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哲学史入門Ⅰ 古代ギリシアからルネサンスまで 斎藤哲也編

万事につけ万年入門者であるわたしが今挑戦しているのは、全3巻で古代から現代までをカバーする「哲学史入門」です。第1巻を読み終わりました。

全編、編者の斎藤氏による哲学者へのインタビュー形式。「です・ます」体なので、心理的負担が少ない気がするのはビギナーだから? 中身が難解である本ほど、口当たりは素人にとって大切ですが、質を落とすわけにもいきません(余計なお世話)。しかし哲学界の碩学のお話ですからそんな心配は無用なうえ(だから余計なお世話だってば)、そこかしこに余裕酌酌のユーモアが感じられ楽しく読めます。

冒頭で「哲学史をいかに学ぶか」を語る千葉雅也氏に続いて、古代ギリシア・ローマの哲学では納富信留氏、中世哲学では山内志朗氏、ルネサンス哲学では伊藤博明氏が登場し、すばらしい聞き手と語り手による軽快なやりとりを楽しめます。が。じつはこれ以上ないほどの濃密な哲学講義の時間なので、話し言葉だからといって気を抜きすぎると迷子になります(体験談)。各章冒頭の斎藤氏のイントロダクションに何度も戻って確認することができるありがたい設計となっています。

《古代ギリシア・ローマ哲学》
「哲学の起源」を問うと題された章。
ソフィストの話が興味深かったです。ナオミ・クラインの『Doppelganger(ドッペルゲンガー)』を読んだところだったので、納富氏のソフィストの説明に対して、ソフィストたちを(ナオミ・クライン的に)「哲学者のドッペルゲンガー」と考えると面白そう…などと過剰反応しています。『ソフィストとは誰か』は必読ですね。
ほかにも:
☆ソクラテスの「無知の知」は誤りで、じつは「不知の自覚」であること、その内容を知ることがいかに重要か。「知っている」と「思っている」の違いには重々気をつけること。
☆「不知の自覚」とプラトンのイデア論の関係は、相容れないものとして、または前後の二段階の関係にあるもの、とされる説が有力だが、これらふたつを「コインの裏と表のような関係」と説明できるのではないか、と考える納富氏。ふたつの別々な何かではなく、こういう特殊な関係性のなかでとらえる議論! 
☆プロティノスが始めた新プラトン主義の突き抜け感。彼はプラトンのイデア論からギリはみ出すかはみ出さないかのところにある「一者」、魂の故郷である「美のイデア」を目指す。美、天上、至高などを目指す魂/精神の運動は、「審美」の概念に深くかかわっているのではないか。さまざまな美の基準やそれを追求する人間の執念を理解するためにも、その成立過程や系譜について知ることは大切だと思いました。


よくわかんない

《中世哲学》
章扉ページに「よくわかんない」という書き込み。ドゥンス・スコトゥスの顔に「むずかしい」と書いた付箋が貼ってあります。苦闘の跡。

顔に貼らなくても……

中世は、ヘレニズムとヘブライズムのハイブリッド、そしてアルプス山脈を挟んだ南と北のハイブリッド、そして、のちの世界を席巻するヨーロッパのアイデンティティが生まれた時代だそうです。中世スコラ哲学のアウグスティヌスの人間観、そして三位一体論までは繰り返し読みおおまかな像をつかめましたが、アヴィセンナやドゥンス・スコトゥスによる「神の存在証明」や「存在と本質の問題」は、「存在の一犠牲」まではなんとかついていけたものの、中世哲学の大問題「このもの性」(個体性)から先の話になると、言葉が頭の中で整理できないまま空回りしているような感覚。
「唯名論」と「普遍論争」については4ページほどで語られています。密度が濃くて、しかも最後にさりげなく爆弾発言が……もともと知識のある読者には面白いと思いますが、わたしはもう少しお話を聞きたかったです。とはいえ、中世哲学の魅力の一端を感じましたし、また章末のブックガイドを参考に今後さらに学んでいきたいです。

《ルネサンス哲学》
14~16世紀、ルネサンス時代の哲学です。人文主義が興隆し、ペトラルカ、ボッカチオ、エラスムスなどの「人文主義者」たちが古代ギリシア・ローマの学問や芸術に人間性研究の通路を見いだします。またプラトン主義が復興してキリスト教学との統合も問題になりました。
☆人間への関心:ルネサンス最初期の詩人ペトラルカのテキストには、「自然(nature)」から「人間本性(human nature)」へ方向転換していくルネサンス思想の特徴が表れています。人間の魂について、古代の原典をてがかりに研究するようになります。人間の心や社会に対する関心が深まった時代だったのですね。
☆新プラトン哲学:メディチ家の庇護下で活躍したフィチーノによって独特の発展を見たプラトン哲学は、新プラトン派の強い影響を受け、中世以降キリスト教的な神に読み替えられていた「一者」を神として最上位に置き、人間を世界を結びつける役割を持つ魂と表現していました。つまり人間の尊厳と卓越性を認識し表現していたのです。
☆人間は世界を把握できる!?:ピーコ・デラ・ミランドラはさらに『人間の尊厳について』を著し、人間本性の卓越性について説明します。人間は地位と本性を自らの自由意志にとって選び取るべきだとしたのです。当時としては斬新な思想です。サルトルの実存主義に通じるように思えました。ピーコはさらに、人類が生み出してきた知的遺産をすべて統合して新しい哲学「哲学的平和」を提案します。31歳で他界するまでにありとあらゆる思想や神学や魔術を統合しようとしたルネサンスを象徴するような異才でした。人間と人間の可能性に尽きない興味を持ち、何でもあり(?)だったルネサンス期の哲学の豊かさと冒険心はかっこいいです。

第2巻も読みます。楽しみです!

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