映画感想:『プロメア』のクレイ・フォーサイトという人物は如何なる◯◯だったのか。

プロメアは面白かったんだが、どうにもクレイフォーサイトという人物があまりに小物に見えてしまってどうしようもないのである。事前にゴジラKOTMで最高に狂気的な敵を見てしまったからでもあるが。
一応ネタバレ大全開なので注意な。あと視聴前提ね。映画感想とは言いながら本編については特に書いてないのでね。

これを語る前に、私はクレイ・フォーサイトは最初から悪役であろうと思っていた部分がある。
細目で身体が厳つく、あれだけの大きな街の長のような存在である。
きっとその能力の高さから人類を左右する大きな正義の問題を抱えていて、そのためにバーニッシュを犠牲にすることも吝かではないと考えている人物だと思っていた。
それは非常に辛い決断であろう。グレンラガンでいうならば3部(シモン成長後)のロシウが月の落下に備えて多くの人間を救おうとしたあまり、シモンの追放と選民を担わなければならないという重責を背負わされ、ついにはその責任を取って自殺まで行おうとしたほどだった。

しかしクレイ・フォーサイトについては違った。
蓋を開けてみたら、悪役であるという推測は完璧に当たったものの、決定的に違う部分があったのだ。

・学生の頃に火災から片腕を犠牲に子供時代のガロを救うという英雄的な働き
・優秀な知恵で凍結技術の特許を取得して一大財団を立ち上げ執政官にまで上り詰める
・バーニッシュ問題に真摯に対処する清廉なる人物
本編ではこれだけ言われていたが、その真実はこうであった。

・バーニッシュを燃料として星間ワープを行い、滅びゆく地球から脱出しようと計画している(清廉さ×)
・凍結技術の特許は学生時代の恩師であるプロメテ博士を殺害して奪い取ったものである(優秀な知恵×)
・自身がバーニッシュであり、誤って燃やしてしまったアパートから英雄視される目的でガロを救う(英雄×)

あと追加するとフリーズフォースという公権的武装組織でゲシュタポめいた粛清を行うわ、地球規模の災害をひた隠しにするわ選民思想をするわとやりたい放題であった。

あえてもう一度問い直そう。クレイ・フォーサイトとは一体何だったのか? 

人類を救うという大義名分を抱きながら、他者を蔑ろにするあの思考は果たしてどう結びつくのか?
他者を救おうとするものがなぜ他者を苦しめているのか? そこが辻褄にあわなかったのだ。

それを考察するために、キャラクター造形という観点から彼という人物像を考えてみよう。
人物を作るにあたり根底にあるのは強い動機だ。何かしらの目標を持っている人間は美しく輝き主要人物となる。
プロメアで言うなら主人公のガロは「人を救いたい」である。過去の「クレイに火災から救われた」という経験から「火消しで人を救う」という道に繋がった。だからこそガロは純粋でたくましく、それで一本筋の通った快活な主人公として存在を確立させている。

ではクレイ・フォーサイトについてはどうだろう?
彼の根底は「人類を救いたい」である……ように見える。
しかしその一方で彼自身が「バーニッシュ」であり、彼自身の定義では「バーニッシュは燃料」である。
人類が人類をバーニッシュの犠牲によって救うのであればそれは強烈なエゴだと言える。
しかし、バーニッシュが人類をバーニッシュの犠牲によって救おうとするのは、一体何なのだろう? クレイ自身もその正体を秘密にしておりひた隠しにしている。バーニッシュだとバレてしまえば迫害される側に回るわけだから。
ここで根底の願いがわかる。「罪と正体を隠したい」がクレイ・フォーサイトの根底の願いだ。

しかし「罪と正体を隠したい」から「人類を救いたい」という風にはつながらない。ここはガロとの大きな違いだ。そしてそこにこそ彼という人物の歪みである。
「罪と正体を隠す」ために彼は状況を利用し、他者を利用し、他者を圧制することで「権力者」となることができた。つまりクレイにとって権力とは「自分の罪と正体を隠すための手段」でしかないのである。

となれば人類を救済したい、それも救えるのは数万人だけというのもまた歪みが生じる。
人類を英雄的に救えばその人類の頂点に立つことができる』から『自分の罪と正体を完全に隠すこと』が叶うようになる。
だからこそクレイは手段を選ばない。同族であるバーニッシュを蔑ろにしようと自分の正体を隠すための手段だから厭わない。ゲシュタポのような直轄の武力組織を従えるのもやはり自分の罪を隠すためである。もし本編であのまま地球脱出計画が成功していたら、クレイはどうしていたか。もはや人類を救った英雄として、彼は残った人類を導く先導者となっていただろう。
そんな時に、過去の罪や正体をとやかくいう人間は、誰もいなくなる。
それが彼の願いなのだ。

作中でクレイの正体が関係者全員に「殺人の場面の映像記録」を流される場面もあったが、そこで彼は取り乱したりもせず「あれは偽装の映像だ」と自分の権威を逆手に取って強引な真実の隠蔽を計ろうとする。
最後の最後でやけっぱちになりそうな状況で、彼はようやく自分がバーニッシュであることを明かしてしまうのである。実際それが合理的であったり、そうしなければ彼にとっての逆転を見込むことができなかったからだ。

滅殺開墾ビームやらクレイザーXに「星を作り変えられそうな技術」が揃っていながらも「なぜ地球を救う手立てじゃなくて脱出する方に考えるんだ」とガロたちに問われていた場面もあった。その時にクレイは「考えたができなかった」と答えたが……これですら欺瞞である可能性もあるのだ。
クレイの真なる願いは「罪と正体を隠したい、もしくはそれがどうでもいいものになるくらいの権威がほしい」であるわけだ。それならば地球を救ってもなお秘密を隠し続けるよりは、選民思想による脱出計画を成功させて限られた人類の世界で長となって、より完璧な権威を身に着けたほうが合理的であるのだ。

つまりのところ、クレイ・フォーサイトという悪役がなぜ小物に見えるのかと言えば、真なる願いが『自分の罪と正体を隠したい』から『最上最高の権威を移民計画によって獲得したい』だからだったというワガママな野望に基づいたものだったからだ、ということだ。

ゴジラKOMのエマ博士という悪役については別のnoteでまとめたからそっちを読んでもらおう。とにかくクレイがあまり美しい悪役にみえなかったのは、結局己の利益だけを優先していたからだからだろう。だから共感できる部分もあったし、逸脱してるようにもみえなかったから小物に感じたのだろう。

と書いているうちに次に書くテーマが決まったぞ。『狂っているとは何なのか』だ。
一言で言えば「たとえ邪悪であろうと善意であろうと、己を顧みず他者のために究極的な行動をするのは、狂っている」というものだ。

ではまた次のnoteで出会おう。

※追記

書いちゃった。

私は金の力で動く。