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n‐3系(オメガ3系)の多価不飽和脂肪酸(EPA+DHA)は高齢者の心筋梗塞後の二次予防に有効?

 n-3系(オメガ3系)多価不飽和脂肪酸の補充は心筋梗塞発症後の高齢患者の二次予防効果は証明できなかった。

Effects of n-3 Fatty Acid Supplements in Elderly Patients after Myocardial Infarction: A Randomized Controlled Trial
Circulation 2020 Nov 15; [e-pub].
https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/CIRCULATIONAHA.120.052209

【背景】
 心筋梗塞後にn-3系多価不飽和脂肪酸(n-3 polyunsaturated fatty acids:以下n-3PUFA)を補充することで二次予防の効果があるかについて研究した論文です。
 この背景には魚からのn-3PUFAの摂取が多いことと心血管疾患のリスクが低いことに関連があることが唱えられた歴史があります。n-3PUFAは油分の多い魚に含まれ、イワシ、マグロ、サバ、サンマ、ブリなどが代表的です。古い研究では心筋梗塞後の患者に脂肪を多く含む魚を多く摂取し、さらにn-3PUFAを補充することで心血管疾患や死亡を減らす報告がありましたが、最近の研究ではそのような効果がないという報告もあります。

 最近の大きなn-3PUFAの臨床研究に2019年に発表されたREDUCE-IT試験があります。この試験は心血管リスクが高い患者ですでにスタチン治療を行っても高トリグリセリド血症がある人にEPA製剤(EPA 4g/日)を用いた場合に心血管イベントを低下させるかを評価した研究で、プラセボに比べて25%の減少という結果を示しました。

 米国心臓病協会(AHA)では冠動脈疾患後の二次治療や高トリグリセリド血症に対してにn-3PUFAの補充を推奨しており、EPA製剤に流れが来ているように見えます。

 REDUCE-IT試験は平均年齢64歳で70歳未満が中心であり、より高齢者におけるエビデンスは十分ではありません。本研究は70歳~82歳とREDUCE-ITより高齢の集団でEPAの心筋梗塞後の二次予防抑制効果を見た研究という立ち位置です。

 日本で処方するEPA製剤はエパデールやロトリガになると思います。サプリメントは、DHAやEPAで検索するとたくさん見つかります。 

【研究概要】
Patient 対象者
  70~82歳の心筋梗塞患者1027人を対象にし、心筋梗塞発症後2~8週の間にn-3PUFA製剤またはプラセボを投与しました。追跡期間は2年で、最終的にデータを得ることができた1014人で解析を行いました。(intenton-to-treat解析)

Intervention 介入群(n-3PUFA群) 
 Picasol®(3カプセルで1.8gのn-3PUFA(EPA+DHA)を含む)を1日1回内服

Control 対照群 
 プラセボ(コーン油。脂肪酸組成はリノール酸56%、オレイン酸32%、パルミチン酸10%)

Outcome 
①主要評価項目 Primary endpoint

 心筋梗塞、脳卒中、血行再建術、心不全による入院、全死亡の複合アウトカムは、n-3PUFA群で21%、対照群20%で有意な差を認めなかった

 下記Table 2のcomposite primary outcomeが今回の主要評価項目です。グラフで見てもほとんど差がないことが分かります。

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②副次評価項目 Secondary outcome
 新規の心房細動は、n-3PUFA群で7.2%、プラセボ群で4.0%で有意な差はなかったが、少しn-3PUFA群で多かった。
(上記Table 2のSecondary endpointのNew AFの部分です。)

 新規の心房細動が副次評価項目に含まれている理由は、上記で触れたREDUCE-IT試験でEPA製剤群で心房細動が有意に多かったためです。

 REDUCE-IT試験は4.9年の追跡で新規の心房細動の発生に有意差をもってEPA製剤群で多いことが示されておりますが、本研究は2年の追跡期間と短いことが有意差が出ない範囲の増加にとどまった可能性がありますので注意は必要かもしれません。

【個人的感想】
 本研究はREDUCE-IT試験と、n-3PUFA製剤の中身・量と追跡期間、母集団いずれも差があるため、本研究だけでn-3PUFA製剤が二次予防に使われなくなることはないでしょう。REDUCE-IT試験はn-3PUFAの中でもEPAのみで4g用いていますが、本研究はEPA 930mg+ DHA 660mgという点で違います。高齢者対象だから減らしたのかもしれません。

 完全に個人的な感覚ですが、どうしてもEPA製剤は魚の匂いがあるため、一部の人には味と匂いで内服が困難になることがあります。



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