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自分で自分のご機嫌を取る

 生きていくことは、案外大変でつらい。
 そう人に打ち明けると「深く考えすぎじゃない?」「もっと気楽に生きたら良いのに」とアドバイスされる。

 別に私も、好きで考え込んだり悩んだりしているわけではない。つらいときは「頑張れわたし!」となるべく自分で自分を励ますし、状況が好転するように努力はする。でもそれはやっぱり苦しいし、自分の力だけではどうすることもできない理不尽な状況にも遭う。そんなときは他人をうらやましいと思ったり、私をこんな状況に突き落とした当の本人がのうのうと生きている姿を見てぶん殴ってやりたいと思ったりすることだってある。

 もちろん、いま街で楽しそうに笑っている知らない誰かも、多かれ少なかれ不幸せなことは経験していると思う。でも自分が不幸のどん底にいると、「どうして私だけこんな目に遭わなきゃいけないのよ」と、悲しみと怒りで、どこにもぶつけようのない気持ちを抱えてしまい、お腹の奥の方がきゅーっと痛くなる。
 眠れない夜もある。
 それは時が解決してくれると他人は言うけれど、多少緩和はされても消え去ることはない。過去の苦しみから一発で解放させてくれる薬でもあればいいのに、もちろんそんなものはない。苦しみは、一生、その人にまとわり続けることになる。

 でも、そんな私でも、前向きに明るく生きたいと思うし、そう生きる権利はあるんじゃないかと、自分に言い聞かせる。私は27年間人間をやって来て、ようやくその「緩和ケア」の方法を見つけた。

 簡単なことだ。「自分で自分のご機嫌を取る」というものだ。

 赤ちゃんだったら、お父さんやお母さんや周りの大人がご機嫌を取ってあやしてくれる。
 でも私たちはもう大人だ。だれも私を甘やかしてくれないし、あやしてくれないし、100%思い通りに動いてくれるわけはない。自分のご機嫌を取ってあげられるのは、自分自身しかいないのだ。

 自分のご機嫌を取るためには、まず何をしたら自分がご機嫌になるのかを知る必要がある。
 これは個人的におすすめな方法の1つだが、1日に3つ、その日にテンションが上がったことを記しておく。
 「好きな野球チームが勝った」「新しいハンドバッグを買った」「喫茶店のコーヒーがおいしかった」。些細なことでいい。誰に見せるわけでもないから、性的な内容でもなんでも欲望のままに書けばいい。
 それをひたすら記録する。
 次に、なんとなく「これは簡単にできることだった」「これはちょっとむずかしかった」と、ざっくり難易度を分ける。AとかBとかCとかランクを書いておけば良い。さらに暇だったら、なぜそれをしたら気分が良くなったかまで考えてみるといいが、そこまでする必要もない。

 あとは落ち込んだり傷ついたり苦しんだりしたときに、そのメモをさっと開いて、実践できそうなことをやるだけだ。

 例えば私は手軽に元気になりたいときは、とにかく色の濃い口紅を塗る。似合っていないのは100も承知だが、はっきりした色の口紅は、自分が「強くなった」気分になれる。
 同様に、明るい色のアイシャドウを塗りたくる日もある。
 好きな球団の何年か前の優勝決定シーンの動画を観ることもあるし、「もしも羽生結弦選手と付き合ったら」というくだらない妄想をすることもある。

 どうしようもなく深く落ち込んだ夜にはちょっと高いウイスキーを飲むし、本当につらくて苦しい最上級のときには、高いブランドバッグを買ったこともある。

 一時的でもほんの一瞬でも良いのだ。
 自分のご機嫌を取ることで自分が苦しみから解放されるなら、構わないと私は思う。傷と向き合えるほど、誰しも強いわけじゃない。少なくとも私はそうだ。

 だから私は、適度に自分のご機嫌を取りながら、きょうもつらくて苦しい人生という舞台を生きていく。

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