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死にたがりマキアスの英雄譚 #2


 マキアスは公正明大な領主としての責務を為し、姫から妻となった女と穏やかな日々を過ごしていた。

 しかし王の死後、後継者争いで内乱が勃発した。
 勇者マキアスと王の姫たる妻の間に子がいれば後継者争いは回避できたかもしれないが、そうはならなかった。内乱に乗じた諸国からの侵略も重なり、あっという間に戦火が国中に広がった。毒邪竜から守られたはずの国土は火と煙に包まれ滅びた。

 マキアスは自身の子が不老不死であるのを恐れたから、子作りを拒否した。自分のような不幸を作りたくないせいで、妻の故郷が失われたのだと思った。

 戦火から逃れたマキアスと妻は遠方へと逃げ延びて、深い森の中に棲み家を作った。マキアスの人並外れた力は森を開拓し、二人は慎ましくも静かな人生を過ごしていた。時折やってくる旅人たちの宿として提供しては交流を深めるような日々だ。何も変わらない幸せな日々がこのまま続けばいい、そう二人は思っていた。

 マキアスは不老不死だ。妻との歳の差が如実に現れ始めていた。


 年老いた妻の手は砕けそうなほどに細い。視力が弱くなった妻は弱々しくもマキアスの手を握りしめる。マキアスは二人が出会った時と一切変わらないままの、若く逞しい青年の姿をしていた。

「今ではよく見えなくなってしまったけれど、あなたのこの手が大好きです」
「……俺のせいだ。俺が君との婚姻を断らなかったから、俺のわがままで子を作らなかったから、君を不幸にした」
「いいえ。あなたと一緒にいられた人生は私にとって唯一無二の幸せでした。私はあなたに恋い焦がれたのだからここまで共に歩んできたのですよ?」

 ふー、と妻は息を吐く。絞り出すかのようなか細い声で、妻はマキアスに言う。

「天国で、あなたを待っています」

 それが妻の最期の言葉だった。

 森の奥深くに墓を掘って妻を弔った。
 マキアスは荷物をまとめると、長年住み続けた家から出る。棲み家はこれからも旅人のための憩いの場所として使われ、いずれ時が経てば朽ち果てて自然に還るだろう。
 家でさえ死が訪れることを、マキアスは心底羨ましかった。

 俺はどうやったら死ねるのだろう。俺はどうやったら天国へ行けるのだろう。


 不死身の英雄マキアスは、死にたがるようになった。


【続く】

※前話です。


私は金の力で動く。