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職場でデジタル耳栓をつけるまで



この記事にコメントいただいて、デジタル耳栓着用するまでの道程が走馬灯のように見えたんですよね。その新鮮な感動を忘れない内に備忘録として書き留めます。

振り返った雑感としては、採用面接の時にノイズキャンセラーつけていけば良かったなあと。まあ現職につくまではそこまで困ってなかったので仕方ないですが。

ただ結果的に、自分が転職する際に抱いていた「大きな組織の中で働きながら、周囲の理解を得て労働環境をより良くしていきたい」という目標を1年強で達成でき、とても感慨深いです。


身体障害当事者と時間を共にする中で

私は障害平等研修(DET)の登録ファシリテーターです。障害平等研修は、障害当事者がファシリテーターとなって、参加者と一緒に「障害とはなにか」「障害をどう解決するか」について、グループワークをする中で考え行動に移すワークショップです。

https://detforum.org/?page_id=829

有名所では、近頃物議を醸しているオリンピック・パラリンピックの都市ボランティア8万人に行う研修の1つとしてDETを実施しました。自分にもその話が来ましたが、登録して日が浅く自信もなかったため断りましたが。

DETをなぜここで取り上げたかと言うと、現在の職場において悪戦苦闘する中で、苦しくても諦めず働き続ける原動力となったからです。


以下の視点に、それまでの自分の障害観がひっくり返されました。

「障害とはなにか」「障害をどう解決するか」。それを障害当事者と考えていく。

そんな視点で物事を考えたことはありませんでした。


当時の自分はまだうつ病で、パーソナリティ障害も顕著。精神発達はなんで理解してもらえないんだ!と燻る思いを抱えていました。

「精神発達の障害をどう解決していけばいいんだろう」

その思いで、ファシリテーター養成研修を受講しました。が、それが大変のなんの。半年間でオンデマンド12時間+課題レポート提出6回(ほぼ毎回再々提出までいく)+スクーリング6日間+演習2回。まじ大変でした……。

ただその間、他の障害当事者と触れる機会が沢山ありました。自分以外は皆さん身体障害。車いすに視覚障害、難病、そして聴覚障害。

それまでは「身体障害ってひと目で障害あることわかるからいいな」「それに引替え精神発達は……」とばかり思ってました。でも難病や聴覚障害って、周りから見るとわかんないんですよね。車いすにしても、床ズレなんかは知りませんでした。そりゃずっと座ってるならそうなりますよね。

他の障害がある人と時間を共にすることで、「伝えられなくて困ってるのは自分だけじゃない」と思えるようになりました。そして、身体障害当事者の方のように障害を解決していきたい。自分から分かりやすく伝えられるようになりたいと思うようになりました。


聴覚障害への合理的配慮

DETファシリテーター養成研修でもう1つ感動したことがありました。それはUDトークとの出会いです。

私は知らなかったのですが、音声をリアルタイムで文字変換してくれるアプリです。最近ではGoogleも開発してますよね。

正直変換の精度は微妙なのですが、養成研修では2人体制リアルタイムでPCから文字を編集し、話を聞かなくてもスクリーン見るだけで理解できるレベルでした。

これにめちゃくちゃ感動しました。耳からは情報が全く入ってこないのに、視覚情報からだと頭がフル回転してるのがとてもよく分かるんです。

で、UDトーク要望したのは聴覚障害の方なんですよね。それまで聴覚障害への合理的配慮と言うと、手話とテレビや映画の字幕ぐらいしか知りませんでした。それがリアルタイムで字幕をつけることができるとは!!

このことを通して、身体障害当事者が使っているツールを精神発達も使っていけばいいんだーと思うようになりました。


精神発達の理解がなくても、必要な合理的配慮が明確ならば、相手は受け入れやすいんですよね。逆に理解してもらおうと必死に説明しても、中々理解して貰えないんです。

だから私は、「自分の過ごしやすい環境を整えるために相手にして欲しいことはなにか」について考える癖をつけるようになりました。


静の事務職、動の事務職

今の職場ではフルタイムの正規公務員として働いています。しかし前職は、週4で非正規公務員をやりながら、DETファシリテーターとして活動していました。

今も前職も障害者枠での採用です。違うことは業務内容と職場の騒音です。

前職では、純粋な意味での事務ばかりやっていました。データ入力、ファイル整理、文書搬送、ゴム印押しなどなど。電話もなく、静寂という言葉がピッタリな職場で事務に専念できていました。

しかし現職はまるで正反対の職場に来たようでした。事務は事務なのですが、電話対応に職員からの問い合わせ対応、関係各所への調整と上司への説明に追われていました。通常の勤務時間は話しているかどこかへ足を運んでいるかのどちらかで、正規の勤務時間終了後に自分の仕事にとりかかります。採用前から文字でのやり取りを希望していたのにどこ行ったんだおい。

聞けば、入庁前日まで当時の上司が職員に自分が障害者だということを話しておらず、配慮内容も話してなかったそうです。ただ、上司から話がある時は、印刷したペーパーを用意して話してくれてました。

(そうなんだけどそうじゃないんだよなあ)と思いながら、まずは自分にできる努力からしてみようとありとあらゆる努力をしてみたつもりです。

就労移行支援事業所の担当者と2週に一回の面談を行い、職場で上手くいったこといかなかったことを話し、それを図式化してもらい、構造を把握し、改善点を考え、職場で試していくことを繰り返しました。職場訪問にも来てもらいました。

メモを取ったり復唱したり、説明の時には自分で原稿や資料を作ったり。報連相や説明の不得手を改善するために本も沢山読みました。


こちらの本では「報連相フォーマット」が役立ちました。5W1Hを書いた後に3行でまとめると報連相については及第点をもらえるようになりました。

ただ、説明や調整はからっきしでした。1年目は課長、上司、チューターと4者面談を年に3回やるのですが、年度末の面談では課長直々に「説明が大きな穴だからここを埋められたら問題ない」と伝えられました。

調整や説明が上手くいかない要因として、自分が何言ってるかわからない、ということもあるんですが、「相手の質問になんて答えればいいか分からない」「そもそもなんでそんなこと聞かれるのかがわからない」ということがあります。それらが積み重なり、話の筋が分からなくなり、何も言えなくなってしまいます。

ほかの要因としては、とにかく職場がうるさかった事にあります。問い合わせがひっきりなしにくる部署だったので雑音が酷く、話を聞くのに苦労しました。

また、1回に複数のことを話されることも日常茶飯事だったので、なんかもう無理でした。

こう振り返ると、よく生きてたなあ


自称アスペルガーの介入

そんなこんなでできない新規採用として過ごしていたのですが、一つの転機が訪れました。同僚の産休に伴い、他の部署から職員が異動してきました。

とてもよく仕事のできる先輩なのですが、主任になってないのが不思議で仕方なかったです。

その先輩が異動してきて2,3ヶ月経った頃、自分がいつものように上司に怒られてデスクに帰るとその先輩から「2,3ヶ月仕事ぶりを見て思ったんだけど……」と珍しく話しかけられました。内容としては自分が仕事でうまくいかない要因をわかりやすく分析してくれた内容でした。

で、結びに「こういう人沢山いるんですよね。発達障害と言うんですけど。自分もそういう傾向あるんですけどね。アスペルガーの」と言われました。そう言われたのが自分にとって救いに感じられました。

その後も、自分が仕事をしている時にほかの同僚が、違う仕事のことを説明してきて「何回も言っているのに」と言うとその先輩が「この人にはそれは無理だ。別の作業してる時に説明しても伝わらない」と言ってくれて助かりました。言い方酷いなあと思いましたけど救われました。それ以降、作業中、別の話をされることはなくなりました。

それでもミスが頻発する中で再度「発達障害と言うんですけど〜」て話をされた時に、「実はADHDとASDがありましてー」と言うと「それ言わなきゃ」と言われました。(え?知ってたんじゃないの?)と思いましたが、他のと同僚も「それ言ってよー」と言ってきて、頭の中がはてなマークで埋め尽くされました。

のちに人事担当であるチューターから聞くと「例え採用時に『障害のことを上司から話してもらっていいです』と言ってても、個人情報だから本人が言わない限り話せない」旨を聞き、ずっこけました。なんのためのオープンでの就労なんだよ……。

後に聞きましたが、自称アスペルガーの先輩が主任試験受けないのは、昇任すると業務に対応できなくなるからだそうです。確かに。でもそれでいいんかなー


耳栓の導入

職場で上手くいかないことが続き、体調も崩しがちな時、医師から「耳栓使ってみてはどうか?」という話がありました。

その旨上司にメールしてみると、しばらく経って課長と上司と自分の3人で話し合いがもたれました。課長が気にされてたのは安全面でした。耳栓することで足音等に気づかず事故が起きないか、という事でした。が、普通に会話できている様子から大丈夫だと判断され、耳栓着用することになりました。

すんなり耳栓着用の許可が出たのはいくつかの要因があります。

まず、採用面接の段階から文字によるコミュニケーションを求めていたこと。上司はこれをどうやら耳の問題と判断していたようです。だから雑音を遮断する耳栓の着用を否定されませんでした。

次に医師と支援者から耳栓の着用の進言があったからです。私は知らなかったのですが、就労移行支援事業所の担当者が職場訪問した際に耳栓着用を求めたところ、様子を見ようとやんわり拒否されたことがあったそうです。それと合わせての医師の意見だったので、すんなり意見が通ったようです。

最後に、自分が普段から聞こえの悪さをカバーする方策を凝らしていたからです。ある時は説明にPCを持ち込み、メモを取る代わりにワードに打ち込んでいきました。ある時は自分用の説明原稿を上司に見せながら話し、そこに赤を入れてもらいました。またある時は、説明内容をメールしてから説明に足を運びました。普段から耳をカバーする工夫を重ねていたからこそ、困り感が上司にも伝わっていて、スムーズな導入に繋がりました。


人事異動で課長と上司が一気に変わる

正直言うと、これが1番の要因です。人が変わるって強い。

1年目は小出し小出しに自分が苦手なことを伝えていましたが、2年目は同僚は知っていて上司が知らないという状況です。だから、「自分はこうなんです」と言うと「ああ、そうなんだね」と意見が通りやすいです。

特に異動してきたばかりの上司は様子を伺ってるので、だいたいのことはなんでも受け入れてくれました。

去年の春からほぼ毎日テレワークを実施している関係で、テレワーク開始時と終了時にメールを送る必要があることも功を奏しました。そこで通院時の報告や、体調報告ができます。そうすることで、密にコミュニケーションを取れていたのがよかったです。

加えて私が意識していたのは、極力自分からは事実ベースの報告しか行わないことです。事実に基づいた結果でしか、上司は責任もって判断できないと私は思っています。

エピソードとして、私は2年目になっても相変わらずヘマをかましておりまして、1度他の部署を怒らせてしまったことがあります。

その時の主な原因は、電話でのやり取りで自分と相手の受け取り方が全く違ったことです。そういう大きな失敗があった後、こまめに聞こえが原因で上手くいかなかったことを報告していました。

またそれらが負担となって体調を崩すことがありましたので、それも報告していました。それらの積み重ねがデジタル耳栓の導入と、後述する単純労働への切り替えに繋がりました。


単純労働への移行(準備中)

単純労働への切り替えは、耳鼻科と精神科の医師から進言されました。最初聞いた時の私の感想は(そこまでする必要がある?)と思いました。

ただ、先述したような電話でのやり取りの取り違えから、耳から入る情報処理に責任を持てないと思うようになりました。その後、単純労働への切り替えについて支援者と相談を繰り返しました。

職場では年に3回、人事考課のための定期面談があります。その場で上司に単純労働への切り替えを伝えると、課長と相談してみる旨伝えられました。正直そんなにすんなり行くとは思ってなかったため腰が抜けました。

課長との面談では単純労働への是非ではなく、

・私の意思はどうなのか

・単純労働に切り替えるとして、座席移動はするか

・仕事内容は今のままか、新しいことか

と、切り替えること前提で話されました。その上で、他にも同じような人がたくさんいること、自分が働きやすい環境を整えることが1番だということ、倒れず働くのが1番だということを伝えられました。

まさかそんなことを言われるとは思っておらず、涙が出ました。

支援者に報告すると自分のように喜んでくれたのもまた涙です。

今までの様々な工夫やこまめな報告が身を結んだなあと思いました。


これから

今回の出来事は「障害とはなにか」「障害をどう解決するか」を真剣に考えるとてもいい機会でした。

実は自分が今の職場を受験したのも、実際に自分が働く中で「障害とは何か」「障害をどう解決していくか」について考え、それを実践していくことにあります。

それを通して、組織の内側からダイバーシティを染みつかせていきたいと考えていました。しかし、実際に働いてみて気づいたのは、合理的配慮の提供を最も阻害してたのは自分だということです。

自分が自分に必要な配慮や調整を理解してないから、周囲もどうしていいかわからないということがよく分かりました。

「できるだけ文章のやりとりで」ではなく「耳栓つけます。口頭だと理解できないとこがあるので復唱します。間違ってたら指摘してください」の方がわかりやすいですし、普段の接し方も変わります。

また、普段から困り感を共有することで、相手もこちらの提案を呑んでくれやすくなります。困り感を共有するのは非常に難易度が高いことではあります。心理的安全性が確保されていないと中々できないことです。

しかし、そこの壁を乗り越える勇気が必要なんだということを学びました。本当はそこまでしなくても、一言いえば対応してもらえる世の中になればいいんですが。というか、自分が自分で問題をややこしくしていた感満載です。


デジタル耳栓を着用し、周りに話しかける際の留意点をメールしたことで、周囲の対応が大きく変わりました。もしかしたらもっとすんなり変わったのかもしれませんが、今の結果に満足しています。

これから単純労働への切り替えが徐々に行われていきますが、円滑に切り替えられるよう、周囲とコミュニケーションとりながら進めていきたいです。