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美大中退する話

2年半在学、1年休学した大学を辞めることにした。

理由は単純に、通えなくなったからだ。このままだと留年、でも卒業までの1年半耐えられるとは思えなかった。

大学で私が得られるものと、辞めた1年半で得られるもの、冷静に考えたら辞めた方がよかった。それでもかなり悩んだし、大学に行こうとしたけど、結局通えなくなって辞めることにした。

なぜ大学に行けなくなったか

私は入学してから2年間、遊び回っていた。

できるだけ冷静になりたくなかった。止まってしまうのが怖かった。美術と向き合うことが怖かった。何故か?

思い描いた作品が作れないことが怖かったからだ。もっと言うと、私はすごい作品を作って作り続けて作家になる、そういう才能があると自分で理想像を作り上げ、そこには到底届かない現実を直視するのが怖かった。

逃げれば逃げるほど私はやりたいことを見失い、感情の起伏がなくなり、次第に起きられなくなった。そして1年休学することになる。

復学、心機一転美術と向き合う


1年間、バイトをしたり旅行をしたり、勉強したりしてすごした。でも何もしたくなかった。本当は何もしたくなかったが、何もしないのはまずいだろと思い何かしらしていた。美大に入学して美術から目を背けてから、何かをやりたいという気持ちが湧いてこなかった。大学に戻ることがかなり怖かったが、行けばやれると思って復学した。重大な判断を下すのが怖くて、退学の道は選べなかった。

復学してからは自滅に向かうゆるやかな日々だった。

自分の中に美術を続ける意味を必死に探した。どうしても見つからないが探し続けた。次第に不安感が強くなり、自分が自分に課したプレッシャーが重くのしかかった。美術を続けたい。すごい作品をつくりたい。私にはこの道しかない。美術が私のアイデンティティなんだ そう思ってもがいていた。

次第に大学に行く以外のことをやらなくなった。何もしたくなく、ひたすら時計を見ていた。不安な気持ちで目覚め、次第にパニックのようになり、食べ物が食べられなくなった。もう全然美術をやりたいとは思わなかったが、それでもしがみついていたかった。何度も自分の考えを変えようと試みた。でもある日起きることが怖くなって起きられなくなった。

何が自分の首を締めたのか

教授でも友達でも金銭面でもなく、自分の望んだ姿になりたい、こうありたいという理想が私の首を締めたのだと思う。

私は制作過程を楽しめなかったし、自分の中に表現したいものも、見た目で追求したいものもなかった。でもすごい作品をつくりたいという気持ちだけあり、理想と現実の乖離、自分で自分にかけたプレッシャーに耐えられなくなった。完全な自滅である

美術に関しては未練たらたらだが、自分にはこれが限界だったと思うことにする。好きで描いていたが大学進学とともに描かなくなったイラストを、また描けるようになった時に、自分と美術のちょうどいい関係性が見えてくると思う。

心配した親に促され帰省した実家で、大学の友達から電話がきた。まだ大学にいる、温くて心地いいモラトリアムの声色、懐かしくなりつつある大学生。声を聞いたときに辞めるという選択が間違ってなかったと強く思った。多分私は社会に出た方がいいし、やはり居続けてもダラダラしてしまうだけでずっと生ぬるい心地良さから抜け出せないだろうと確信した。

まだ先のことが分からないけど、とにかく辞めると決めたことを後悔する日はこないと、それだけ思った。

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