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9歳の連獅子を観て100歳まで推すと決めた二月大歌舞伎

10歳の推しが史上最年少で演じる「連獅子」で、予定どおり号泣してきました。
記念すべき推しの初役を堪能したからこそ気が付けた、歌舞伎の魅力。まだ歌舞伎を見たことが無い方にも、素人目線でわかりやすくお伝えしたい!

27歳の私が100歳まで歌舞伎を推し続けたい理由をお話します。

歌舞伎が大好きになるきっかけを作ってくれた、見ず知らずのご婦人の話はこちら。

日本人のDNAが疼く歌舞伎舞踊「連獅子」

たとえば、あなたが大好きなバンドのライブに行ったとします。一番好きな楽曲が爆音で演奏され、スピーカーの振動が身体に伝わってきたときの、あのゾクゾク感。堪らん! ですよね。

映画がお好きな方であれば、陶酔する監督の最新作をIMAXで観たときの、心臓がバクバクするような高揚感。あれです。

歌舞伎の「連獅子」では、そうした非日常の高揚感を味わうことができます。

試しに昨年、浅草寺 五重塔で開催された無観客公演のダイジェスト映像をご覧ください。本編は45秒あたりから始まります。

舞台が佳境に入った瞬間の音楽がたまらんほどに日本人のDNAを揺さぶってきます。ただのBGMではないのです。歌舞伎は音楽も最高。

あとシンプルに勘九郎さんの首の回転数どうなってるんだ。

歌舞伎舞踊「連獅子」は、能の「石橋(しゃっきょう)」をもとにしています。能の構成にならい、「前シテ」→「間狂言」→「後シテ」と展開し、物語が語られるのです。

「前シテ」……獅子の子落とし伝説を踊りで詳しく描写する場面。
「間狂言」……ユーモラスな場面で小休憩。台詞は古語ですが、シンプルな会話なのでタイムラグなく笑えて楽しめます。
「後シテ」……舞台の大詰め。伝説として語られていた獅子が現れ、美しい牡丹の花と共に、豪快な毛振りを披露します。

前シテと後シテ、わかりづらいのですが、ドラクエの表ボスと裏ボスと思うと少し親近感が持てるかもしれません。

他の舞踊作品で「日本振袖始」という松葉目物に出てくる八岐大蛇(やまたのおろち)、あれは完全に、ドラクエ世代の私には裏ボスにしか見えませんでした。
もちろんめちゃくちゃ面白いですよ。

「獅子」と言えばライオンを想像しがちですが、ここで登場するのは空想上の生き物。

能を元にした歌舞伎舞踊(松葉目物と言います)は、神話や伝承などファンタジー要素強めの物語が多いんです。RPGや児童文学好きな方は、意外な飛躍かもしれませんが、多分松葉目物ハマれると思います。

観る側もめちゃくちゃエキサイトできるし、お話も分かりやすい。手始め歌舞伎舞踊に、連獅子めちゃくちゃ推してます。

現実と空想の両面で親子の情愛を描く「連獅子」

「獅子の子落とし」伝承をご存知でしょうか? 
中国・清涼山に棲む伝説の聖獣「獅子」は、情愛を深くかける子どもを深い谷底へ突き落とし、自力で這い上がる強い子だけを育てる、という故事です。

親獅子、厳し過ぎんか?! と思いますが、これも愛と信頼ゆえ。

連獅子の舞踊の中でも、突き落とした仔獅子がなかなか戻ってこないと、「まさかうちの子が、這い上がってこない?!」と谷底を覗き込む姿を見せます。

それだけ、自分の子どもの力を信じているんですよね。

先日上演された2021年の二月大歌舞伎では、中村勘太郎さんが史上最年少(登時9歳)で仔獅子を務められ、親獅子は実の父である中村勘九郎さんが演じています。

役柄と現実の関係性がリンクした、特別なお芝居だったんですね。

父に崖から蹴り落とされ、力尽きそうな仔獅子。それでも、谷を覗き込んでくれた父と目が合った瞬間に、ハッと覇気を取り戻し無我夢中で谷底から這い上がる。

勘九郎さんが背中で魅せる親獅子の姿、一生懸命に喰らいついていく勘太郎さんの仔獅子。

その姿はまさに、厳しいお稽古にも根を上げず、尊敬する父に少しでも近づきたいと勉強される勘太郎さんの姿そのものに見えました。

会場には老若男女さまざまなお客様が観にいらしていて、全員もれなくすすり泣き。

私ですか? もちろん、涙で不織布マスクの内側と外側がビショ濡れになりしたよ!!

花道を歩く歩幅の違いも、そんな体格差を忘れてしまうほどの力強い足踏みの振動も、全部良かった。

全ての動作にポジティブな気迫が満ちた勘太郎さんの姿、きっと何年先も忘れられないだろうと思います。

「子役時代」と「初役」は二度と観られない

同じ配役での連獅子は、今後何度も上演されることでしょう。
ただ、「子役時代」の勘太郎さんが、「初役」で演じられる連獅子は最初で最後。

聞く話によると、役者さんが被っている獅子の毛って大変重いものなのだそうです。大人でも、毛を振り回そうとすると、身体ごと持っていかれそうになるくらい。

その! 重たい毛を! 9歳の勘太郎さんが、親獅子と息を合わせてぶんぶん回しているんですよ!DNAという一言で片付けられない、大変なお稽古があったからこその、親子のシンクロ。

限定ものに弱い私は、今回の舞台が最高に心に刺さりました。次はご兄弟の長三郎さんが仔獅子を演じられる時でしょうか。

いつか勘太郎さんが親獅子になり、彼の子どもが仔獅子を演じる日がやってくるでしょう。
その日も同じように熱い涙を流し、大きな拍手とともに舞台を楽しみたい、と今からワクワクです。

数ヶ月後、数年後、数十年後のスパンで楽しみを待てるのが、歌舞伎の良いところでもあります。子役時代に観ておくことで、将来同じ配役になっても泣けそうな気がするの……。

実際に、連獅子を観ていた時、両隣は自分の祖母と同じくらいの女性でしたが、お二人ともズビズビに感涙されていたし、最後には割れんばかりの拍手を舞台に届けと送っていらっしゃいました。

つまりそういうこと!
歌舞伎は一生モノの推し事なのです。

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