映画感想:『プロメア』のクレイ・フォーサイトという合理的かつ邪悪に燃え盛る『英雄/人間』に関する追記。
上の続きである。追記で書いてたらnoteひとつ分分けたほうがよくなった文量になってしまってね……
どうして追記しちゃうかなぁ私。でもしたくなるもん文章家だから。
『クレイが自分の正体と罪隠しのために惑星移住を目論むのはちょっと無理筋な気もする』という類の意見も見かけたので、そこは言葉足らずだったな感もあって付け加えるべきと。
おっとネタバレ回避のために↓やっておこう
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・クレイ・フォーサイトは人間だ。
だから生きたいと思うし、滅びゆく地球から人類を救って自分は地球に留まり、人類を選民したその責任を自分の命で償おうとか思ったりしない。自分が上になって人類導かなくちゃいけないからね。
ここが重要だ。「自分が生存するには人類の生存という大義名分がなくてはならない」のである。
だから惑星移住のための具体的なプランも作るし移住した後の滅却開墾ビームとか色々用意する。
そうでなければ人類は存続できないからね。しょうがないね。だからそれを邪魔する者は全部排除するし利用できるものは何だって利用する。たとえバーニッシュでもだ。
彼が具体的にどういう人選で選民してたのかは作中で明らかになってなかった気もするのでここは掘り下げないでおこう。
世の中の悪人には「自分一人が生きていれば人類存続してるし他の人類犠牲にして生き延びてやる」と言う奴もいる。しかしクレイはそうではない。自分が生き延びるためには自分の責務を果たさなければならないと心の中で堅固なルールを定めているのだ。実際作中でそうは言っていなかったけどもまぁ類推だ。ある行動からそう考えている。
その行動とは?
・クレイは何故逃げずにガロを救う『英雄』になってしまったのか
ここだ。学生だったクレイはバーニッシュとなって、ついに衝動を抑えきれずアパートを燃やしてしまう。
「何故自分の犯した火災から逃げずに利用したのか?」
まぁ答えは合理性であろう。
左腕失ったまま逃亡してバーニッシュとして迫害されるまま生き延びるよりは、犯してしまった罪を利用して生き延びる方がいい。クレイという人物はそういう男なのだ。
その合理性が得ずしてガロを救い、そのガロはクレイにとっての「英雄としての呪い」を否応が無しに与える存在となるわけだ。
英雄としての呪いは罪と正体を隠したいクレイを蝕んでいき、次第には地球崩壊のシナリオを知る。
プロメス博士を殺めてその功績を横取りしてプロメポリスの司政官として財と地位と権力を手に入れ、計画のための条件を揃えるという。(ちょっとここの時系列は記憶が曖昧なので間違ってたらごめんちゃい)
「罪や正体を隠し続けて生き延びたい」のがクレイの本懐である。惑星移住は自分が生き延びるための手段であり、罪や正体を隠すための目的とは限定できない。
もし罪や正体を隠したいだけなら「英雄であれば」火災の罪悪で自殺していたかもしれないしな。そもそもバーニッシュであることを隠し続けるのも英雄のやることではない。「生き延びる」というごく当たり前にして人間らしい願いがクレイには存在するのだろうと推測している。
司政官としてやるべきことをやり続けるのが、クレイにとって罪と正体を隠す合理的な手段であるのだ。
とまぁ書いてきたが、クレイとは合理性を優先する人間である。英雄ではないから自己犠牲はしないし、天才ではないからプロメアの真実に辿り着けず、星を救う道を最後まで見つけ出さなかった。
彼が小物に見えるのはそういう理由だろう。彼は保身のために合理的な手段を取り続けていただけだから。
そもそもクレイがバーニッシュになったのも突然変異だ。なりたくてなったわけではない。
クレイが幼きガロのアパートを燃やしてしまったのはバーニッシュとしての衝動による偶発的なものである。意図的にある家を狙って「英雄的な行動で誤魔化してやろう」と企んだわけではない。
プロメス博士の殺害については魂胆と企てのある犯罪であり弁解の余地はないが、それも歯車が狂った後の顛末だ。
やりたくてやったわけでないが、やらねばやらないことをやる。
そのために立ち塞がるのなら何であろうとどんな手段でも排除する。
それがバーニッシュという突然変異を否応がなしに与えられたクレイという男の思考だ。
・合理的な英雄と非合理的なバカ
英雄でなくても英雄的行動を取ることはできる。「その場でできる(利己的であるが)最善を尽くそう」とするのがクレイという人間であり、しかし自分の「英雄/罪と正体」に蝕まれ、そして地球崩壊の真実に直面した時に彼が行なった行動は、紛れもなく利己的な悪徳であったのだ。
しかし、ガロにとって過去のクレイの取った行動は英雄以外の何者でもない。
クレイが起こしてしまった火災でも、クレイが逃げずに、利己的で打算的であるが救助したことでガロは生き延びたのだ。
ここは重要だ。「利己的な行動が人を救うことがある」
「冷たい方程式」と言わしめるほどの信念を持つように見えて、実は自分の野望の合理性のために人を救い、人を犠牲にする複雑すぎる男。そこがきっとクレイ・フォーサイトを一層魅力的にしてしまった要素だと思う。
クレイの利己的な生存願望を「くだらねぇ野望」と言い切った上で真正面から立ち向かい、リオと共に、クレイのできなかった地球の救済とクレイを蝕み続けたバーニッシュという呪いから解放してしまったのである。
そして燃え尽きたように黄昏るクレイに、ガロは「罪を償うんだ」と言う。地球と全人類を救った『英雄』がそれを驕り高ぶることもなく、かつて自分を救った『英雄』にそれを言い放つのだ。あまりにも合理的で、それでいて高潔すぎるだろう。
正体に苦しめられることはなくなっても、犯した罪は償わなければならない。罪を憎んで人を憎まずをガロは突き通しているのである。
おそらくあの時点でもガロはクレイを憎んではいないだろう。「俺は救う。リオも地球も、あんた(クレイ)もな!」と言い放っているのだからな。
クレイは合理的な人間だ。
だからこそバーニッシュという呪いと、それを隠し続ける歪みに苦しめられ続けてきた。
全ての虚実が晴れた後、呪いと分かたれた自分に対して「地球と全人類を非合理的な方法で救ったバカな男」が真剣に向き合うのだ。救った英雄(クレイ)と救われた人間(ガロ)がここで入れ替わるのだ。
「お前というやつは……」と呆れながら笑うしかないわな、そりゃ。
とりとめがなくなってきたのでここまで!おつかれ、解散!
追記(2020.8.6)
一年後の続き
私は金の力で動く。