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巨岩に守られるように建てられたエトルリアの小さな神殿

イタリア中部、ローマの北西70㎞程の村Pietrara(ピエトラーラ)から小さな森に入っていき10分ほど歩くと現れる巨岩のテラス。何のためなのか用途はわからない溝や段が施されています。

そこからぐるりと回り、テラスの下側に降りてくると、テラスはとても巨大な岩の上部だったということがわかります。

そして、この巨岩の下をくぐり内部に入っていくと現れたのは、この三角屋根の神殿でした。

この神殿は、2006年に石材の不法採掘がおこなわれているという通報が入った後に行われた調査により、発見されました。村の名ピエトラーラ(ピエトラはイタリア語で石、石材の意)が示すように、ここにはペペリーノと呼ばれる建築材となる火山砕屑岩が豊富です。

発見前は、地面が今より高く巨岩の下をくぐれる状態ではなく、また、巨岩に石壁がとりつけられ羊小屋として使われていたようです。

巨岩と同じペペリーノで彫ってつくられた神殿は、発見されるまで、侵入され荒らされることもなく、2世紀頃に放棄された状態だったそうです。神殿の中からは、左手には盃、右手にはたぶん麦の穂の束を持っていたと思われる玉座に座ったテラコッタ製の「豊穣の女神デメテル」像と女神の娘「春の女神プロセルピナ」の頭部、ペペリーノ製の水盤、最後の捧げ物が入ったままの器がみつかったため、Tempio di Demetra(デメテル神殿)と呼ばれています。

エトルリア・ローマ時代の豊穣の女神に捧げられた小さな神殿。巨岩に守られた神殿には、巨岩の間から光が差し込みます。テラス状になってる巨岩の上部で、どのような儀式が行われていたのか想像が膨らみます。ところどころに丸い穴があり、献酒が注がれていたかのか、梁をたてる穴だったのか。

そして何よりも、圧倒される岩の大きさ。日本の巨岩信仰を思い起こさせますが、この場合、巨岩の中には神殿が建てられ、女神の像まであるので、あくまでも信仰の対象は、巨岩ではなく豊穣の女神のようです。ただ、この巨岩に神聖さを感じ、女神デメテルを迎え入れるのにふさわしい場所として選ばれたのは確実のように思います。

豊穣の女神は、ギリシャ神話ではデメテル、ローマ神話ではケレス、そしてエトルリア神話ではVei(ヴェイ)と呼ばれていました。

ヴェイは、エトルリアの神々の中でも古くから信仰されていた重要な女神と考えられています。名前の起源は、力、エネルギー、そして生殖力という意味も持つラテン語の"vis"から来ているのではと言われています。名前の由来は確かではありませんが、ヴェイは、生命の循環、再生の女神でした。古代の人々は、ヴェイに穀物が豊富に実ることだけでなく、子宝に恵まれるよう、妊娠中守ってくれるようお祈りしたのです。そんなヴェイには「母なる」という修飾語がよくつけられていました。

エトルリアの時代からローマの時代、キリスト教が布教されるまで、名前は変われども、信仰され続けた母なる大地の女神。人間は、大きな自然の一部であり、自然をコントールしようなど思ってもいなかった美しい時代。自然に対して人間が再び謙虚になることができる日がくること願っています。

参考資料:
https://www.cemer.it/tesori-detruria-il-bosco-delle-valli-tra-natura-e-archeologia/
https://www.museoetru.it/etru-a-casa-aiser/agosto-e-la-dea-vei
http://www.prolocovetralla.it/2020/11/06/santuario-di-demetra/



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