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胸がリコールされた話。③

ここでは時系列で、自分自身の動きを書き留めておこうと思う。

手術、そして

オペの結果は非常に満足のいくものだった。満足と評するのも烏滸がましいくらいに。
形成外科の主治医はほぼ完璧に元の状態を再現してくださった。縫合部分を見なければ、大きな手術をしたとは思えない。驚くべきことだった。サイズ的な面などから、インプラントでの整容性の高い復元は難しいとの話を、他の医師からあらかじめ聞いていたのだから。

乳腺外科の主治医もその腕を絶賛した。それに対し形成外科の主治医は全摘時の手術が良かったからだ、と仰った。
わたしはそのどちらにも感謝している。勿論、主治医以外の執刀医、麻酔医や薬剤師、オペ看や病棟看護師のみなさん、清掃や調理、医療事務や受付の方々にも。

結果に関わらず、インプラント手術におけるリスクは頭から去ることはない。だがわたしは幸いにも、散々逡巡したこの選択を肯定するだけの、充分な結果を得たことになる。

 ◇ ◇ ◇

国内で・・・のざわめき

オペからしばらく経った、そう6月7日のことだ。
わたしはといえば、相変わらず関連情報を追っていた。自らに関係することとしても、医療情報としても、または海外の社会問題としても関心が薄まることはなかったからだ。

先述したとおり、国内で、初症例が出た。

SNSはざわめいた。これまでは海の向こう側での話だったものが、一気に引き寄せられたように思った人も多かったのではないだろうか。

ついに、と思った。予測はしていたので驚きはなかったものの、流石に身の縮むような気持ちにはなった。数字が頭を掠める。つとめて冷静でいられたのは、素人なりに考えうる全ての可能性を予め頭の中でシミュレートしていたからだと思う。
──大丈夫、万が一異変があれば、アフターフォローで必ず主治医が見つけてくれる。

混乱は良くない。
そう思い、情報を持たず動揺している人や情報提供を求めている人に、学会の公式発表へのアクセスを教えるなどした。こうした情報のシェアリングは、必ず正しい情報へ導かねばならない。素人同士のやり取りだから間違いも起きやすい。悪質な情報への誘導があってはならない。
そして必ず、主治医と話すように伝えた。つまるところ、その人の治療にとってはそれが最も重要になると考えたからだ。

 ◇ ◇ ◇

世界全回収へ、そして今

国内初症例のニュースから世界自主回収まで、僅か2ヶ月足らず。7月25日、日本国内で未使用インプラントの回収がはじまる。
この急激な動きに、入れ替えを待つ患者も既にインプラントを埋入した患者も翻弄された。正しくない情報が拡散されパニックにならないように、そればかり願った。

パニックは不信を生む。
それは誰のためにもなりはしない。

看護師や技師を名乗る人が間違った数字や文言をツイートしていたこともあった。死者数がひと桁少なかったり、国内例はないと書いていたり、色々とあった。
訂正して回る義理はないし、わたしは一患者だ。でもそれを放置すれば、大きなデマに繋がる。
正しいデータへのリンクや引用で示したが、ブロックされたこともあった。
──彼らにとっては、所詮ひとつのトピックであって、他人事であり些末事なのだろう。
ぼんやりとそう思った。

これを書いている今、2019年の9月半ば、まだ手術が決まらない「手術難民」がいる。どんなに不安だろうか、と思う。


そしてわたしもいずれ、約10年後までには、今と違うかたちの手術をすることになる。この胸の中身は、もうリコールされているのだから。

 ◇ ◇ ◇

全てに満足のいく、リスクのない、パーフェクトな道などない。
その中で何を考え、見て、選び歩いていくのか。
目まぐるしくやってくる選択、選択に次ぐ選択。どうしますか、の先は完璧になど見えはしない。重い何かを抱えていようが、さらに覚悟を迫られる。つまるところそういうものだ、ということなのだろう。
耳でよく聞き、目で見て考え、より後悔のなさそうなドアを開くこと。それが何より大事なのではないか、今はそう思っている。

なつめ がんサバイバー。2018年に手術。 複数の病を持つ患者の家族でもあり いわば「兼業患者」