見出し画像

スマブラのトッププレイヤーが書き集うSmashlog、ゲームメディアの新しいモデルとなるか

ゲームキャスターは携わるタイトルの面白さを見抜き、伝える力を持っている。同様に、プロゲーマーを含むトッププレイヤーは取り組むタイトルをうまくプレイするためのノウハウを持っている。トッププレイヤーはそのゲームの専門家だ。

なので、トッププレイヤーが初中級者に向けてノウハウを伝達したら、タイトル全体のプレイヤーレベルは向上するだろう。それは各タイトル――ひいては日本のesports業界にとって実にメリットがありそうだ。

実は『スマブラ』にはそういう場がある。Smashlogだ。

ということで、今回はSmashlogを参考に、トッププレイヤーが初中級者にノウハウを共有するメリットやその仕組み、そして新しいゲームメディアの可能性について考察していく。

Smashlogの衝撃

『スマブラ』のトッププレイヤーや、国内最大級のコミュニティ大会「ウメブラ」の運営者たちが集って今年5月に立ち上げたSmashlog。開設月のPVは11万とのことで、上々の滑り出しである。

もともと『スマブラ』のプレイヤーは横の繋がりが活発で、トッププレイヤーも情報発信および情報収集に熱心だった。ブログでかなりの発信力を有している人もいる。Smashlogはそういう人たちが集まって記事を書いているゲームメディアだ(動画も投稿している)。

記事内容を端的に言うと、多様。『スマブラ』のテクニックや上達方法が中心ではあるが、プレイヤーインタビューや大会運営のノウハウ、大会に挑むためのマインドセット、海外遠征の際の準備、プレイヤー同士の交流話など、『スマブラ』から派生する内容なら何でも扱っている。「もっとリツイートしてほしい」という記事すらある。

国内ではこれまで、トッププレイヤーたちが集まって情報発信している場/メディアはほとんどなかったように思われる。もちろん個人がブログやTwitterなどでノウハウを共有するのは日常的な風景だが、Smashlogのように1つのメディアでまとまっている事例はなかなか見当たらない。

企業が運営するゲーム攻略サイトは乱立していても、書き手は必ずしもトッププレイヤーではない。ファミ通.comやALIENWARE ZONEにはトッププレイヤーが書いている攻略記事があるが、メディアとして「トッププレイヤーが書くこと」や攻略記事が主軸になっているわけではない。

だからこそ、僕にはSmashlogが衝撃的だった。esportsという文脈に置いたとき、そこには多大なメリットが考えられるのだ。

※『スマブラ』で腕に自信があったり、コミュニティや大会の運営に携わったりしている人はSmashlogでどんどん記事を書かせてもらったらいいと思う。

トッププレイヤーよ、書き集え

現状、トッププレイヤーによるノウハウの発信はそこまで盛んではない。たしかに生放送や動画で解説しているプレイヤーは少数いて、Twitterで発信しているプレイヤーも少数いる。LINEグループや掲示板、wikiで情報が共有されていることもある。ときどきゲームメディアで書いているプレイヤーも少数いる。ブログを持っているプレイヤーも少数いる。

だが、全体の情報量は多くない。しかも、大半が生放送とSNSが中心なので、情報は蓄積していかない。流れてしまえばもう誰も振り返らないし、検索にも引っかからない。

そもそもプレイヤーの大半を占める初中級者にとって、どこに行けば自分がプレイしているタイトルの、有益で説得力のあるノウハウがあるのか分からないのだ。初中級者はどこかの誰かが書いたノウハウより、トッププレイヤーが書いたノウハウを知りたいはずだ。

だから、Smashlogのようにトッププレイヤーが書き集う場がタイトルごとにもっとできていけば、それはesportsを盛り上げることに一役買うだろうと思われる。esportsを度外視したとしても、そうした場は読み手にも書き手にも運営者にもメリットがある。

どんなメリットがある?

では、具体的に誰にどんなメリットが生じるのか。書くまでもないかもしれないが、いちおうまとめておこう。

読み手のプレイスキルが上がる
まず読み手目線になると、トッププレイヤーの説得力あるテクニック解説や上達方法を読んで学ぶことで、自身のプレイスキルを高めることができる。そうするともっと勝てるようになり、プレイするのが楽しくなる。

また、初中級者全体のプレイスキルが上がればそこからトッププレイヤーが生まれてくる可能性が高くなる。そのタイトルにとっては非常に望ましいことだ。

書き手にファンができる
書き手目線になると、文章力や伝達力が身につくというメリットがあるが、それよりもファンができる可能性が最も魅力的だろう。たとえ最初は無名でも、ノウハウの価値には知名度や人気は関係ない。初中級者にとって価値ある情報を提供していけばシェアされ、おのずと名は知られていくはずだ。評判が高まればコーチとしての需要や人気も出るだろう。

それと、書き手同士で繋がり、情報交換もできるようになる。オフラインの場では「○○で書いている」という名刺代わりにもなりうる。たぶん、スポンサーにとっても受けがいい。

みんなが集う場を作れる
運営者(プラットフォーマー)としては、広告やアフィリエイトによる収益化を目論むことができる。それを差し置いても、初中級者に「あそこに行けば情報がある」と思われること、トッププレイヤーに「あそこに行けば情報発信できる」と思われることにメリットがある。

情報のハブとなるので、扱うタイトルに興味がある人たちが集まってくるのだ。もちろん、スポンサードに関心を持っている企業や、番組制作を行なっている企業も。人が集まる場はそれだけで大きな価値を持つ。

ゲームライターとの二人三脚

とはいっても、やはり知識を文章にするにはプレイスキルとは別の技術が必要だ。プロゲーマーに時間も技術もないとしたら、時間と技術がある人を雇えばいい。そこでゲームライターが役に立てる。プロゲーマーがゲームライターに仕事を依頼するのである(もちろん動画でもよく、その場合はゲームライターではなく動画編集者に依頼することになる。)。

プロゲーマーが1つのテーマについて30分も話せば、ゲームライターはたちまち記事にしてくれる。自分で書けば何時間もかかるけれど、ゲームライターに頼めば自分の時間は1時間も必要ない(テーマによるが)。両者の問答によって、よりよいアイデアを引き出せる場合もあるだろう。

では、掲載する場所、つまりメディアは誰が作って運営すればいいのか。Smashlogが成立しているのは、モチベーションに溢れる人たちがたまたま『スマブラ』トッププレイヤーの中にいたからだ。ほかのタイトルでも同じ仕組みは可能だろうか?

僕はその答えを持っていないが、トッププレイヤーなりプロゲーマーなりが中心にならないと、Smashlogライクなゲームメディアは成立しない。ただ、場の運営者はトッププレイヤーでなくてもいい。その仕組みを下記で提案する(企業であれコミュニティであれ、いずれにせよ音頭を取る人がいないとしんどいが)。

潜在ファンとの接点を増やすことへの投資

既存のゲームメディアの仕組みでは、(esportsタイトル中心の)Smashlogライクな場は提供できないだろう。従来の、メディア(企業)側が書き手に報酬を支払う形式だと、esportsネタだけでは収益が厳しそうだ。

なので、もし企業が関わるとしたら、プロゲーマーとゲームライターをマッチングさせるサービスで手数料を頂戴しながら、掲載料は徴収しないメディア(どちらかというとプラットフォーム)を運営するという方法が考えられる。

プロゲーマーは、既存のゲームメディアであれば支払わないといけない高額の広告費ではなく、はるかに安い原稿料を支払うだけでいい。原稿料はGamerCoachのようにゲームライターの人気によって上下するだろう。いい情報を提供できるプロゲーマーならファンができ、直接教えてもらいたいと思う人も出てくる。そのときはそれこそGamerCoachを利用すればいい。

まあ、このビジネスモデルは既存のゲームメディアがesportsネタだけではお金になりにくいのと同じく、日本にプロゲーマーやプロチームが少なすぎるがゆえに成り立ちにくい。

けれど、プロゲーマーにとって潜在ファンとの接点を増やすのは大事なことで、ノウハウの共有や情報発信は間違いなくそのための手段の1つだ。それに、長期的にファンを獲得することができるのだから、プロゲーマーやプロチームがそこに時間やお金を投資するのは割がいいのではないだろうか。

個人でブログをやっても情報の蓄積が遅いし、おそらくほとんどの人が継続できない。個別にYouTubeに動画を投稿しても、体系的にもまとまっていないのでほしい情報を探しづらい。だからこそ、タイトルのトッププレイヤーやプロゲーマーが数人~数十人集まって記事や動画を作っていけば、かなり強力な場となるだろう。

ゲームメディアの新しいモデル

でも、これはなんだか夢物語のような気がしてくる。その仕組みで運営されているSmashlogはたしかに存在している。しかし、それゆえに、僕にはSmashlogが衝撃的だったのだ。

もしSmashlogがほかのタイトルでも実現されたら? あるいは、Smashlogがより規模を大きくし、他タイトルも扱うようになったら? それはゲームメディアの新しいモデルだと言えよう。もしくはこう言ってもいい――esportsメディアのあるべきモデルだと。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます! もしよかったらスキやフォローをよろしくお願いします。