生理きたかも」
「生理ってそんな感じでくるの?」
「なんていうか、どろっとしたものが出ちゃったというか。あとお股がヒリヒリする、わたしはね」
トイレに行くと、予感は的中。あらかじめ装着していたおりものシートが功をなして、下着は汚れずに済んだ。
生理がくると、嬉しい。お腹は少し痛むけれど、身体がデトックスされている感じがするし、生理前のPMSから解放されるし。身体はだるいけれど。
「やっぱり生理のときって体臭変わるね」
彼がわたしを手で引き寄せながら言う。
「え、それって前からよく言ってるけどほんとなの?」
「・・・なんか、首元の匂いが、人間臭くなる」
わたしがちょっと引き気味に言ったのが気に食わなかったのか、口を濁しながら彼が言った。だって普通に怖くない?びっくりして女友達に話しても、恋人にそんなこと言われたことがある人なんていなかった。まあ最近は、前よりは気にしなくなったけれど。
生理のときは、スキンシップが嫌になる。とくに後ろから抱きしめられること。お尻のナプキンに気付かれることが嫌なのだ。
さりげなく彼の手を振り解いてソファに座って、気づいたら寝落ちしていた。シャワーを浴びろと起こされる。
「お風呂は入るの?」
「絶対入る。タンポンする」
「タンポンって、痛そうだよね」
「うーん、入れるときと、出すときは痛くてね、入れたらなんともないんだけど。あと手が血みどろになる・・・」
「うわ」
「出すときもグロテスクだよ」
「怖い」
タンポンを持ってきて、付け方を解説する。お股に、入れるのよ。あなたも知ってる場所よ。
「タンポンってどのくらい持つの?」
「8時間。まあわたしはお風呂のときしか使わないけどね。タンポンって取るとき用にヒモがついていてね、日常使いしてるとヒモが汚れそうで嫌なの」
「・・・なるほどね」
何度使っても嫌になる、タンポンを入れる作業、取り出す作業。顔をしかめながら行って、お風呂から上がった。身体がほかほかして、お腹の痛みも良くなった。
「・・・女の人のほうが、性別に縛られて生きるってなんかで読んだ」
彼がわたしのお腹に手のひらを添えて言う。
「そうだよ。わたしはまだマシなほうだけど、PMSと生理痛で、一ヶ月の中で元気な時間が一週間しかない友達もいるんだよ」
わたしがこんなに生理を語るのは、彼が今後他の女の人と付き合ったときや、一緒に働く女性にもっと優しく接してもらうため。あなたは充分、女性の体に理解がある人だけれど、あなたの直属の女性の上司が月一回体調不良で休むのはたぶん生理だよ。気づいてる?
押し付けがましいよね、ごめんね。健康に生きているから、生理がある。でもそれが生きづらいときもあるの。
暖かい手のひらに、自分の手を重ねた。
どうか、伝わってね。
世界はそれを愛と呼ぶんだぜ