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短編小説『半分こ』

私は、よく片方をなくす。
ワイヤレスイヤホン、手袋、イヤリング、靴下、、、etc
わざとではなくよく無くなるのである。
ちなみに物忘れが激しい訳でもないし物をよく落とす訳でもない。
本当に何故か2つあると1つだけいつの間にかなくなっているのだ。この間も、テーブルに置いたつもりでいたのだが数分目を離したらなくなっていた。
小さい頃からよくなくなっていたので、慣れてしまった私は、初めから予備を買う癖が付いていた。

そんな私も来月には、20歳になる。
20歳のお祝いに実家に帰ってきているのである。

母「おかえりー」

私「ただいま。はいこれお土産ー」

お土産のケーキを置いて早々とリビングのソファに座ってくつろぎだす私

母「あら、ありがとうねぇ」

私「そこのケーキ美味しいよねー」

母「ここは、本当に美味しいものね、、」

不意に母が静かになった。不思議に思ってキッチンに向け顔を出すと

母「、、あんたまだ、1個多く買ってるのね。」

私「あれ?多かった?癖で買っちゃうんだよねぇ。」

母が真剣な顔でケーキの箱を見ている。

母「こっち来なさい。話があります。」

母があの顔をするのは、私が友達とノリで初めて朝帰りした日、以来だ。
なんかあったかなぁ?と心当たりがないままテーブルに座った。

母「あんたのその2つ用意しちゃう癖についてなんだけど。」

私「?よく半分、失くすから買うようにしちゃうだけだよー?」

母「違うのよ。あんたいつも自分で隠してるのよ。」

私「?」

母「あんたが3歳の時に、事故したって言ったわよね?」

私「うん。車に跳ねられて死にかけたって。」

母「それは、そうなんだけどね。もう1つ言ってない事があってね、あんたが忘れてるみたいだから黙っておいたんだけど、実は、双子の弟がいたのよ。」

私「、、弟?」

母「そう、昴って名前で、お姉ちゃんお姉ちゃんってずっと一緒に居たんだけどね。その事故も一緒に巻き込まれて、そのまま。。」

私は、内容の大きさに放心していると母が

母「で、その時の事故であんたを庇うように昴が前に出て引かれたの。。。その事故の後からあんた無意識に2つある物の半分を隠すようになったのよ。最初は、昴の事が忘れられないのかと思っていたの。でもどうやら違うみたい、、だってあんた、昴の事全部忘れてるじゃない。だから私達もあえて触れずに大人になるまで、もしくは、あんたが自分で気づくまでは、黙ってましょうってお父さんと決めたの。」

私「、、本当なの?」

母「燈(アカリ)と昴が遊んでる動画あるわよ?観なさい。」

見せられた動画には、確かに小さい頃の私と目元がそっくりな男の子が遊んでいる所が映っていた。
そして私は、知らずに大粒の涙が零れていた。
そして、急激に謎の喪失感と悲しさと懐かしさが入り乱れて、押し寄せてきた。
そこからは、ただただ泣いていた。
頭では、まだ昴の存在は、理解出来ていないのに、ただの見た事のない男の子のはずなのに。
私は、子供のように大声で泣いていた。


冬の朝のスンと音の消えているような冷気で真っ赤になった目を覚ました私は、今までよりスッキリとした目覚めと心なしか心臓の音が大きく聞こえた気がした。
未だに思い出す事は、出来ていないけれど。
『昴』という弟の事を忘れる事は、もう二度とないのだろう。
覚えてないのに忘れないというのも不思議な話だけど。

私「ありがとね。」

そう呟き、寒さが増してきた外の空気を吸いに歩き出したのだった。




あとがき

長い作品になった事、ごめんなさい
ここまで読んでくれて、ありがとう
何度もホラーにしたくなった。
正直言うと、もっと暗い暗い海の底くらい重くしようか迷った。
その方が暴れられそうだった。
でも我慢して前向きにしました。
なんか暴れたら、終わりがなくなって短編じゃなくなる気がしたので。

じゃあまた次の話で。

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