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人に成る病・試読版



 彼女と出会ったのは、ある秋口の寒い日のことだった。待合室には暖房を入れていたが、いつも以上に混み合っていることもあるからか少し熱気がきつい。正直暖房を切った方が省エネに繋がるかもしれなかったが、この病院はわざわざ遠くからやってきてくれる人が多く、その人のために寒い部屋を用意するわけにもいかない。だから私たちのようにずっとここにいる人間にとってみれば地獄のような時間ともいえた。
 夕方、隣の

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ロボフィリア・サイエンティスト

ロボットに魂は宿るのか?



 山奥にある研究所。
 研究所とは言っても木造の小さな家。風が吹けばどこからか風が入り、地響きがあれば棚にある皿が落ちて割れる。お世辞にも良い家とは言えない家があります。
 そこには一人の男性が住んでいました。何をしているのかといえば、もちろん、研究です。それが人々の役に立っているのかどうかは定かではありませんが、いずれにせよ、その研究所で研究をしている人間が

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ロールケーキは甘くない

「結婚するんだ」
 十年ぶりに出会ったクラスメイトに、喫茶店でそう言われた。
 それを言われた俺は、アイスコーヒーを一口啜りながら「……そう」と言った。それしか言えなかった。
「変わったね、この町も。卒業したのって、もう何年前だっけ?」
「十年前だろ。俺もお前も、年を取るわけだよ」
「やだ。何よ、その表現」
 あいつは、そう言って昔と変わらない笑顔で答える。
 ガムシロップを開ける。もう三つ目だぞ

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モニ・ヒューマンの憂鬱



 モニ・ヒューマン。

 いつからそのモニ・ヒューマンが観測されるようになったのかは定かではないが、少なくとも人間が今の文明を築き上げたころにはすでにモニ・ヒューマンは実在していたといわれている。

 モニ・ヒューマンの名前の由来はいたってシンプル。その外見を二つの単語で表したものである。

 モニターとヒューマン。つまり、頭がモニターになっている人間ということだ。

 それ以外は人間とま

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機関少女は世界平和の夢を見るか? 第ゼロ話



 着流しの少年、浅日夏目(あさにちなつめ)は新東京特別区鷺宮町にある洋風屋敷の玄関前へと到着していた。

 夏目がここまで辿りついた理由としては、今彼が持っている手紙が一因であるといえる。

「……六道さんが手紙を送るなんて聞いたこともない」

 手紙の主は彼の知り合いである六道唯一(りくどうゆいいつ)からのものだった。

 その手紙の内容は次のとおり。

 ――浅日くんへ。

 君の明晰

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僕は吸血鬼になれない



 僕の一族は代々吸血鬼だった。

 吸血鬼、とは名前の通り血を吸って生きている。ニンニクが嫌いで十字架も嫌い。夜が好きで太陽が嫌い。それが吸血鬼の一般的な属性だと思う。

 けれど僕は普通に学校に行くことが出来る。朝起きて、普通に暮らすことが出来る。十字架やニンニクには時折嫌悪感を抱くこともあるけれど、乗り切れないことはない。しいて言うなら毎朝トマトジュースを飲む程度かな。

 だから、僕は

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