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長崎の精霊流しと、飲み屋で出会ったお姉さん

今日は今旅の目的、精霊流しの日。中国文化の影響を受けていると聞いたので長崎孔子廟中国歴代博物館をのぞくも思っていたような情報は得られなかった。

なんとなくそわそわしながら街を歩いていたら突然の爆竹。すさまじい破裂音とともに爆竹が跳ね回っているけれど、周囲は驚くほど無反応。本当に誰も何も言わないし、軽く一瞥する程度で何のリアクションもない。

バスや路面電車もストップ

精霊流しは17時くらいからと聞いたので夕方からカフェで本を読んでいたらけたたましい爆竹の音。窓の外を見たら精霊船。思いがけずナイスビュー。

ひとまず外に出て、精霊船と一緒に歩いてみる。手持ち無沙汰だから爆竹鳴らすか、みたいな感じで船を引く人々は爆竹を放り投げている。一つ一つに火をつけるというよりは、箱ごとの着火。段ボールごと盛大に爆竹を鳴らしている人もちょこちょこ見かける。

あちこちで花火をしているので煙がすさまじく、目にしみる。ちょいちょい火花や爆竹の破片が体に当たり、臨場感がすごい。

飲み屋の皆さんから「耳栓を買った方がいい」と聞いていたが、本当にその通りだった。丸腰で何時間もこんな爆音の中にいたら耳ぶっ壊れる。

コンビニで買える

一つの家庭で20〜30万円分の花火を用意すると聞いたが、納得の消費量。道路は爆竹の破片で赤く染まり、空箱が散らばっている。

見ているうちにどうしても爆竹を鳴らしたくなり、わたしもドンキで購入。一つずつ着火し、控えめに道路へ放り投げる。今の日本で堂々と爆竹を鳴らせることなんてまずないので、大変貴重な機会であった。

約400円

精霊船は大きくて見た目が華やかなものもあるし、爆竹が爆音で鳴り響くし、花火が吹き上がったり打ち上がったりして、精霊流しは一見賑やか。

だけど、精霊流しは初盆を迎える故人を弔うための行事であって、船の先頭には遺影も飾られている。遺影の中には若い人もいて、爆竹を鳴らしながら船を引く人たちの気持ちを想像すると目の前の派手な景色の見え方はがらりと変わる。

龍の口から花火が出る

船のデザインもさまざまで、アイロンを型取り巨大なワイシャツを飾った船、卓球のラケットとピンポン玉をあしらった船、車やバイクを乗せた船……と、生前の故人を想像させる船も多々。遺影の故人を想像しながら精霊船とそれを引く人々を眺めると、結構グッとくるものがある。

あとで入った飲み屋で聞いたところ、船を引く人たちの中には涙を拭っている人もいるという。悲しみを花火でごまかしながら個人を弔う、派手に見えて切ないお盆の行事が精霊流し。

一方、そんな哀愁とは無縁に花火や爆竹を楽しんでいる人もいる。小学校低学年くらいのお子さんでも爆竹を手に持ったまま鳴らしたり、父親と思われる大人と爆竹を投げつけ合ったり。

日頃の鬱憤を晴らすかのように、爆竹を警備中の警官に投げつける人もいた。そして警官は微動だにしない。長崎の人の爆竹慣れがすごい。

数十万から時に数千万円をかけて精霊船を出している時点で大切に思われているであろう前提だが、船の大小を問わず、装飾などによって故人の人望が具現化される面もありそう。生き方を考えさせられてしまった。

3時間近く歩き回って疲れ果ててしまったので、飲み屋に入る。女性店主が一人でやっているこじんまりとアットホームなお店で、カウンターで隣り合わせたお姉さんがなぜかわたしを気に入ってくださり、2軒目のバーにお誘いいただく。

バーはめちゃくちゃローカルかつ常連さんしかおらず、絶対に一人では入れないお店。隣の常連のおじさまからは「素朴」「純粋そう」と言われ、頭をポンポンされた。どうやらウブだと思われたらしい。わたしはどちらかというと圧が強いタイプなので、舐められることが滅多にない。かえって新鮮な体験だった。

実は午前中に高い鯖江のメガネを買った。ダサい格好でも素敵だと思えるなら本物と思い、今日はやぼったいワンピースを着ている。1日外にいて化粧も落ち、顔もぼんやり。それがわたしに対するおじさまの印象に影響を与えたものと思われる。服装によってこれだけ人からの接され方が変わるのだとしたら、世の中は思ったよりちょろいのかもしれない。

お姉さんには20年近くの付き合いとなるパートナーがいる。40代の頃、嫌なやつへの当てつけとして寝とった相手で、「意地で付き合った」と言っていた。そんな始まりの関係が今でも続いているわけで、男女関係はあまりに難しすぎる。もうわからん。

お姉さんは「わたしが誘ったから」とバーのお代をご馳走してくださった。私と同年代の娘さんがいて、もう孫もいておばあちゃんでもあるけれど、全然そんな感じがない女性。

長崎で一緒に飲みに行けるお姉さんができ、ますます住みたくなってしまうけれど、長崎に住みたいと言ったら飲み合わせた全員から「やめておけ」と言われてしまった。物価や家賃が高いのに平均賃金は全国ランキングで下から数えた方が早いくらいの水準で、住みにくいらしい。

解散したのは3時ごろ。爆竹だらけだった道路はもうきれいになっていた。大学生の日雇いのバイトが清掃するとのこと。

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