映画感想:『プロメア』のクレイ・フォーサイトは罪と憧れの衝動の炎に苦しむ『英雄』である。

次の記事は狂気について書こうと思ったが予定変更だ。こんな記事があったので。

よもや私の記事が、見も知らぬ人であろうとここまで信念に強烈な歪みとヒビを与えるようなものになろうとは思わなんだ。だから文章ってのは面白い。
そんなわけで、補足的にクレイ・フォーサイトについての考察の続きを書いておこう。彼はそれに値する。

ところでネタバレ記事を回避するのに改行下↓を沢山打ち込むというのは、確かにいい手だなと思った。真似よう。今回も完全ネタバレだ。

・クレイ・フォーサイトは複雑な人物である。

はいどーん。まず一言はこれだ。
もう一度言おう。クレイ・フォーサイトは複雑さを内包する人間だ。
もちろん前の記事で書いたクレイ・フォーサイトの欲望は「自分の正体と罪を隠したい」であるという見解はそのままだ。無意識ながらにも私の見解はオッカムの剃刀めいた、余計なものを削ぎ落とした先に単純で明快な真実の側面もあるらしいと気付かされた。私自身も実際そうだと思ってるしドヤ顔してる。

だが、それだけでは足りない。

クレイ・フォーサイトの単一なる欲望に複雑さを与えたのは、他でもないガロ・ティモスその人だ。プロメアの主人公であるガロとの出会いが、クレイ・フォーサイトという悪人をより魅力的にしてしまったのである。

・ガロがクレイに無意識下で与えてしまったもの

ガロにとってクレイ・フォーサイトは紛れもない英雄だ。
幼き頃にバーニッシュによる火災に家族もろとも巻き込まれたところを、左腕を犠牲にして自分を救った存在だからだ。
彼のように人を救う人になりたい、その願いで彼はバーニングレスキューに憧れ、その夢を支えてくれたクレイに全幅の信頼と親愛を持つようになる。
そしてついにバーニッシュ過激派のマッドバーニッシュのボス、リオを捕まえて、司政官であるクレイから表彰されるに至る。というのが本編の流れ。

クレイに火災から救われた過去」があるから「自分も火災から人を救う人になりたい」となって、「火消しのガロ様」というまっすぐで憧れを抱かせる主人公になるのだ。視聴者にわかりやすい。スゴイ!

だ、け、ど。

当のクレイ・フォーサイトにとっては、全くの真逆であった。

クレイにとっては「バーニッシュとしての衝動が暴発してしまったためにアパートを燃やしてしまい」「それを隠すために英雄的行動の結果ガロを救ってしまった」のであり、「ガロを消したいから一番死亡率の高いバーニングレスキューへなる道筋を与えた」のである。そして図らずも最高の成果を出したために「表彰をする」という。

自分の正体や罪を隠したい人間が顔を歪めて「鬱陶しいんだよ!!!!」と大絶叫する理由、まさにこれだ。

「正体と罪を隠したい」がためにやった行動が、図らずも一人の男に純粋すぎる「憧れと羨望」を押し付けられる結果になったのである。
否定したい過去」から「まっすぐでバカな男」が現れ「自分の傷と罪をえぐってくる」のである。

ガロがクレイに与えてしまったのは、憧れという呪いだ。


「強すぎる憧れと羨望」を押し付けられるほどに!!
「隠したい罪と正体」が彼の中で強まり膨張する!!
炎の衝動を抑えようとすると!!
更に強く燃え盛ってしまう!!


こんな当たり前で、しかし確かに苦しい宿業を抱き、一つのわがままな野望のために全人類を犠牲にしようとする男。

それが、クレイ・フォーサイトという悪役だ。
一見小物であるが、最高に燃え盛る邪悪な悪なのだ。

クレイ自身は単純な野望を持つ人間だ。
だが、単純な願いを持つガロという人間が付き纏うことで、呪いという炎で心身を焼き焦がし続ける複雑な人間に変貌してしまうのだ。
「複数の願いを内包している人間」ではなく、
単純な願いを叶える複数の人間が同時に存在し、関係性を持つことで、願いが複雑化する」のである。

ガロがクレイを呪ったからバーニッシュを巻き込んだ世界崩壊が加速しようとしたのか? それは結果論だ。
もしもクレイがバーニッシュじゃなく、罪や正体もないまま司政官となって地球の危機に直面していたのなら、みんなに相談していたかもしれない。それでも救える人類に限りがあったのなら、苦しみながら決断を下すのかもしれない。しかしこれも仮定論だ。
もしとか、たらとか、ればとか、そういうのは無いんだ。
クレイはバーニッシュであり、罪や正体を隠さなければならなかったのである。

そしてそれを食い止めるのが、クレイが救ってしまった男、ガロである。
クレイは自業自得である。だから自分の罪から生れ出づる悩みであるガロに反撃されなければならない。まさに複雑怪奇な運命の物語だ。

だからプロメアが素晴らしいのはそこだろうと思うんだ。

ガロは燃え盛る炎を消さなければならない火消しの男だ。
ガロとリオ、ガロとクレイ、ガロとアイナ、ガロと世界中のみんな。

単純な願いや野望を持つ彼らが密接に結びつくことで、複雑な呪いや祈りに転じて、虹色に燃え盛る美しい炎へと変貌する。

それが、『プロメア』だと思う。

そして物語が終わり、クレイの罪と正体が明らかになり、同時にクレイを苦しみ続けたバーニッシュが完全に消え去った。
まるで燃え尽きたように俯くクレイの顔は、どこか穏やかであったように思う。

もう、燃えなくていいのだから。

もっと語りたいが、程々にしておくのが読者の余韻を引くのだと思う。
これで引用元の著者の心の炎がキレイに完全燃焼してくれれば、いい気分だ。また会おう。

※追記

はい蛇足!!!!

私は金の力で動く。