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eスポーツのコミュニティ大会を事業化する選択肢と可能性

今回は覚え書きとして、主催者の負担をどうにかしないといけないコミュニティ大会について考えます。

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eスポーツが産業としてより発展するにはコミュニティ大会の役割が重要だとされながら、コミュニティ大会の開催・継続はノウハウや費用も含めてほとんど主催者任せになっており、ゲーム会社やJeSUのサポートは必ずしも充分ではない状況があります。

『Hearthstone』や『Shadowverse』、SNKなどではイベント開催にあたって何かしらのサポートを受ける手段がありますが(現状オフラインイベントは停止中の場合もあり)、いずれにせよ多くのタイトルでサポート体制が整っているわけではありません。

小規模ならまだしも、大会やイベントが成長して規模が大きくなると、それだけ主催者の負担は増します。ただ、コミュニティ大会においては基本的に利益追求はNGであり、たいていは参加費を取ることも許されていません。ユーザーの「利益は求めてはいけない」的な温度感が理由だったり、タイトルによっては規約やガイドラインで明示されていたりします。

コミュニティ大会の参加人数が増えて大きな会場で開催できるようになることは誰にとっても喜ばしいことのように思えます。しかし、主催者にとっては負担が増えるため、たとえ数百数千人の参加希望者がいても、費用を抑えるために参加人数を絞り小さな会場にしておくことが当たり前になっています。

時勢的にオフラインでの開催が難しいのでほぼすべての大会がオンラインで開催されており、この場合は会場については問題になりません。ですが、いずれ社会状況が許せばオフライン開催が求められるのは必然で、また「主催者の負担」問題がぶり返します。

ここにはどうにもジレンマがあるように思いませんか? eスポーツ関係者だけでなく、ゲーム会社にとってもプレイヤーにとってもコミュニティ大会の数が増え規模が大きくなるのは望ましくても、なかなかそれを(特に経済的に)サポートすることができていないのです。

主催者の情熱だけに頼るコミュニティ大会はいずれなくなります。情熱だけで何十万円、何百万円もの費用を支払い、金銭的な見返りもなく開催し続けるのは困難を極めます。

これはどうにかして解決しなければならない問題です。

コミュニティ大会が運営費を賄う解決策

そこで検討に挙がるのが、コミュニティ大会の事業化です。事業化とは大会を何らかの手段でマネタイズし、収益を得ることです。黒字化や利益追求まではいかずとも、せめて費用に釣り合うくらいは収益を得る方法はないものでしょうか。

例として、いくつかのコミュニティ大会やイベントについて見てみましょう。

つい先日、僕も驚きながらニュースを受け取りましたが、RTA in Japanが一般社団法人となり、チャリティイベントとしての色を本格化していく旨が発表されました。

主催のもかさんによると、個人での出費が多すぎること、個人ではできないことが増えてきたことが法人設立の理由として挙げられています。RTAイベントを事業化、これによって運営費は賄いつつも利益の追求はしないとのこと(そのための一般社団法人)。

ほかにも、ゲーム系のイベント、特にeスポーツ(対戦ゲーム)のイベントでは国内最大規模の『スマブラ』大会であるウメブラを開催しているチームが昨年、令和トーナメントという一般社団法人を設立しています。

こちらもあくまで運営費の分だけ収益を得て、法人になってできることを増やすための選択だと言えるでしょう。

一般社団法人の設立でどのようにマネタイズするのかは分かりませんが、例えばクラウドファンディングをやりやすくなる、企業イベントの運営を手伝う、といった方法で収益を得られるのではないでしょうか。

クラウドファンディングといえば、まさに盛り上がりのまっただ中にあるドズルさん主催のクラロワ最強決定戦。CAMPFIREというサービスで運営費と賞金を募り、6月15日時点で570万円以上が集まっています(前回はドズルさんがTwitterのDMで協賛希望者とやり取りしていたそうですが、さすがに手間がかかりすぎたのだと思います)。

同大会には企業スポンサーもいますが、コミュニティ大会でスポンサーといえばやはりKnives Out Wednesday e-sports team League Match(KWL)などのリーグや大会を運営している超無課金さん(とチームのαD)です。

詳細は分かりませんが、Next the Nextという株式会社を設立しているため「コミュニティ大会だった」が正しいかもしれません。いずれにせよ、発祥はコミュニティ大会です(ドズルさんの場合も株式会社ドズルがありつつ、クラロワ最強決定戦は個人で主催しているようです)。

※コミュニティ大会が何を指すかは曖昧なところもありますが、基本的には法人格を持たない個人や団体が主催するコミュニティ(一般プレイヤー)向けの大会のことであり、法人格を持つ企業などが主催するコミュニティ向けの大会は意味していないと考えられます。

ではウメブラのような非営利の一般社団法人が主催する大会はどちらかというと、利益を追求しない点が議論の鍵になりそうですが、大会の開催が団体によるコンサルティング(事業)のプロモーションになるとしたら微妙な気もします。要検討。

ゲームの使用と収益化の許諾

ここで大きな問題として、主催者がゲームを使用する際には権利者から許諾をもらわなければならないことが挙げられます。一切の収益を得ない小規模のコミュニティ大会であれば勝手に開催していることもあると思いますが、基本的には誰かが他社(他者)の著作物を無断で利用してイベントや大会を開催することはできません。加えて、利益を得るのは違法です。著作権法。

もし企業が大会を主催するのであれば、規模の大小を問わずゲーム会社(権利者)の許諾なしに開催すること、ましてや収益を得ることは許されません。前提として自社の利益を目的に開催するのですから当たり前です。

一方、コミュニティ大会はそれがコミュニティ(個人)の主催であり利益追求が目的ではないがゆえに開催が黙認されている場合が多いようです。ただし、ゲーム会社によって明示されているケースから、まったく何の言及もされていないケース、なんとなく黙認されているケースまで多様なため、主催者はタイトルごとに異なる判断を下して行動する必要があります。

まとめると、コミュニティ主催の場合、利益追求しないのであれば無許諾でも開催が可能とされている場合が多い、としておきましょう。

このあたりに関して厳しいことで知られているのが任天堂です(最近は風色も変わってきたようですが)。ウメブラは『スマブラ』を利用しているため、開催は可能だとしても参加費やクラウドファンディングで利益を得ることはできません(または相当に難しい)。そのため、サイトに記載されているように下記の方法で収益を上げ、ウメブラの開催費用に当てているのではないでしょうか。

●外部トーナメント運営のアドバイザリー・コンサルタント・そして実働を請け負います。

4通りの事業化方法

さて、ここまでで4通りの事業化方法が見えてきました。誰からお金をもらうかに注目してみましょう。

1.参加者から参加費をもらう(賞金は出せない)
2.参加者以外の個人に協賛してもらう(観戦料)
3.企業にスポンサーや広告出稿をしてもらう
4.運営ノウハウの提供など大会以外で得た利益を大会に回す

※大会関連のグッズ販売は1と2を合わせた感じで、生放送や動画の広告収入は3に近しいと考えます。

1、2、3は各ゲーム会社やタイトルのガイドラインによるところが大きく、コミュニティ主催といえど簡単には実現しなさそうです。OKの明示や黙認がなされているタイトルだと心が少し軽くなりますね。

また、1と2はプレイヤー側の「お金を払って参加する・協力する」ことに対する気持ちの問題もあります(が、これも最近は風向きが変わりつつあるのを感じます)。よほど魅力的でないと提示金額も大きくはできないと思われるので、ないよりまし程度だと思いますが。

3については、NGのゲーム会社は結構あると思われます。もしゲーム会社的にOKだとしても、そのためのノウハウがあまり流通していないのではないでしょうか。いま、かつてなくコミュニティ大会の運営ノウハウは共有されるようになってきましたが、スポンサー獲得を始めとするマネタイズの方法は(表向きは)ほとんど共有されていません。というよりも、ノウハウ自体が確たる形では存在しない可能性も。

基本的にはプロチームがスポンサーやパートナーを獲得する手法、流れと同じですが、異なるやり方もいくつか考えられます。ただ、数百人規模の大会で視聴者も同程度だと、企業にとって魅力が小さく、協賛をしてもらうのはなかなか難しいと思います。そういうときは継続開催で総参加者数や総視聴者数をアピールできますが、それはまた別の機会に。

もし諸々の難関を越えて超無課金さんのような形で法人化して収益を得ることが可能になったとしても(1~3の方法で)、小規模大会でマネタイズするのは容易ではなく、それこそKWLほどの視聴者数がいなければ大会自体で収益を得るのは難しいでしょう。

4は、実は多くのコミュニティ大会ですでに実践されているというか、デフォルトがこれです。主催者個人が大会とは無関係の本業で稼いで、そのお金を大会運営に回すという方法ですね。ただ、これだと時間的にも体力的にもすぐに限界が来るので、前述した事例のように法人化してより効率的に収益を上げる必要が出てきます。

このとき、令和トーナメントのように主催者が培ってきた運営ノウハウを商材として売るパターンは有望です。大会を主催したいと考えている企業の助けになることで収益を得て、自分の大会を開催するということです。

ここで僕が懸念するのは、大会自体がマネタイズされていないという点です。たしかに、企業からの受託案件は安定しており、お金もそれなりに出してもらえます。この方法で収益を得ている主催者(元主催者)も多いです。けれど、どうしても「コミュニティ大会の事業化」と言う限りは引っかかりを覚えます。

それは、大会ではなく大会を運営することで培ったノウハウを活用していて、これを大会の事業化と呼ぶのは難しいように感じるからです(もちろん悪いわけではなく、可能なら取り組むほうがよい)。稼げていても大会開催は赤字だと言われればそれまでで、向き合うべき真の問題をうまいこと回避しているだけな気もします。

Smashlogのようなウェブメディア運営を絡める方法もありえそうですが、これもまた別の機会に考えましょう。

いちおう5番目の選択肢としてきちんとゲーム会社から許諾を取って法人としての事業にするのも手ではあります。ですが、そこまでの規模には至らない場合も多々ありそうですし、ライセンス料を払いながら大会開催だけで黒字化を達成し事業継続するのは簡単ではありません。

結局、どうすればいいのか

とはいえ、僕は4の「運営ノウハウの提供など大会以外で得た利益を大会に回す」が大会の継続的な開催には現実的だと思います。当然、参加者や観戦者、スポンサーからのお金で大会が回るようになるのがベターではあるでしょう。そこに至る道は……まだ遠いのかもしれません。

※『スマブラ』のコミュニティ大会では参加費で賄えるケースが増えているとのこと。オフライン開催の文化があり、コミュニティの歴史が長く、強力なリーダーも多いといった要因も大きそうです。

あるいは、ゲーム会社がコミュニティ大会の重要性を認め、尊重するのであれば、開催実績に応じて報酬を支払うべきだと主張することもできます。なぜなら、コミュニティ大会の存在によってユーザーがより長くゲームをプレイし、より課金するようになるとすると、その価値に対して何らか報いなければならないと考えられるからです。

ほとんどすべての大会主催者はそのゲームが好きで、多くの人に長く遊ばれてほしいからこそポケットマネーを出してでも大会を開催します。根底にあるのは自分のための金儲けではありません(そういう人もいるかもしれませんが)。だとすれば、大会開催の負担を個人やコミュニティに委ねきるのはゲーム会社としてどうなのか、と問題提起したいところです。コミュニティ大会が大事だと考えているのなら、なおさら。

例えば、こんな感じで。Unityの「年間売上10万ドル以下なら無料」「それより売上があれば有料」という方法はゲーム会社が取りうる一案としていいかもしれませんね。はたまた、主催者を招待した焼肉パーティがあるだけでもモチベーションになりそうです(Twitchがパートナープログラムのストリーマーを呼んでパーティを開催するように)。

まだ議論が深まっておらず、理論も実践も未知の領域が広大だと思いますが、なんとかコミュニティ大会をより誰でも気軽に長期に開催でき、しかも成長させて事業化できる未来になればいいなと願いつつ、覚え書きはここで終わりです。

主催者の方々などからの引用リツイートでのコメント

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