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あなたが生まれてくるまで、私は「お母さん」になれる気がしなかった。

去年の12月、「くらしえほんキャンペーン」というものがあることを知った。身の回りのエピソードを書いて送ると、選ばれたものを絵本化してもらえるというキャンペーン。締め切りまで数日だったが、産後3か月を迎えようとしていたそのとき、今だから書けるものを残そうとスマホのメモ帳に思うまま打って投稿した。結果は落選だったのだけれど、なんとこのキャンペーンはひとりひとりエピソードの感想を主催者側が手書きでカードに書いて送ってくれるらしく、私のところにも心温まる言葉が届いた。

今日メモ帳を見て読み返してみたら、今よりも新米お母さんだった頃の私の、きっとあの頃にしか書けなかったろう文にしみじみとしたので、ここに載せておこうと思う。

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あなたが生まれてくるまで、私は「お母さん」になれる気がしなかった。
日に日に大きくなるお腹、ぼこぼこぐるぐるお腹の中から振動がきて、あなたがそこにいることは分かっていたけど、でもそれは愛しくてかけがえのない「あなた」ではまだなかった。

産休に入ってうきうきでご飯を食べにいったら2,3段の階段に気づかず足を踏み外して転んでしまった。
あなたの入ったお腹が地面について弾んだようだった。
足から血が出たけれど痛みは頭に入ってこず、ただただあなたが心配で、病院に行って心音を確認して、助産師さんに「大丈夫、元気だよ」と言われて脱力するほど安心した。
そのときに少し「お母さん」になった私。
あのときあなたは、血の気がひいて目の前が真っ白になった私のお腹の中で、いつもと変わらずぽこぽこと動き回っていた。私にはそれが、あなたからの「大丈夫、元気だよ」に思えて、病院に着くまでの間、懸命にそう思い込もうとしていた。

出産して、あなたに会った。めまぐるしくやらなきゃいけないことがおそってきて、初めてのお母さんの仕事に目を回した。

夜、あなたの眠った顔、バタバタと撮った昼間の写真を病院のベッドの中で見て、涙があふれて止まらなくなった。
10ヶ月、ずっと一緒にいてくれたのはあなただったのね。
私が喜んだり悲しんだり、慌てたりイライラしたりウキウキしたり、そんな10ヶ月のすべての時間、あなたがそばにいたんだね。
こんなにかわいいあなたに会えるのに、私ほんとにお母さんになれるのかなぁ、赤ちゃんかわいいってちゃんと思えるのかなぁなんて、ほんとにくだらない心配だった。
ふすぅ…とミルクの匂いの吐息。
まったく困ったママだなぁ、って言ってるみたい。

涙はまだ止まらない。かわいいあなたが見えなくなるくらい。
小さな手、足、思ったよりしわしわな顔、華奢だけれどしっかり重みのある体、全部が愛しくて、私はあなたが生きているこの世界がたまらなく好きになった。
私をお母さんにしてくれてありがとう。

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