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『メタ倫理学入門』 佐藤岳詩    ~隠されたメタ案件にも注目~    

万事が万年入門者の私ですが、今回はメタ倫理学に入門してみました。

私たちが生きている社会においては、靴下の正しいたたみ方とかのどうでもいいことから、政治や経済や世界情勢にかかわる大きなことまで、ありとあらゆる領域で意見が対立します。摩擦や軋轢が絶えず、戦争も起こります。人類はずーっとそうやってきました。
どうしてこんなことになっちゃったのかと、哲学者や思想家や社会学者の偉い先生がたくさん考えて、たくさん難しい本を書き、無数の人びとがさまざまな論をめぐって意見を戦わせてきました。

ところで軋轢も議論も、すべて言語活動によって生み出されています。
正/誤/善/悪/真/偽などの、倫理界隈の言葉は、ふだん当然のように用いられています。哲学書のなかでもそうです。
でもその定義について、よく考えてみることはあまりないのではないか。

個人的経験ですが……
好きでたまらないから読書や運動に精を出しているだけのオタクなのに、「道徳的に正しいまじめな人である」という重荷(笑)を背負わされるときがあり、「正しさ」や「徳」という言葉のいい加減さを痛感します。
また、ある先生に「この場合の《善》とは何ですか?」と質問したら、心底あきれた様子で「善は善です。これ以上譲れない絶対的な価値です。宇宙のどこに行っても(大意)」とお答えいただきました。怖かった。

当然のように使われている「善」て、そもそもなんなんですかね!?
「正しい」と「正しくない」の違いは? また「正しい」と「正しいこと」とは別の言葉ですが、実在する者なんでしょうか。 
そもそも道徳的とか倫理的とかいう概念は普遍的なものなの?
そもそも道徳ってどこかに存在しているの?
これは言葉だけの問題ではないような気がする……

本書を手に取ったのは、こういう「そもそも病」にかかってしまったからです。
メタ倫理学は、規範倫理学の前提についても疑問を投げかけ、道徳の見直しにもつながります。何より、考え抜いて、自分の拠って立つ位置を定めようと試みる姿勢を教えてくれます。本書をいつも手元に置き、さまざまな理論についてこれからも学んでいこうと思います。

また本書には、もうひとつの「メタ」案件が隠れている気がします。
多くの入門書は、哲学者や理論家といった人間中心に展開するか、時系列で章立てされています。しかし本書は、理論別に構成されています。各理論の〈解説〉→〈問題点〉&〈反論〉→〈再反論〉+主要な論客、さらにほかの理論との絡み合いも解説される…という仕様です。わりと珍しいタイプなのでは。
メタ倫理について学んだことのない人間(私)にとって、この方法ですと、理論がすっきりと頭に入ってくるのではないでしょうか。しかしそれと同時に、人間的なエピソードや時代背景を排している分、つかみがイマイチという感想も出るかもしれません。
これはもしや、よき「入門書」とは何ぞや――と考えさせる、「メタ入門書」でなのではないか……

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