見出し画像

展覧会┃ブーダンを光らせた「自然と人のダイアローグ」@国立西洋美術館

国立西洋美術館(以下、西美)のリニューアルオープンを記念して開催中の「自然と人のダイアローグ フリードリヒ、モネ、ゴッホからリヒターまで」は、ドイツのフォルクヴァング美術館とのコラボ企画です。両館の収蔵作品で構成されています。
 
展覧会名を見ると明らかですが、フォルクヴァング美術館の名前を前面に出していません。海外から持ってきた作品群を人寄せパンダにしない、どこか毅然とした姿勢が感じられ、好感を持ちました。
 
美術館・博物館は、資料(作品)を収集・保管・展示すること、資料に関する調査研究をすることを目的とした機関です。博物館法で定義されています。
とはいえ、わが国では、テーマに沿って作品を集めて展示する企画展がクローズアップされ、観客もそれを目当てに訪れるケースが大半。収蔵作品を見せる場は常設展で、企画展のチケットで入れるなど、いわば「おまけ」みたいな扱いに成り下がっている感があります。
 
西美も例外ではありません。それでも、西美は今回の企画展を、収蔵作品を改めて観てもらう、知ってもらう好機にしようとしているとうかがえました。
遡って2019年には、開館60周年を記念し、「松方コレクション展」を催しています。節目の時期には、収蔵作品を主軸にして企画展を組んでいるんですね。継続してほしいです。
 
さて、本展は「自然との対話」をテーマに近代美術を展観しています。印象派、ポスト印象派を中心に、ドイツ・ロマン主義から20世紀絵画までを紹介する内容です。
会場は4つに分かれ、「Ⅰ章 空を流れる時」「Ⅱ章<彼方>への旅」「Ⅲ章 光の建築」「Ⅳ章 天と地のあいだ、循環する時間」で構成されています。タイトルが詩的で美しい!
 
見どころはいろいろありましたが、私の脳裏に焼き付いたのは、ウジェーヌ・ブーダンに光を当てたことでした。
 
会場に入ると、まず左の壁面に挨拶パネルが、少し奥まった右の壁面にⅠ章のコーナー解説パネルが設置されています。続いて左の壁面と垂直(入口に対して正面向き)に壁が建てられ、そこにブーダンの優品《トルーヴィルの浜》が!

ウジェーヌ・ブーダン《トルーヴィルの浜》1867年


この壁面は観客の視界を遮っています。(展示室が丸見えになるのを防ぐと同時に、動線を作る効果も。)色はダークネイビー。入口から続く白い壁面とのコントラストが強く、壁そのものが目立ちます。ファーストインプレッションの形成に有効です。
 
そんな仕掛け(?)もあり、《トルーヴィルの浜》は、パッと目に飛び込んでキャッチーでした。ほとんどの観客が早速シャッターを切っていました。
私は、こんなふうに展示されたブーダンを見た覚えがありません。最初に登場する作品ですし、多くの人の印象に残ったのではないでしょうか。
 
ところで、風景画家ブーダンが1874年の第1回印象派展に出品していたこと、ご存知でしょうか?
私はといえば……すっかり記憶が抜け落ちていました(汗)。
 
はっきり言って、ブーダンは地味な存在です(個人的意見)。
 
ブーダンが生涯描き続けた主題は、ノルマンディー地方の海浜風景です。空を大きく扱い、ボードレールに「空の王者」と称されたブーダンの作品自体の魅力もさることながら、彼の美術史における重要性は何より、印象派以前はめったにされなかった戸外制作をいち早く行い、自然観察を基に、刻々と変化する雲の有り様や波の色を捉え、画面に再現した点。そして、ル・アーヴルで17歳のモネを写生に連れ出し、自然を直接観察することを教えた点にあるといいます。モネが画家を志すようになったのもブーダンの影響だとか。ブーダンとモネの出会いは、印象派誕生に大きく影響したのです。
 
主に印象派とその周辺の画家たちを取り上げたⅠ章です。知名度・人気度の高いモネを上述の壁面に持ってきても良かったはず。今回のコローのように、モネの近くにブーダンを展示するというやり方も考えられたでしょう。
ですが、「空を流れる時」というタイトルの下、「空」「雲」に着目し、空の王者ブーダンにスポットライトを当てた。差別化を図ったかどうかはわかりませんが、私はこの見せ方に感じ入りました。
 

……長くなりました。
最後に、印象的だった作品を少しだけ紹介させていただきます。


フィンセント・ファン・ゴッホ
《刈り入れ(刈り入れをする人のいるサン=ポール病院裏の麦畑)》1889年
額縁にも注目!

看板やチラシ・ポスター類のメインビジュアルに使われている作品です。私は額に注目してしまいました。絵具の厚塗りやうねるような筆触が特徴的なゴッホ作品のなかでも比較的あっさりした本作には、デコラティブ過ぎず、でも重厚感もほどよくある額縁がお似合い!
 

ポール・ゴーガン《扇を持つ娘》1902年

 この女性、とてもキレイ。でも、なんとなく違和感を感じたのは、椅子のせい。よく見ると、上から見下ろした状態を描いています。セザンヌの静物画に登場する、ずり落ちそうに見える不自然なテーブルクロス ↓ を想起しました。

<参考>ポール・セザンヌ《林檎とオレンジ》1899年頃(オルセー美術館)
西洋絵画美術館HPより引用
https://artmuseum.jpn.org/mu_ringotoorange.html(2022年9月4日閲覧)


クロード・モネ《睡蓮、柳の反映》1916年

痛んだ作品を見ると心も痛みますね。展示するだけで、作品は(目に見えないレベルであっても)痛みます。破損のひどい本作は、今後観る機会はなかなかないんじゃないかと……。
 


長文を最後までお読みくださり、ありがとうございました。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?