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一首評(田村穂隆さん・「塔」2024年5月号より)

とくとくと粕汁をのむ鳥葬のためにおいしくなるのよ脳よ/田村穂隆

「塔」2024年5月号

(評)
粕汁の汁の色の白っぽさや、そのアルコールの風味から、粕汁が脳みその「味」を変えるように思う作者の見立ては共感できるものだ。作者は死後、野で鳥が自分の死体を啄む様を想像し、精神活動のすべてを支配するとされる脳まで鳥に食べさせている。強烈な表現によって提示されているのは、生きる時間のすべては死への準備であるという思想であり、自らの、生きる存在がみな持ついつかは死ぬという本質的な弱さにその身を委ねるような慎み深い態度である。

評(文章)は「塔」2024年7月号に掲載されたものです。

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