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<詩>Princess in town

生ぬるい風が 夜の景色をなぞっていく

Ghostが出てきそうな 薄く黄色がかった街灯は
このストリートには数個しか立っていない
黒がこの町を覆っている
煌びやかな日本では見えない類の
底なしの闇の色だ

匂いさえまだ知らない Mの背中だけを頼りに
ほろ酔いの身体でふらふらと追いかける

さわさわと葉っぱの揺れる音が
森の方から聞こえた
私とMの住む町と同じように
この隣町でもやはり聞こえてくる
闇の中でも分かる
夜、月、木々、葉っぱ、風、森、星、M
これらの存在は全て同時に
私の感覚を刺激している

昼間の小雨は全く関係がないように
乾いた土地では すぐに乾燥した空気が覆う

ポーチライトの点いていないグレーの家
小さな庭にはごみが散乱している
プラスチックの袋、ショベル、タバコの吸い殻、錆びた缶
Mがその家のドアを叩くと
Mに負けないくらいに顔と耳にピアスがある男が出て来た
怖いとは思わなかった
普段ならすぐに怖気づいてしまう自分だけに
さっきまでのビールが回っているのだと分かった
私は赤いヒールをそこで一度鳴らして
Mの友達の玄関先のポーチの冷たいコンクリートの存在を
確認した

コンクリートの上で立ったまま一服する
Mは友達の家に入る前に 自分でもタバコに火をつけた
女だけを外に置いて 自分だけ中には入らない
Mはそんな男だ
美学というか
曲がっているけど自分だけのルールに従って生きる
そんな些細なはりぼてのやさしさが
私を確実に慰める

Mは焦る様子もなく
タバコを吸いながら私と一緒に星を見た
Mの友達らしき人は家の中に入ってしまった
Mと私は二人きりで夜空を観察すると
日本とは圧倒的に違う数の星が見える

Strangerのポーチで
私は何をしているのだろう私は
相変わらずの一連の考えに至ろうとするのを
私は一瞬で意識的に止めた

Mは私にこの家の中に入りたいかと聞いたので
Noと答えると
Mはすぐに終わるからと
中に入り
すぐ出て来た

コンクリートの上に灰皿と思われる
吸い殻がたくさん入ったインスタントコーヒーの缶があったので
そこにぽいと自分の吸い殻を投げた
中に入って溢れている雨水が火を消した

これからどうするのと私が聞くと
Mは
町はずれのバーに行ってもっと飲みたいと言った
私は
ビールよりももっと強いのを飲もうと言って
MのFordへと歩いた
カツカツカツカツと私のヒールは
場違いな程に華やいだ音をたてた
この小さすぎる町には
決して似合わない音だった

Mが助手席のドアを開けると
回りの雑草がざざざっと音を立てて
夜の風になびいた
日本のように虫の声は聞こえない
ただ夜の闇の重さが滲んで
私はこの大陸の重みに飲み込まれないように
それだけに必死になって
夜は決して一人にならないように
それだけを考えているような気がするも
またそんな考えに至る自分を阻止して
Fordの助手席へ乗り込んだ

ただ前を向いて
お姫様の様に凛として
Mがドアを外から閉める音を聞く
禁煙であるはずのMの車でタバコに火をつけた
Mは何も言わずに車を走らせて
右手で私の左手を包んだ

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