モニ・ヒューマンの憂鬱

 一

 モニ・ヒューマン。

 いつからそのモニ・ヒューマンが観測されるようになったのかは定かではないが、少なくとも人間が今の文明を築き上げたころにはすでにモニ・ヒューマンは実在していたといわれている。

 モニ・ヒューマンの名前の由来はいたってシンプル。その外見を二つの単語で表したものである。

 モニターとヒューマン。つまり、頭がモニターになっている人間ということだ。

 それ以外は人間とまったく変わっていない。だからモニ・ヒューマンを人間と取るか、彼ら独特のカテゴリーとするかは、人によって判断が変わってしまう。

 そんなモニ・ヒューマンは人間の恋愛対象になりえないことが多い。やはりモニター型の頭がネックになっているのだろう。それをモニ・ヒューマン側が思っているのか、人間が思っているのかは解らないが。

 しかしながら、モニ・ヒューマンだって恋愛をする自由もあるだろう。

 これは、私の友人であるモニ・ヒューマンを追ったある一つの思い出話になる。少々追えていない部分もあるかもしれないが、それは少し我慢してくれたまえ。そうしてくれると、私も非常に助かる。

「一つ、聞きたいのだが」

 国立大学の図書館。荘厳な雰囲気を漂わせ、一言も発する状況を許されていないような、そんな環境で、私は声をかけられた。

 顔を上げると、そこに立っていたのは、モニターの頭にセーター、マフラーを巻いている男だった。――モニ・ヒューマンというやつだ。

「君は、モニ・ヒューマンかい?」

「だったらどうする?」

 ニヒルな笑みを浮かべるモニ・ヒューマン。モニ・ヒューマンは文字通り、ニヒルな笑みを浮かべることができる。それだけではなく、人間に負けない豊富な表情を表現することができる。そもそも人間の脳だって電気信号でやり取りしているのだから、それが出来ないことは無い。

モニ・ヒューマンは電気信号で頭部のモニターに感情を映し出す。すなわち、モニ・ヒューマンは人間以上の感受性に富んだ生き物であるといわれているのだ。

まあ、そんなことはどうだっていい。私は彼のニヒルな笑みをどうにかしてさえぎろうとすべく、会話を続けることとした。

「……別に何でもないよ。ただ、モニ・ヒューマンをこの大学で見るのは珍しいから言った。ただそれだけのことだ」

「ああ。そうかもしれないね。確かにモニ・ヒューマンは僕しか居ないかもしれない。そして、モニ・ヒューマンはこの近辺に住んでいないし」

「そこまで言うなら……、どうしてここに通うようになったんだ? ここはそこまで素晴らしいものも無いと思うが……」

「哲学をまなびたくてね。それで有名な滝谷教授の研究室に居るわけだ」

「滝谷教授、だと? あの偏屈で有名な」

 滝谷教授は確かに哲学では有名だ。マリーの部屋やポールワイス、そういう感じの思想実験? というものについての論文をいくつも書いているらしい。らしい、と最後を締めているのは哲学という分野について、あまりにも自分が解らないだけのことだ。だから、ざっくばらんに言うしか無いということになる。

 滝谷教授はあまり研究室に人を入れない。そんなことも聞いたことがある。どうしてかは知らないが、たぶん彼の性格が合わないのだろう。研究室に入る人間は居ないことは無いが、そう長く持たない。それが、彼を人から遠ざけている原因なのかもしれない。

「そう。その滝谷教授だよ。……偏屈という人が多いかもしれないが、滝谷教授は話すととても面白い人だよ。素晴らしい人だと言ってもいい。天才だ、まさしく」

「そりゃ……大学教授になっているくらいだからな。それなりに頭はいいのだろうよ」

「確かに」

 そう言って、僕は勉強を再開する。ノートと参考書に視線を行き来させて、勉強を始める。どういう勉強をしているのかというのは、まあ、簡単に言えば『試験勉強』になるのだけれど、これについては割愛させてもらうことにしよう。それがいい。そういうほうがいい。

 ……そのあと、モニ・ヒューマンと何を話したかと言えば、まあ、他愛もない話ばかりだった。あまりに他愛も無さ過ぎて覚えていないくらい。しいて言うならば、彼の名前がユウキという名前だったくらいか。さすがに苗字までは教えてもらえなかったが、別にそこまで教えてもらう必要も無い。

 それから、何だかんだで僕とユウキは友人になった。出会ったら挨拶をするし、会話もする。ソーシャルネットワーキングサービスで連絡を取ることもあるし、一緒に昼食をするようにもなった。周りからはモニ・ヒューマンとかかわるなんてお前らしいなどと言われたが、正直どうしてそういわれるのかは解らなかった。

 なぜなら彼は普通の人間だったからだ。そりゃ、頭がモニターという人間とはまったく違うポイントが一つある。けれど、けれどだ。それ以外の考え方や身体は人間とまったく変わらない。だのに、どうしてモニ・ヒューマンは嫌われてしまうのか。それは社会問題にもなっていることだけれど、しかしながら、それをどうにか解決しようという人間は一握りに過ぎない。国もどうにかしてモニ・ヒューマンを庇護しようといろいろな政策を考えているらしいが、あんまりモニ・ヒューマンばかり庇護していると、今度は普通の人間から批判されてしまう。だから、どちらにも批判されない最善のラインを見極める必要があるということだ。まあ、政治に詳しくない僕が精いっぱいの知識で何とか語ることの出来るものはここまでになる。

 そんな彼が昼休み、学生食堂にやってきた。別段それは珍しいことではないし、彼がエネルギー触媒を持っていることも――モニ・ヒューマンは口を持たない。だから、エネルギーを摂取するのも頭部のモニターの横側にあるプラグから――ということになる。もちろん人間のするような食事ではなく、電気エネルギーがたっぷり詰まった触媒だ――それはまったく珍しいことじゃない。

 ただ、彼がどこか悲しげな表情を浮かべていたこと――それが少し気になっていた。

「……どうかしたのか? 何か、悲しいことでもあったような気がするが……」

「悲しいことがあったわけではないよ。ただ、ちょっとね……」

「何があったんだ? もし可能なら、僕に話してみるのはどうだ? 誰かに話すことで、ちょっとは気分が楽になるかもしれないぞ。まあ、別に強制する必要はないが。言いたくないのであれば言わなくていい」

「……実はさ」

 僕の隣に来たユウキは、ぽつりとこう言った。

「――好きな人が居るのだけれど」

 ◇◇◇

 ユウキからの言葉を要約するとこうだ。

 ユウキは哲学の授業を受けている。もちろん、哲学を専攻しているのだからそれを受けることについては何ら難しいことじゃない。むしろ基本ともいえることだ。

 先頭でいつものように講義を聞いていたら、彼の隣に一人の少女が腰かけてきた。

「ねえ、君、いつも先頭で聞いているよね」

 講義終わり、彼は声をかけられたのだという。いつもはそんなこと無かったので驚いてしまったらしいので、まともな返事をすることも出来なかったのだという。

 だが、彼女はそれでも気にする様子はなく、

「あ、友達が呼んでいるから、またね。君、いつもこの講義を取っているのだよね? だったら、また会えるね!」

 そう言ってそそくさと去って行ったらしい。

 それを見た彼は、暫く彼女の姿を見守ることしかできなかった。

 ◇◇◇

「要するに、アレか。一目ぼれというやつ」

「……そうなのかもしれないね」

 エネルギー触媒をプラグに差し込み、目を細める。もちろんそのしぐさも映像としてモニターから出力されているので実際にそう表示されているわけではないのだが。

 僕はカレーを一口頬張って、噛んで、飲み込む。そして、彼の話に答える。

「だったら、彼女の連絡先なりなんなり聞けばいいじゃないか。名前とか。それがベストかな。名前を聞いて、そこからうまい具合に発展させていく。それがいいんじゃないのか」

 そう言っている僕だが、残念なことに彼女のいた経験が無い。いわゆる彼女いない歴=年齢のカテゴリーに所属する人間なので、ユウキにこうアドバイスできる権利ははっきり言って持っちゃいない。けれど、彼が気にしているのだから、アドバイスの一つくらいしてみたくなる。

 ユウキは首を横に振って、

「実は名前も知らないんだ。残念なことに。毎回講義で会う時には挨拶を交わすのだけれどね……」

「その時に、名前は知らないのか? というか、出席確認があるじゃないか。あの時に苗字くらい確認できないのか?」

「さすがに苗字は解るよ。……上倉さん、だったかな。とてもカワイイ子だよ。いつもパーカーを着ているんだ」

 上倉、か。

 聞いたことがあるような無いような名前だ。僕もそこまで人の名前を覚えるのが得意ではないので、人のことを言えないのだけれど。……まあ、いいか。今度、彼に聞いてみることにしよう。

「で? ユウキはどうしたいわけ」

「どうしたい、って?」

「告白して、付き合いたいのか。それとも良き友人として今の関係を持続していきたいのか。どちらかだろ。男と女がどうなるか、って言えば。まあ、僕だってあわよくば前者まで行きつけばいいな、という感じで淡い期待を抱くけれど」

「ええっ? ……うーん、どっちだろう」

 どっちだろう、とはどういうことなんだ?

 僕はユウキの発言を聞いて思わず首を傾げそうになったが、あんまりそれを外に出すのも彼に悪いし、一先ずそこで止まることにした。

「……なんというか、不安なんだよ。モニ・ヒューマンはまだ、そこまで市民権を得ていない。確かに政府が庇護する法案をいろいろと出して可決されている。それでも人々の心にはまだモニ・ヒューマンを認めない心がある。それは、紛れもない事実だ。そうだろう?」

「そりゃあ、まあ……。でも、もしかしたら、の話だろ? だったら同じ理屈で言えるじゃないか。『上倉さんはモニ・ヒューマンを嫌っていないのではないか』って仮説を立てることが出来る」

 そうかあ、と納得した様子に見えるユウキだったけれど、どこかまだしこりが残っているように見える。なぜなら彼は笑っていなかったからだ。笑っていなければ、どこか違和感を抱いている――そう思えたからだ。

 一先ず、その相手――上倉さんについて僕のほうからも調べてみることにしよう。僕はそう思いながらカレーの残りをスプーンで掬い始めた。

「上倉さん、ねえ」

 放課後、一緒に帰る友人である三塚に上倉さんについて訊ねることにした。もちろんユウキが上倉さんのことを気になっている――なんてことは話していない。それについては、プライバシーにかかわる問題だからな。本人の許可ももらっていないし、そうぺらぺらと話していいことではない。

 僕はあくまでも、上倉さんのことは何も言わずに訊ねただけのこと。

 三塚は情報通だ。だからと言って何でも知っているわけではない。あくまでも彼の中で知っている情報だけを教えてくれるのだが、その『彼の中で知っている情報』というものの範囲が広すぎるので、いろいろな人が三塚に訊ねてくる――というだけのことだ。

「何が知りたいの? 名前? 趣味? ツイッター? それともラインのアカウント? あるいは家の住所とか飼っているペットとか?」

「何でお前がそこまで知っているんだよ、逆に怖いわ」

 やっぱり……なんというか、怖い。時折友人が怖く感じる。

「まあ、冗談は少し入っているけれどね。さすがにツイッターのアカウントは知らないよ」

「家の住所や飼っているペットは知っている、ということなのか……?」

「ところで、何を知りたいの?」

「……まずは名前から行こうか」

「オーケイ。名前は上倉彩音。とってもカワイイ名前だよね」

「まあ、カワイイ名前だな。うーんと、ほかに何か情報を持っていないか?」

「家の住所とか?」

「そうじゃなくて! 好きな本とか、そういうものだよ」

「……もしかして、上倉さんのことが好きな訳?」

 僕ではないぞ!

「僕ではないよ。……まあ、その人が恥ずかしがりやだから、代わりに僕が聞いているような感じになるかな」

「ふうん、成る程ね。まあ、そこまで聞く必要はないけれどね。僕はあくまでも情報を『提供』するだけ。相手から情報を『奪ってしまう』ことは悪いことだ」

「……そう言ってもらえて、とてもうれしいよ」

 正直、三塚からユウキのことを聞き出されるのではないかとヒヤヒヤしていたので、これを聞いて少しだけ安心した。ほっとした、と言ってもいいだろう。

 もし何か感づかれたらたまったものではないからな。口止め料を支払ってでも止めないと不味い。

 一先ず情報は入手した。趣味についての情報が手に入れられなかったのが手痛かったが――。まあ、それについては何とかなるだろう。何とかしてもらうしかない。

 あくまでもこれは彼の問題。

 モニ・ヒューマンであるユウキの問題なのだから。

 ◇◇◇

「今日も出会ったよ」

「そうか」

 昼食。いつもの学生食堂にて。

 何だかんだでその場所は上倉さんとの進捗を確認する場所になった。

 ユウキが一言進捗を言って、僕がそれについて反応する。

 普通に考えると、何だか不可思議な状態だったけれど、それは僕たちにとって普通だった。

「……なんというか、全然面白みがないよな」

「うん?」

 エネルギー触媒を刺したところのユウキを見て、僕はそうつぶやいた。

 ラーメンを啜って、僕は考える。

 普通、考えてみれば解る話かもしれないが、もうこんな状態が二か月くらい続いている。つまりどういうことかと言えば、上倉さんとユウキが講義で出会って、たまに一言二言の会話を交わすだけ。もちろんどちらかが席が変わってしまってそれすらないこともあるが、とはいえそれ以降進展することは無い。

 それって恋愛としてどうなのか? という話になるのだが、進展のスピードをこれ以上上げるつもりは本人にはないらしい。ゆっくりと、進めていきたいと言っていた。やはり、本人自身モニ・ヒューマンというものがネックになっているらしい。

 僕からしてみればそんなことどうでもいいように見えるのだが、しかしそれは本人にとって重要な問題なのだ。もちろん、人間と人間の恋愛ではそんなこと気にしたことも無い(そもそも種族が一緒だから、気にすることが無い)のだが、モニ・ヒューマンと人間の恋愛では種族の違いがネックになるのだという。

 特にモニ・ヒューマンは人間にとって嫌われている種族であること――それがかなり彼らにとって障害となっていることが多い。差別自体は(あくまでも法律上では)とっくに無くなってしまっているが、個人個人の間では未だ残っていることが多い。だからこそ、モニ・ヒューマンは人間について苦手意識を持っていて……なんてことも珍しくはない。

 ユウキは苦手意識こそ持っていないかもしれないが、それに対する不安が大きいのだろう。上倉さんがモニ・ヒューマンに苦手意識を持っているのではないか、ということについて、それが彼にとってのネックなポイントだった。

「……まあ、それは解るけれどさ……。この二か月進展なしってのはどういうことよ? さすがにこのままだと、別の人に取られてしまうかもしれないぜ?」

 因みにまだ一人ということは三塚の情報網から確認済みだ。あいつ、何でただの大学生なのにそこまで情報を仕入れているのだろうか? 学生じゃなくて、もっと別の適職があるように見えてくるが……まあ、そこまでは言うまい。

 モニ・ヒューマンはただの人間と変わらない。僕はこの数か月ユウキと向き合ってきてそう思えるようになってきた。今まではあまりそういう感情すら抱かなかったのだが――、なんというか、人ってすぐに考えが変わるものだと思う。きっとモニ・ヒューマンに対して苦手意識を持っている人の大半は、食わず嫌いと同じ観念なのではないだろうか? 接していないけれど、モニ・ヒューマンは嫌い――みたいな。きっとそうなのだと思う。一度、モニ・ヒューマンと接してみれば、そういう意識も百八十度変わるに違いない。

「そうかもしれないけれど、まあ、でも、気になるものだよ、やはり。モニ・ヒューマンと人間は相容れない。そう考えている人間も少なくないわけだし」

「そりゃあそうかもしれないが……でも、彼女に直接確かめたわけでもないだろう?」

「そんなこと、出来るわけ無いじゃないか」

「それは……」

 確かにそうだった。

 そんなこと、簡単に出来る話ではない。とはいえ彼のようにいつまでもうじうじとしていると簡単に出来るものも出来なくなってしまう。それは道理だった。

「でも、これ以上進展しないことは無いぞ、はっきりと言わせてもらうが。お前はどうしたいんだ? 前も聞いたかもしれないが、お前は上倉さんと、彼女と付き合いたいんだよな?」

 こくり、とユウキが頷いた。

 少しモニターを赤くしていたから、とても恥ずかしいのだろう。一応言っておくが、これを言っている僕だってとても恥ずかしいのだということを理解してほしい。

「まあ、それなら少しくらい頑張ってみるのはどうだ? 自分から話しかけてみるとか。そういうことも恋愛を進展させる一つのアイデアだと思うぞ?」

「成る程。やはり君に相談してよかったよ。いつも君は的確なアドバイスをくれる」

「……一応言っておくが、僕も恋愛経験は皆無に等しいからな? もし失敗しても、何の責任も取ることは出来ないぞ」

「それでもいいよ。こうやって相談に乗ってくれること。それだけでいい」

 そういうものなのか。

「ああ、そういうものだよ。とても有難いと思っている。感謝しているよ」

 ユウキが言った言葉を聞いて、僕はとてもうれしかった。まさかそんなことを言ってくれるなんて思いもしなかったからだろうか。

 そして僕はラーメンを啜る。暫く会話に夢中になっていたためか若干伸びてしまっている。けれど、まあ、そんなことは問題にならなかったほど、彼との会話に夢中になっていたのだと思えば、プラマイゼロだった。

「今日はなんと、自分から話すことに成功したぜ!」

「おおお、マジかよ!」

 何たる成長の結果! 素晴らしいことだと思う。ついこの間までどうすればいいか悩んでいた人間とは到底思えない。

「どういうことを話したんだ?」

「日常の会話だよ。僕が本を読んでいたのだけれど、どんな本を読んでいるのかって質問してくれたんだ。それで僕はうれしくなって、いろいろと話した。どういう本が好きなのか、どういう作家が好きなのか、ってことをね!」

「成る程ね。上倉さんはどういう反応を示したんだい?」

「彼女も本を読むのが好きみたいでね。とっても可愛らしい笑顔で答えてくれたよ。いろいろと」

「そうか、よかったじゃないか」

 どうやら進展はあったようだ。それを聞いて少しだけ安心する。

 ずっと進展なし、で進んでいくのも気分のいい話ではないからな。そろそろ何らかの進展があってほしいものだと思っていたところだったし。

「君のおかげだよ。おかげで僕は一歩先へ歩みを進めることが出来そうだ」

「そう言ってもらえて、僕もうれしいよ。ここまで来たのだから、行けるところまで行ってしまえよ? 例えば――」

 そう言って。

 僕は箸を置いて、右手で穴を作り、左手の人差し指を立てて、それを穴に通すしぐさを見せた。

「遠からず近からず、こういうことも……な!」

 ――見る見るうちに、ユウキのモニターが真っ赤に染まっていく。面白いくらい、当り前で普通の反応を示した。

「さすがにそれはまだ……早いんじゃないかな……」

 正論の返しをされて、僕は僕で、しどろもどろに答えることしかできなかった。

 その後、ユウキと上倉さんは無事に付き合うことが出来た。あの時はモニ・ヒューマンと人間のカップルということで学内でも話題になっていたのを覚えている。

 結局のところ、上倉さんはモニ・ヒューマンなんて気にしちゃいなかった。

 ただ、好きな人を愛するだけ。

 それは至極正論なことだと思うし、間違ってはいない。

 けれど、一つだけ疑問に思うことがある。

 それは僕とユウキの昼食に、上倉さんも一緒に参加するようになったことだ。

 最初二人がやってきたときは、気を利かせて席をずれようとしたのだが、ユウキがそんなことしなくていいって! と言って半ば強引に三人で食事を食べることになった。

 別にそれっていいのか? とあとでユウキに聞いてみたら、上倉さんも君に会いたいと言っていたし僕としては何ら問題ないよ、と言ってくれた。有難いことだが、何だかなあ。

 これで物語は終わり。

 モニ・ヒューマンの刹那の憂鬱と、その後のハッピーエンドまで語ってしまったのだから、あとは平和な日常が続くだけ。

 え? 結局その後そいつは――『やった』のか、って?

 君もけっこうゲスな質問をしてくるね。まあ、最初にそれを口にしたのは僕だけれどさ。

 それは今、語るべきではないと思う。まあ、物語の典型的なフレーズで述べるのであれば、『それはまた別の話』ということだ。だけれど、いつか語るときが来るかもしれない。良き友人の恥ずかしい初体験のエピソードを、ね。

 今はともかく、モニ・ヒューマンと人間の恋愛が末永く続くことを、少し距離を置いた位置から見守るだけさ。一友人代表として、ね。

終わり

――――

初出:異種ラブアンソロ(2016年4月)

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