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陰と色気を纏う、Tabacco Toscanaの香り

喫茶店で談話しながら煙をくゆらす愛煙家の姿に憧れ、煙草の香りの香水を買いました。

彼ら、彼女らの煙草を持つ指先、スモーキーな香り、煙を吐くときの伏し目。
独特の陰りや、力みのない感じにどうしようもなく惹かれる時があります。

もし、煙草が苦手な方がいたらすみません。
私も元々煙草、というよりヤニの匂いは苦手なのですが、遠巻きから愛煙家を見つめているのが好きなのです。

「風立ちぬ」の二郎さんや本庄さんがくわえ煙草で議論する場面が良い例です。未見の方は是非。煙草を燃やすことは命を燃やすこと、と言わんばかりに喫煙の場面が多い。
重い肺炎で病床に伏す菜穂子さんと、手をつないだまま仕事をし、我慢できずに「タバコ吸いたい」とこぼす二郎さんも良いし、
小さくきっぱり「ダメ」と制する菜穂子さんも良いです。

手持ち無沙汰の空白を埋めながら、そこに居る、という感じが好きなのかもしれません。
それはカウンターバーのお酒でもいいし、ゲーム実況のコントローラーでもいいのだと思います。

独白にも、対話にも、間をつなぐ何かが必要になる。
その選択肢に煙草を持っている人の、うっすらとした陰りに美しさを感じてしまう、そういう性癖なんです。
自分は吸えないし、吸わないけれど。

一度だけ、渋谷の駅前で知人に貰った煙草を吸ってみたものの、どうにもむせてしまって、その1本が最初で最後の煙草になりました。
「first love」で、タバコのflavorがするキスで彼と別れ、それを「ニガくてせつない香り」と歌う宇多田ヒカルは、どれだけ大人っぽい19歳だったのだろう……。

せめて、スモーキーな香りだけでも身にまとってみたい。
ヤニ臭いのとは違う、もっとシュッとした、穏やかなタバコの香りがいい。

サンタマリアノヴェッラの「Tabacco Toscana」というオーデコロンが、その願いを叶えてくれました。

「トスカーナシガー」という伝統的なタバコの香り着想を得て作られたそうで、ひと吹きするたび、イタリアの小さな街にいる愛煙家に思いを馳せてしまいます。
煙草をくゆらし、新聞を読む老紳士の横で、本を読んでいるような。
仕事終わりに一服してきた恋人と、ギュッとハグしたような。

自分で纏っている香りなのに、私が煙草を吸う妄想にならないのが、背伸びした非喫煙者の悲しい性よ。

スモーキーなバニラの香りが体温と溶け合うと、不思議と、暖炉の前にいるような、穏やかな気持ちになります。
甘い煙の香りがそう感じさせるのでしょうか。
晩秋から冬にぴったりの香りです。

今日は父性が足りないな、余裕のある色気を纏いたいな、というときはこの香水を手に取ります。
喫煙者の仕草に宿る、陰りのある色気が欲しいと思いつつ。
煙草とライターの代わりに、ネイビーのスプレーボトルを鞄に忍ばせて、愛煙家に憧れ続ける日々です。


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