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1か月ぶりのデートは虚しかった。2

前回の2日目のお話し。

元々目覚ましいらずの朝型のわたしは朝6時には目が覚めた。

前日は日付が変わる前に寝たせいで彼も早めに起きてきて、顔を洗い歯磨きして、軽く化粧してまたベッドでじゃれ合う。

少ししてから彼のデバイスでゲームをして、それが飽きればベッドに戻り身体を重ね、シャワーに行く。

一人暮らし初心者の彼の家の水回りは汚れていて、キッチンと浴室それぞれの排水溝と洗面所全体を掃除して、洗濯機をまわした。

ストレス発散。

洗面所に行った彼は「綺麗になってる!」と子供みたいな声をあげた。

夕方の新幹線で帰る以外、今日の予定は特になし。

まだお昼前でどこにでも行ける体力も時間もあったけれどわざわざこちらから提案はしなかった。

これまで積み重なった暗い気持ちを払拭するためにこの2日間を楽しみにしていたのに、昨日の1日でたくさん悲しい思いをした。

自分の中に、わざわざ取り戻そうとかそういう意欲も無くなっていた。

彼からだって、どこに行くかとかの提案もなく、それどころかまたベッドに寝転んだ。

お昼寝したっていい。

恋人といるときこそ幸せに眠れるし、至福の時間だと思う。

でも彼は、

そのまま5時間お昼寝した。

5時間して起きたわけではない。帰る直前にわたしが起こした。

普段からあまり眠らず、お昼寝もしないわたしはもちろん退屈。

洗濯物を干し、持ってきた小説を読み、洗濯物が乾くと全て畳み、まわし切らなかった洗濯物をまた洗う。

彼の洗濯物は全て表裏が逆だった。

反転して脱ぐ方が難しいような仕事用のワイシャツまで、抜かりなく全て逆。

彼の親はなにも言わず、なにも教えず、甘やかされて育ったんだろうな。そりゃあ価値観が違うよな。なんてため息が出た。

昨日はせっかくの浴衣が楽しく着れず、今日したのは排水溝掃除と洗濯物。

この2日、関西まで来てなにやってんだろ。笑

遠距離だよ。

会いたい気持ちを1ヶ月我慢したんだよ。

この時間もっと顔見てお話しできたよ。

そう何回思ったかわからないし、そのうちに考えることが惨めでやめた。

文句をいうくらいなら起こせばよかったのもわかっている。

でも、このお昼寝は別に間違いではなくて、お互いにお昼寝できて満足できるカップルもいる。

"わたしの場合は"合わなかった。ただそれだけ。

第一、起こしてまでなにかしたい気持ちがもうなかった。

このまま起きずに夕方になって欲しいとすら思いながら、起こさないように洗濯物を取り込んだ。

事実、あと1時間以上遅い電車でも間に合ったけれど、このままひとり退屈な時間を過ごすくらいならさっさと帰りたくて、早めに出ることに決めた。

気持ちよさそうに寝息を立てる彼は、声をかけてもなかなか起きず、何度か揺すると目を覚ました。

「もう出るね。」

「え。」

「時間だから、駅まではいいからまたね。」

慌てて起き上がるも、まだ頭のまわっていない彼は「え、え。」と戸惑いながら玄関まで来る。

「行っちゃうの?」

「うん。ありがとうね、またね。」

「え、やだ。え。」

泣きそうな声で手を振る彼に向けた「またね。」は社交辞令な気がした。

2人で家を出る前に名残惜しいキスをして、手を繋いで駅に向かう。駅の改札では振り返りながら名残惜しそうにお別れする。そんなストーリーを描いていた。

なにこれ。なにこれ。

怒りも悲しみも枯れた虚しい感情を抱えてひとりで駅に向かう。

手にしたスマホは振動し続け、彼からのたくさんのラインを知らせていた。

「寂しい。」「行っちゃった。」「ねえ戻ってきて。」ようやく目が覚め寂しさが押し寄せたようだった。

弱音を吐きたいのは、甘えたいのは、寂しかったのはわたしだったよ。

既読をつけずに駅まで歩き、電車に乗る。

スマホを見るでも音楽を聴くでもなく、ラインを返すでもなく、前に来たときは大好きだったこの土地が窓の向こうでどんどん流れて遠ざかるのを眺めていると涙が溢れた。

人目も気にせず涙を流す。

もう会うことのない人たちにどう思われても知らなかった。

部屋が片付いていることに気づいた彼からまたラインが届く。

「ねえ、洗濯してくれたの!?」

「ありがとうね。」

「寝ていてごめんね。」

「返信がないのどうして??」

嘘でもその場しのぎでも何か返すべきだと思ったのに、今の感情に嘘ついて打てる文字が思いつかなくて、ぐちゃぐちゃになりそうで、スマホを開いては閉じてを繰り返す。

京都駅まで戻ると呼吸が落ち着いて、「2日間ありがとうね!」「新幹線に乗るから寝ちゃうかも!」とようやく返せた。

本を読んだり、行けなかった試合の映像を振り返り最寄りについたのは0時。

相変わらず彼からは彼女ができたと母親に伝えたこと、友達に話した内容、最後に「嫌いになっていない?」と届いていて、なにひとつ触れずに家についたことだけ報告すると「落ち着いたらちょっとでいいから電話したいです。」と弱気な返事がきた。

逃げていても仕方がない。ベッドに入ってから電話をかけた。

はじめは寝ていたことの謝罪と、家事への感謝をされた。

この1か月でさらに可愛くなって、色んなことをしてくれてもっともっと大好きになったとも伝えられた。

「俺、ふたりの写真ツイートしたよ。なてもしてよ。」

「しないかな。別にそこは自由でしょ。」

「なんで。彼氏いるって思われないと変なの寄ってくるよ。」

「高校生じゃないんだから。」

関西から関東まで帰ってきて疲れているのにくだらない。うんざりした。

気持ちが戻っていたら喜んで載せたけれど、今にでも別れを切り出したい心の状態でそんなことしたくなかった。

彼の気持ちはよくわかる。

自分が大好きな状態で、相手がよそよそしくなったときの言いようのない不安や繋ぎ止めたい必死な気持ち。そしてそれがいかに逆効果でお互いを傷つけるか。元カレのときに自分がずっとそうだった。どんどん彼を追い詰めた。

たかがSNSなのにお互い「これだけは譲れない」と言い合った。

「どうしてそんなに隠したがるの?彼氏がいないと思われたいの?」と苛立つ彼に「そこまで強制するならもう無理。」と伝えて、この2日間で感じたことを素直に話した。

浴衣をもっと着たかったこと、カフェで気遣いしてほしかったこと、5時間寝ていてなにもできなくて寂しくて虚しくなったこと。気持ちがわからなくなったこと。

「寝ていてごめんね。ほんと寝ちゃうと起きれなくて。起こしてほしかった。」

「ううん。起こせばよかったのもわかっているけど、寝るのが悪いとは思っていなくて、そういうカップルもいるのにただわたしは眠れなくてひましただけ。でも駅まで一緒に行きたかったなとか最後なのにあんなふうになったなとか考えて電車に乗ってたら涙がでて。」

「最後ってなに?」

「うん。」

「最後ってなんなの。」

「今回はあれが終わりだったでしょ。」

「なては別れたいの?俺は一ミリも思っていないよ。」

「思って”た”かな。」

だめだった。言えなかった。

愛される側の経験が少なくて、自分の気持ち以上に彼から与えられる愛を手放す勇気がまるでなかった。こわかった。ずるいことをした。

「俺は別れたくない。いやだよ。今はどう思うの。」

帰りの新幹線でよく考えたこと。帰るまでのラインや電話でたくさん愛してくれて、大好きを伝える言葉を聞いて別れたくないと思ったことを話した。

合わない部分が見つかったから、価値観が違うからと切り捨てて、ただ理想を求めて生きていたらそれはただのわがままになる。垢の他人が一緒になるんだからお互いにすり合わせて、溜めずに伝える努力をしなければはじまらない。そこからがふたりのスタートで、未来に繋がる。

彼に直してほしいところはあるけれど、大好きな部分もたくさんある。

ひねくれたり駆け引きせず、嘘がない素直さ。わたしに限らず周りの人間にもストレートで正直。

まわりの目を気にしてばかりで嫌われるのが怖くて、思ってもないことばかりスラスラ言ってしまうわたしはそんな彼の素直さを尊敬するし大好きだ。

かっこつけずにわたしのことを惚気てくれたり、ロック画面やアイコンに設定してくれる愛おしい一面。

細かいことは気にせず、ちいさいことでぐちぐち言わず、かなり不規則なシフト勤務でも病まない(恋愛以外での)精神力のたくました。

あとはやっぱり容姿が好き。大好き。

そこが全てではないけれど、大切なことだと思うし、他にもたくさんのいいところがある。

根本的な価値観が合わないという問題も見えてはいるけどまだ彼とはたったの1か月。この縁を簡単に捨ててはいけないし、手放したくないと思った。


この1週間後に友達と会った。

友達が少ないわたしにとって大切な、毎月会う高校時代からのお友達。

2日間で感じた苦しさを吐き出せるのはこのnoteと彼女しかおらず、1週間溜めた想いを我慢せずにやっと話せた。

浴衣の話しは悔しさを思い出してまた泣いてしまって、半個室のカフェがありがたかった。

「わたしまで辛い。」

いつも味方になってくれる彼女は自分のことみたいに泣いてくれた。

「寝ないよ!遠距離なんだから。何日我慢した?1か月だよ。」

「帰りはどうして追いかけてこないの?わたしなら来て欲しいしそれを期待する。駅まであるんだから走ってきて欲しい。」

「え。そうなの?」とここは自分が拍子抜けした。

でも確かに。自分ならまず行かせない。1分で準備するから待ってもらう。
「なに見送ってんだよ。」と今更毒を吐いた。

この2日間、ほかの女の子ならなにを思って、ほかの男の子ならどう行動するんだろう。

愚痴を吐きながらも結果的に交際は続いていて、アラサーの自分には少し、いやだいぶ精神年齢が幼い付き合い方と自覚しながらこの道を選んでいるけど、彼女は頭ごなしに反対せず「彼が大好きでいてくれるのも伝わるけどわたしはなてちゃんのほうが大切だから、それで心がすり減っていくことが心配。」と寄り添ってくれた。

やっぱり女の子はわかってくれる。欲しかった言葉をたくさんくれる。女の子って愛情深い。「彼女の言葉が彼に伝わればいいのに。」なんて意地悪なことまで思った。

気持ってどうしたら戻るんだろう。


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