夏机

夏机(なつき) 短歌を作っています。塔短歌会・歌人集団かばん会員。好きな人と短歌ユニッ…

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夏机(なつき) 短歌を作っています。塔短歌会・歌人集団かばん会員。好きな人と短歌ユニット「藤棚と文机」を組んでいます。ご連絡はNatsuki.trewq(@)gmail(.)comかXのDMへ

最近の記事

つらくてもあるく(3首)「かばん」2024年9月号より

糸がしらおまえのようにありたいよかなしみに力む夜の足取り 紺の気配 来て見上げればらいすきはあしたもここに立っていること 起きるため眠ろう僕のあしあとをれんがときみは呼ぶだろうから

    • 一首評(田村穂隆さん・「塔」2024年5月号より)

      (評) 粕汁の汁の色の白っぽさや、そのアルコールの風味から、粕汁が脳みその「味」を変えるように思う作者の見立ては共感できるものだ。作者は死後、野で鳥が自分の死体を啄む様を想像し、精神活動のすべてを支配するとされる脳まで鳥に食べさせている。強烈な表現によって提示されているのは、生きる時間のすべては死への準備であるという思想であり、自らの、生きる存在がみな持ついつかは死ぬという本質的な弱さにその身を委ねるような慎み深い態度である。 評(文章)は「塔」2024年7月号に掲載された

      • 「塔」2024年5月号掲載作品など(夏机)

        抱える頭を埋めるのは肉傷つけた人のこれから傷つける人の 鬱病に覆われながら歩く僕のとなりで足元から染まる空 どうなっても幸せになりたかったと思うのだろう 水になりたい 初雪で家々を道を隠しつつ街はひとりの少年である 空間を埋めながら雪降りしきり夕べに人も明かりも端役 あなたが愛 歩道橋からはラブホテルぴゃんぴゃん満足気にかがよって 校庭の奥の夜闇に臙脂色のなみだをこらえているような城 人のない真夜を曲がればエネオスで篝火を見るように近づいた 冬の木の広げた腕の先の先 いつか誰

        • 「塔」2024年4月号掲載作品など(夏机)

          闘病は終わってきみは駅で一フォロワーとして見送っていた 産まれたときあんなにうれしかったのに風呂場の独り言のか細さ やりたいことを語るのを思い出しながら足音を深夜に馴染ませた 元カノと僕が夜道に見えたとき恋人をつくらなきゃと思った 黒いコートが向かいの列を埋めている中の方がまだ明るい朝に (返却は奥)目が合ったバーキンのお姉さんの二、三秒の手先 助手席で見ている赤と灰混じる空生きている人みな戦士 あたたかい喪失なんだと聞いている 風に立つコンドーム自販機 日光を吸った 怖れを

        つらくてもあるく(3首)「かばん」2024年9月号より

          「塔」2024年3月号掲載作品など(夏机)

          「死にたい」をうんって聞いてくれる人に水ははじめて氷になれる コート着て夜に飛び込み自転車でゆく二人組煙草吸いつつ この場所で生きていたんだね夢の中の双子の少女にもう一度会う 以上の3首は「塔」2024年3月号に掲載されたものです。 以下は選ばれなかった歌より3首です(誌面には載っていません)。 日と露の戦争があり白い火と窓を湿らす青にらみ合う  ※日=ひ、露=つゆ 思春期が彼を飲み込むみずからに世界の地階開きゆくとき ひとりだけわがままをいう十二月をぼくがしずめて殺して

          「塔」2024年3月号掲載作品など(夏机)

          「かばん」2024年2月号掲載作品(夏机)

          橙の明かりまとひてもう閉めし精神科医院しづもりてをり 美しくなき花ならむ白人の裸にくらき茎喜ばせ 死にし魚しづみていつか層になるやう生き抜きて振り返りたし  ※魚=うを 豆電球ひとつのあはい強弱をたしかめるうち終はる一年 にわか雨に頭を覆うものもないぼくらに死後の世界はないよ アーティストも観客も死体になってみずみずしい戦争のはじまり 中身からわたしも水になりそうな長い電話のあとのバスタブ 初雪のように自殺はさみしいぞと聞こえてぼくはぼくが恨めしい ※タイトルで、「2024

          「かばん」2024年2月号掲載作品(夏机)