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嫌いだったばあちゃんが旅立った時

いつから祖母の目をみなくなったか思い出せない。
悪口陰口ばかりいう祖母をいつからか嫌いだった。
この人がいなければ家族はみんな仲良しなのに。
この人がいるから家族は怒鳴り合っていたし、幼かったわたしは泣いていた。いとこたちはみんな私より年上で、精神的にも本当に大人だったから、泣いている私を、怖がらなくていいんだよってなぐさめてくれていたけど、本当は怖かったのよりも「みんな仲良くしてほしかっただけ」だった。
そして私は泣いていた当時は祖母が普通に好きだった。
大好きな祖母と大好きな父と大好きな叔父が言い争っていることが辛かったんだと思う。

祖母の死

そんな祖母が入院した。
「3週間の入院の予定です」と母からLINEがきたけど、なんとなく病状をきいていたから、きっと良くなって退院することはないなと思った。長くないこともわかっていた。
だから「おばあちゃん連れて帰ります」って連絡が来ても、涙もでなかったし、笑顔で仕事をしていた。
正直、祖母が亡くなったことに「悲しい」っていう気持ちはなかった。ただ、生きている間に、ちゃんと許してあげればよかったという後悔だけがむくむく顔を出してきた。悪かったな…そう思ったら、夜中、急に涙が出てきた。

祖母がしていたことすべてを許すことはしなくていいし、祖母が嫌いなままでいいと思う。でも、祖母がいなければ私は産まれてきていないから、それだけは感謝をすればよかった。本人に伝えればよかった。そして、、祖母の嫌な行動にもきっとなにか理由があったんじゃないかと大人になった私は思ったりした。祖母としてではなく、彼女を一人の人として見たとき、彼女もきっと苦しんでいたのかもしれない…。一番近い家族から惜しまれずに亡くなった祖母がかわいそうに思えた。

私はいつから祖母が嫌いだったのだろう。
5歳まで育ての親は祖母だった。
共働きで忙しかった両親に代わって、ご飯も作ってくれたし保育園の迎えに来てくれたこともあったし、私はたぶん、祖母にちゃんとかわいがられて育った。


お葬式

祖母が亡くなって、わたしは「お葬式くらいはちゃんとおばあちゃんのために行こう」と思った。なんの迷いもなかった。でも、感染拡大中のこんなご時世。親戚から来ないでほしいといわれたら行くのはやめようとも決めていた。喪主の伯父は「奈津美の好きなように」って言ってくれた。伯父はわたしのことを娘のように思ってくれている愛情深い人だから。

何年かぶりに会った祖母は、きれいな顔をしていた。きれいにエンゼルケアをしてくれた看護師さんや葬儀屋さんにありがとうと思った。
顔をみたら悲しいというよりも、チクッと心が痛んだ気がした。
手を合わせて、「命をつないでくれてありがとう」と心の中でつぶやいた。
棺桶のなかにお手紙を入れる風習があって、葬儀屋さんにもらって、一言書いて入れることにした。ばば不幸な孫で申し訳なかったなという気持ちもあったから、天国に持っていくお手紙には感謝の気持ちを渡してあげたかった。

葬儀そのものはすごく淡々と行われていって、あっという間に終わった。
途中、いとこたちと久しぶりに話したり、いとこの奥さんたちに挨拶したり、なかなか会えなかった親戚との再会もあったりして、わたしは やっぱり家族っていいなって思った。


葬儀が終わると、続々とみんな帰っていく。このために集まっていた いとこたちともさよならで、大好きな伯父と伯母ともさよならをした。
無事に葬儀が終わってホッとしている親戚たちの顔を見ながら、「次いつ、この人たちの顔を見ることができるんだろう」と思ったら、少し寂しくなった。お葬式でこんなことを言ったら罰が当たりそうだけど、感染症の世の中で、離れて暮らす家族が集まれる場なんて、葬式くらいだと思う。おばあちゃんが死んで、お葬式が行われることが、ある意味、ありがたくも感じてしまった。


祖母の愛

おばあちゃんのことは、思い出しても やっぱり大好きではない。
でも、おばあちゃんがいたから、父や伯父が生まれて、わたしが生まれて、家族ができたということは、とってもあたたかい出来事だなと思う。
おばあちゃんが亡くなってから、やっとその「愛」に気がついた、そんな気がする。
人はその存在そのものが「愛」なのかもしれない。
愛してくれないとか、愛してくれたとか、そんな行動レベルの話じゃなくて、おばあちゃんがこの世に生きてくれたこと、しかも命をつないでくれたこと、それが大きな愛だったんじゃないか。


1人の死は、10人の人生に影響を与える
そんなことを信じて看護師をして、何人もの人をお見送りしてきたけれど、わたしの人生に影響があるということは、わたしの周りの人にも影響があるわけで・・・10人になんてとどまらない気がした。

おばあちゃん、生まれてきてくれて、ありがとう。



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