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ツツガムシ病に用いる抗生物質について

テトラサイクリン系、マクロライド系含めて効果、安全性、解熱までの期間いずれも、突出して優れた抗生物質はなく、どれも効果があるようです。

Efficacy and Safety of Antibiotics for Treatment of Scrub Typhus
A Network Meta-analysis
JAMA Netw Open. 2020;3(8):e2014487. doi:10.1001/jamanetworkopen.2020.14487


【背景】
 日本ではツツガムシ病の流行シーズンは過ぎましたが、ツツガムシ病に関する面白そうな論文があったので読んでみました。

 ツツガムシ病はOrientia tsutsugamushiを保有するツツガムシに刺されることによって感染する疾患です。山林部、河川敷で活動する方(農業、林業、レジャー)が罹患しやすいです。発熱、皮疹、ダニの刺し口の黒色痂皮などが特徴的症状ですが、刺し口は大腿部、腰背部など患者自身では見つけにくい部位にみられることもあり、医療従事者側から積極的に皮疹の診察をしないと発見が遅れることもあります。

 これまで成人患者にはミノサイクリン、妊婦の方にはアジスロマイシンといった感じで薬剤選択をしていました。本論文はこれらの薬剤以外にクラリスロマイシン、リファンピシン、クロラムフェニコールなど他の選択肢も含めて安全性、効果をNetwork Meta-analysis(NMA)という手法で比較した論文です。NMAは3つ以上の介入をつなぎ、3つ以上のRCTから構成されるメタアナリシスで、多数の介入内容を同時に比較したり、直接比較していない介入を間接的に比較できるメリットがあります。一方、対象とする試験の母集団が異なり、試験間の異質性が大きくなるとバイアスの懸念が高くなります。

参考サイト・文献 https://www.pmda.go.jp/files/000211102.pdf

【概要】
 本論文は2019年6月までのツツガムシ病に関するランダム化臨床試験や後ろ向き試験をPubmed, Embaseで検索し6408の論文のうち基準を満たす10個のランダム化試験と4つの後ろ向き試験を集め(ランダム化試験は888名、後ろ向き試験は323名の患者)、効果(efficacy)、安全性(safety)、解熱までの期間(defervescence time)を比較しました。
 これらの研究に含まれた抗菌薬はドキシサイクリン、ミノサイクリン、テトラサイクリン、アジスロマイシン、クラリスロマイシン、テリスロマイシン、クロラムフェニコール、リファンピンです。

【結果と個人的感想】
 抗菌薬間で効果や安全性に明らかな有意差は認めなかった。(Figure 3 )
 4つの後ろ向き試験の中では、クラリスロマイシンが有意に解熱期間が短いことが示されましたが、ここが抄録で言及されていない解釈に注意が必要なポイントです。(Figure3 のEのグラフが後ろ向き試験の解熱期間を評価したもので、クラリスロマイシンが突出して解熱までの時間が短いことを表しています。)

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 このクラリスロマイシンが他剤に比べて優位に解熱期間が短いという結果は小児を対象とした論文でわずか12例のクラリスロマイシン投与例から導かれたものですので、この一つの研究だけでクラリスロマイシンが第一選択にする根拠にはならないと思っております。
(下記Tbale 4はその元論文であるKorean J Pediatr. 2017;60(4):124-127 から引用したものです。確かにクラリスロマイシン群が 解熱までの期間 0.86±0.20日で他剤より短いです。)

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 個人的な治療案は、成人はテトラサイクリン系(日本ではミノサイクリン、ドキシサイクリンが多いでしょうか)、マクロライド系(アジスロマイシン、クラリスロマイシン)いずれも選択可能、小児と妊婦はマクロライド系を選択になると思います。

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