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神経性食欲不振症の栄養療法について。早期から多めのエネルギー摂取が効果的?

早期から1日2000kcalからスタートする栄養療法で臨床症状の安定化が早く、コストも削減できる可能性がある。

Short-term Outcomes of the Study of Refeeding to OptimizeInpatient Gains for Patients With Anorexia NervosaA Multicenter Randomized Clinical TrialJAMA Pediatr. doi:10.1001/jamapediatrics.2020.3359
Published online October 19, 2020

【背景】
 神経性食欲不振症に対する栄養療法は、少ないエネルギー量から徐々に増やすことが一般的です。その理由はリフィーディング症候群を避ける目的です。しかし、少ないエネルギー投与量でかつ徐々に増やすということは体重の回復(体重増加)や入院期間が長くなることは想像に難くありません。

 この論文は、神経性食思不振用に対する栄養療法で、少なめ1日エネルギー量(1400kcal/day)から開始する場合と、多めの1日エネルギー量(2000kcal/day)から開始する場合で短期的な効果と安全性などを評価しています。

【研究概要】
研究形式:多施設、ランダム化、前向き試験、ITT解析

Patient:対象者
① 12-24歳の120人の神経性食欲不振症で入院治療を要する人
② 標準体重の60%以上
を満たす。

Intervention:高カロリー介入群60人
1日2000kca/dayから開始し、200kcal/dayずつ増量する。

Comparison 対照群60人
1日1400kca/dayから開始し、200kcal/dayずつ増量する。

 食事摂取時は、観察者が付き添い、摂取量も測定します。もし、食事として摂取できない場合は、食事を拒否した場合は不足分を経口摂取の栄養剤(1.5kcal/g)を摂取してもらいました。

 エネルギー以外に両群で受けている治療は、
① マルチビタミン・ミネラルの投与
② 炭酸カルシウム製剤
です。神経性食欲不振の方は、骨粗鬆症、ビタミンD欠乏などを合併していることが多いためにこれらが基本的な治療として行われています。

栄養療法の開始時期が異なるだけで、最終的に年齢・身長・目標体重から算出されるエネルギー必要量まで到達する計画になっています。論文では試験参加者の摂取エネルギーが提示されていないことが非常に惜しい点です。

ここは推測ですが、上記の説明通りであれば、試験参加者の平均年齢16歳、平均身長157㎝(女性)で治療前体重32㎏(標準体重の60%)で推定エネルギー必要量estimated energy requirement (EER)約1700kcalです。但し、これだけでは十分な体重増加が期待できないためにさらに上乗せが必要です。NICE guidelineでは14700-29400kj(3528-7000kcal)/weekの追加を推奨しているために、1日500kcal‐1000kcalを追加摂取すると、少なくとも最終的に1日2200kcalまでは増やしたのではないかと思います。
海外の試験であることから、体形は日本よりも大きいことから2200kcal以上も十分ありえるでしょう。

Outcome主要評価項目
① 12カ月間の臨床的寛解(全身状態の安定)です。
短期的な有効性は下記の6項目を評価しました。
(ア) 心拍数45回/分
(イ) 収縮期血圧90≧
(ウ) 体温35.6度以上
(エ) 起立時の心拍数増加が35回/分以下
(オ) 起立時の収縮期血圧が20mmHg以下の低下
(カ) 標準体重の75%以上

これらの基準値は摂食障害患者の入院適応であるバイタルサインなどの不安定性から導いたものです。すなわち、上記の基準以下のように、身体的に不安定な状態になっている場合が入院適応になります。

② 安全性の評価
 電解質異常、コスト、入院期間

【結果】
 1日2000kcalから開始した高エネルギー開始群は臨床的に安定するまでの期間が短かった。(約3日)
 電解質異常を含めた有害事象は両群で差は認めない。
 入院期間はHCR群で4日短く、入院費用は1人当たり19056ドル少なかった。神経性食欲不振症に対する栄養療法のランダム化試験は初めてとのことです。開始時期から多めのエネルギーでも短期的な安全性が保たれ、入院期間の短縮・コスト面で優れる可能性があります。

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【個人的感想】
 本研究は標準体重60%までを対象にしているために、重症の患者は参加していません。その為、リフィーディング症候群が強く懸念される症例が除外されていることは念頭に置くべきです。

 しかし、早期に摂取エネルギー量を増やすことも臨床的アウトカムの早期改善にもつながるためにリフィーディング症候群が起きない限りは早めにエネルギー量を増やす治療がよい印象です。

(Table1は試験参加者の患者背景です。)

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