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ほぼナウシカの夫と暮らしたら、苦手な虫の生い立ちに思いを馳せられるようになった

早速ですが、私は虫が苦手です。

特にワーム系の生き物が苦手で、視界の隅に見つけただけでも全身の肌が粟立ち、全細胞が「無理!!!」と危険信号を出してしまいます。

幼少期、田舎の祖母と畑仕事している時はなんでもなかったのになあ。好きな絵本は『はらぺこあおむし』だったし。
大人になり気が付いたら苦手になってしまいました。

虫嫌いの私とは対象的に、夫は幼い頃から生き物が大好きで、今もその熱は冷めることを知りません。

学生時代には、思い立って野生生物の聖地と言われるガラパゴス諸島へ旅行に行ったり、本物のライオンを写真に納めたいと思った2週間後にアフリカのナミブ砂漠へ友人とキャンプに行ったりしています。

ライオンやトラのことを「大きいニャンコ」と呼びます。愛ゆえに恐れを知らない夫です。

夫の生き物愛は守備範囲が広く、動物はもちろん魚や貝、虫たちも惜しみなく慈しみます。

そう、虫たちも惜しみなく慈しみます。

ある日、夫の実家から沢山の野菜が届きました。兼業農家をされている義父が美味しい野菜を送ってくれて、めちゃくちゃ助かっているんです。

嬉しい反面、美味しい無農薬野菜には必ず虫がついていることを知っています。それが美味しい証拠であり、ありがたい事だとわかっているけれど、苦手なものは苦手。

開封作業は常に冷や汗ものなのです。

意を決して段ボール箱の蓋をひらくと、

「ブウウウウン!」

という羽音と共に大きめの蝿が勢い良く飛び立ち、どこかの照明に向かって消えていきました。

腰を抜かした嫁の横で、リモートワーク中の夫が「ハハハッ、お前、長旅お疲れ様やなあ(笑)」と蝿に微笑みかけています。

ハッ……?
蝿に……労いの言葉をかけている……?

一瞬ぽかんとしたものの、片付けるべき段ボールはまだ足元にある。

気を取り直し、白菜や青梗菜など、葉物野菜をお部屋の保存箱に移しました。おそるおそる触ったけれど、今度は何も出なかった。あー、良かった!!!

潰した段ボールを玄関に出そうと振り返ったとき、

「ウワアアアアアアン!!!」

視界の端に7cmほどのむにゅっとした黒っぽい物体を確認、阿鼻叫喚しながら無意識にタップダンスを踊る私。

「なんや〜、何があったんや!」

と駆け寄る夫に「コレはッ、ハッ、ワー、ワームッ……!」と指差ししどろもどろで現状をお伝えする私。

そう、芋虫でした。
小さい王蟲みたいな見た目だったと思います。
(あまりのショックで脳が記憶を消しているのでよく覚えていません)

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小さい王蟲です。(画像:スタジオジブリ)


彼の生涯はまさに「はらぺこあおむし」。

美味しい白菜を外からシャクシャクと食べ進め、満腹になったので内部でお昼寝をしていたのでしょう。

そうとも知らず白菜を持ち上げてしまい、フローリングに彼が転がり落ちたようです。

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たぶん、この穴で彼は寝ていた

満腹で昼寝している間に白菜ごと刈り取られ、段ボールに詰められ、目が覚めるとトラックに揺られていた芋虫。しかも遠路はるばる辿り着いたのは東京砂漠。

幼虫のあの子にとって、さぞ恐ろしい体験だったでしょう。箱が開いてやっと空が明るくなったとき、一生懸命這い出た先は初めてのフローリング。

「土は、みどりの葉っぱはどこ!? 寝床は、ご飯はどこ!? ウワーン! お母さ〜〜〜ん!!!」

と思ったかどうかは知らんけど、そんな大混乱の折に、阿鼻叫喚する大女に真横でタップダンスされて、いよいよ恐怖で気絶していたのかもしれません。

そんな芋虫の境遇を一瞬で察した夫は、ティッシュ片手に

「ごめんなあ、うちの奥さん、芋虫苦手なんよ〜……。東京で生きていけるか分からんけど、とりあえずお外に出してあげるね!」

と芋虫をティッシュでつまんで、マンションの廊下に放ちに行きました。

ラン…ランララランランラン……
ラン…ランラララン……

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(画像:スタジオジブリ)


金色の光(フロアライト)に照らされた笑顔の夫が、やたら神々しく見えました。

この虫たちに対する優しさは……、ナウシカ様……!!!!!

「あかん、俺ミーティング遅刻や」

ナウシカは小走りでオンラインミーティングに出席しに席へ戻っていきました。芋虫対応で2分遅刻してしまったそうです。

ウチの夫は……なんて慈悲深いナウシカなんだ……。

まだ人生のやり過ごし方も知らないような幼虫を、やっと箱から這い出た瞬間に驚かせてしまって、悪いことしちゃったな……。

夫の優しさに胸を打たれ、ほんのちょびっとだけ、虫に対して愛着が湧き、彼らの立場に立つことができるようになりました。

さらにその日の夜、段ボールから初めに飛び立った大きな蝿が、息も絶え絶えに壁にとまっているのを見かけました。
やはり彼も、長旅と東京砂漠の世知辛さに、色々を消耗したのでしょう。

気付いた夫、もといナウシカはそっと近づき、
「まだッ、生きてる!」
と蝿の羽をつまんだままベランダへ向かっていきます。

ガラリと窓を開け「さあ、おゆき!」と天に蝿を放つ夫、もといナウシカ。

その背中の慈悲深さに、なんとも言えず手を合わせ拝みたくなります。

すると、振り返ったナウシカが

「あのさ……悲しいお知らせをすると、俺が『おゆき!』って放った衝撃で、プチって蝿さん潰しちゃったかもしれん……」

と悲しい笑みを浮かべているではありませんか。

ナウシカアアアアア!!!!!

指の力が強すぎて、おゆき! のつもりが、お逝き! になっている〜〜〜!

先程とは違う心持ちで窓に向かって手を合わせました。蝿さん守ってあげられなくてごめん……!

次に届く段ボールは、絶対にナウシカに開封・片付けしてもらおうと思います。

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