南東北旅行③

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3.快速湯けむり号

何故か茶色い

さて、本旅行記は鉄道マニアではない人にも楽しんで読めるよう、なるべく平易な表現を心掛けて執筆している。その意味でここまでご紹介してきた山形新幹線や銀山温泉はまだ面白みが伝わりやすかったのではないかと思うが、これから乗る列車に関してはオタク性癖純度100%の愉しみ方をしているので何とかご了承願いたい。もしくは狂ったオタクがよく分からないことを叫びながらハイになっているのを生暖かい目で見守っていただければ幸いである。
ということで新庄から乗車するは快速湯けむり。陸羽東線まわりで仙台へ向かう。

「急行型」の車内

なんとか易しい解説を試みてみよう。車両はキハ110系0番代という形式で、現存する数少ない「急行形車両」である。JRでは別料金を取る定期優等列車が全て「特急」に集約されてしまい、「急行列車」という概念は風前の灯火なのだが、そんな中この車両はかつてその「急行列車」用に設計され運用された形式で、「急行列車」という概念を現代に味わえる貴重な存在なのだ。特急のそれより一段落ちる簡素な座席が往時の風情を感じさせる。

(オタク向け解説:「急行形」というとキハ58や12系のようなボックスシートじゃないのか、と思われる人も多いと思いますが、そのキハ58や12系にしても「かすが」や「だいせん」では回転式リクライニングシートに換装されていたあたり、国鉄末期~JR初期においてはこのようなかたちこそ「急行列車」の姿だったのではないかと私は思ってます。)

エモり散らかしている車窓

オタク語りはともかく、新庄駅を発ち奥羽本線と別れれば、陸羽東線の車窓はローカル線として満点の眺めだ。夏の青すぎる空に鮮やかな緑が目に染みる。

空きすぎでも混雑しているでもない適度な乗客数、好

陸羽東線沿線の温泉地などの観光需要がある湯けむり号はローカル線にしてはそれなりにお客さんが乗っている。“生きた”鉄道が好きな身として、また往時のローカル線急行列車概念を追い求めるオタクとしてはこれもまた非常に好ましい。

車内販売まである。オタクの妄想みたいな列車

何より快速湯けむり号のポイントは車内販売の存在だ。新幹線や特急でも次々数を減らしている車内販売だが、快速湯けむり号は観光向けの性格があるため今でも車内販売を実施している。品揃えもジュースやお酒にお菓子やおつまみ、ちょっとしたグッズなど教科書通りの「車内販売」。「急行列車」概念でこんな体験ができるのもたまらない。

車内販売があることを見越して敢えて何も買わずに乗り込んでいたので、車中のお供は全て“現地”調達だ。…車内販売で購入した地ビールと地の肴とともに、山中を往く急行形気動車の揺れと唸りと座席に身を委ねながら、ローカル線の鮮やかな車窓を愉しむ…これぞ「列車旅」の理想形ではないか。

やま
さと

この趣味をやっていると、「贅沢な退屈」というものに出くわすことがままある。快速湯けむり号での時間はまさしくこれであった。常に何かに追われがちな現代社会の中で、特に何もすることがない、ただ時間に身を任せるひとときに心が洗われるのだ。

さて、列車は陸羽東線を抜け、小牛田(こごた)から東北本線に入った。仙台に向けラストスパートだ。さっきまでのローカル線とは打って変わって、複線電化の幹線である東北本線を力走していく乗り心地が楽しい。

幹線を疾走
松島の最寄りは仙石線だが東北本線からも一瞬見える

松島の海を過ぎれば車両基地の脇を抜けていよいよ終点だ。

到着!

新庄から2時間40分、終点仙台に到着。快速湯けむり号、普通の旅行者にはともかくオタクにはオススメの「急行列車」概念を追想できるとても良い列車であった。

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