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七澄シロ
2020年10月16日 21:51
会社を出て空を見上げた。広げたビニール傘を雨が不機嫌に叩いている。その向こう側で鈍色の雲がどよりと空を覆っていた。あの日はまだ雨は降っていなかったなと思った。それが始まりだった。閉ざされていた記憶が少しずつ開かれていく。躊躇いながらどうにか息を飲んで、その扉の端に手をかけた。