見出し画像

反射ツイートで恥をかかないために、ゼロから始める記事の読み方

「この記事には○○が書かれていない! 言及していない著者は無知で愚かだ!」

そんなふうに憤慨した記憶のある人に捧げます。

人は皆、何事かに詳しいものです。そのため、自分が深く知るテーマに関連する記事を見つけると嬉々として読みに行きます。しかし、その内容で自分が満足できなかったとき、粗を探し出して「○○が足りない」と怒る人がいます。

その指摘はいかにも妥当で的確だと思えるかもしれませんが、たいていの場合は的外れです。指摘された側も「わざと省いてるんですよ」「あなたのような博識な人のための記事じゃありませんよ」と苦笑しています。

いったいなぜ、読むことを強要されたわけでもない記事を読みに行って怒るのでしょうか。それが公共や倫理に反するのなら理解できます。でも、たいていはそれほど深刻なテーマの記事ではありません。ましてや、お金を払った記事ですらありません。

無料の記事を読んで自分が満足できないから怒り、反射的にツイートを繰り出す……これはいかにも幼稚な反応です。あまりにもみっともないと思いませんか?

そんな次元から卒業していただくために、今回は自戒を込めて記事、特にウェブ上の記事の読み方を解説します。内容を自分の血肉にする精読の方法ではなく、反射的に重箱の隅をつついて恥をかかないための読み方です。

誰でも当たり前に日本語を読めていると思っているかもしれませんが、ある程度長い文章や記事になると、注意しながら読まないと書かれてあることを履き違えてしまいます。文字を読むのと文章を読むのでは異なるスキルが必要です。

そのポイントは3つ、「誰に」「何のために」「何について」書いてあるのかをゆっくり考えることです。たとえあなたの指摘が事実で正しい内容だったとしても、これらのポイントを踏まえていないと的外れになります(繰り返しますが、間違いの指摘は除いて)。

誰に向けた記事なのかを判断する

恥を晒さない記事の読み方をするには、その記事が誰向けなのかを判断することが最も重要です。あるテーマについて初めて知る人、あるいはざっと概要を知りたい人向けの記事に対して、極めて深淵で詳細に入り組んだ説明をするのはナンセンスです。

例えば、進化生物学を学び始めたばかりの人に血縁選択を説明するとき、「哺乳類の母親と子は遺伝子を半分共有しているため、母親が貴重な栄養(母乳)を自分だけで使わず子に与えることは、結果として自分の遺伝子の繁栄に貢献していることになる。だから血縁者を優遇する遺伝子が進化する」と言えば充分です。

にもかかわらず、「この説明は薄い。厳密性がないから、遺伝学と数学できちんと証明しなければ意味がない。血縁度rと包括適応度wが~」などと指摘するのはお門違いです。

自分ははたしてこの記事の対象読者なのだろうか? 

文章を読むとき、まずこの疑問を持つことが必須です。ほとんどの悲劇はこれで防げます。もし内容に物足りなさを感じたとき、あなたは対象読者ではありません(もちろん難しすぎると感じたときも)。not for meならぬnot for youです。記事やその著者には、対象読者でないあなたを満足させる目的も義務もありません。

もしどうしても何か指摘したいときは、あなたが知識を振りかざして心地よくなるためではなく、想定された対象読者にとって適した内容にしましょう。当然、間違いがあれば「ここ間違っていますよ」と教えてあげればよく、いちいち怒って声を荒げる必要はなく、反射的にツイートする必要もありません。

◆判断方法1 掲載メディアの性質を見る

対象読者を判断するには、最初にその記事の掲載メディアの性質を確認しましょう。

たとえば、ファッション系のウェブメディアにゲームをテーマにした記事が掲載されているとします。この記事が誰向けかと言うと、ファッションに興味がある人向けで、必ずしもゲームに詳しい人ではありません。

ゲーム内のファッションについて紹介されている記事であれば、その読者に対して「このゲームは○○という作品をオマージュしていて、クリエイターは△△というゲームスタジオ出身で……」という説明は不要です。必要であれば著者が記述しています。

ゲーム系のウェブメディアにしても、例えばコアゲーマー向けかビジネスパーソン向けかで内容は大きく異なります。コアゲーマー向けのウェブメディアでゲームの内容についてレビューされているときに、「ビジネス上のKGIやKPIが説明されていない」と言うのは妥当ではありません。

また、ビジネス向けのウェブメディアでとあるゲームのビジネスモデルが説明されているとき、「この作品のグラフィックの系譜には○○という作品があるのに、全然書かれていない!」と言うのは的外れです。

◆判断方法2 記事の冒頭に書かれてあるかを確認する

対象読者を判断するもう1つの方法として、記事の中で「○○のような人のために」「○○で困ってる人に」といった言及がないかを探すのがいいでしょう。

だいたいは冒頭に書かれていますし、「概観する」「ざっとレビューする」「おおまかに紹介する」という言い回しがあれば初心者向けだと分かります。提示されているテーマで玄人向けだと判断できる場合もあるはずです。

記事の性格を無視して自分が詳しいからと声を荒げて悦に入るのは、あなたが文章を読めていないことを証明しているだけでたいへんみっともない行為です。子供向けの料理を注文して「量が少ない」と文句を言っている人がいたらどう思いますか?

何のために書かれているのかを読み取る

次に、その記事が何のために書かれているのかを読み取りましょう。基本的には、全体像や概要を紹介しようとしているのか、詳細を解き明かそうとしているのか、この2つの違いが見分けられれば充分です。

これも記事の冒頭で説明されていることが多いですが、著者や掲載メディア、対象読者によって記事の狙いは異なるので要注意です。

「概要を書きます」と宣言している記事に対して1000人中1人しか知らないような事実が書かれていないと指摘するのは的外れです。逆に、詳細に説明している記事に対して「複雑すぎて初心者が理解できない」と指摘するのも的外れです。

あるいは、新規のアイデアを出したり検討したりするのが目的なのに、「それはおかしい」と最初から潰しにかかろうとするのもNG。記事に対してだけでなく、会議やワークショップの場でも嫌われる行為ですね。

起きがちなのは「簡単に説明する」ために書いている記事に「あれもこれも書いていない!」と指摘する現象です。それは、詳しく知らない対象読者が理解しやすくするために、著者があえて省いているだけです。

いったいどうやって、著者が書いていないことを指して「知らない、調べていないからだ」と断定できるのでしょうか。なぜあなたのほうが著者より詳しいと決めつけられるのでしょうか。本人に確認したわけでもないのに、本当に不思議でなりません。もう一度言いますが、ほとんどの場合、著者はわざと詳細に書いていないだけです。

もしあなたが全然知らない、興味を持ち始めたばかりのジャンルの記事を読んだとき、見知らぬ専門用語やハイコンテクストな話題が連発されていたら「分からない」と感じて読むのをやめるでしょう。

こうした記事の狙いを読み取れずに「○○が書かれていない!」と怒って反射ツイートをしたことがありませんか? あなたはみずから悲劇を発生させてしまっているのです。そもそも記事を読んで怒る必要がありません。そっと記事を閉じ、スマホをしまい、外に出て、一生懸命働き、たっぷり稼いで、充実した生活を送ってください。

何について書かれているかを察知する

記事の対象読者と狙いを読み取れれば、事故は大幅に減るでしょう。そのうえでさらに、何について書かれているのかに注意を向けられればベターです。記事で書かれているテーマを理解しなければ、まるで見当違いの意見を述べてしまうからです。

例えば、ゲームのストーリーについて説明しているのに、グラフィックや開発費用への言及がないと指摘するのは適切ではありません(その説明があったほうがいいときもありますが)。同様に、ゲームのデザインを説明しているのに、そのゲームのコミュニティやYouTuberの紹介がないと指摘するのも明後日を向いています。

全体像を述べている記事にちょっとした例外や(あえて)言及していないであろう事柄に触れるのは、ほとんどすべての場合でNGです。もし「マウントしたい」という快楽を求めて指がキーボードに触るのを我慢できなくなりそうでも、「こういうのもありますよね」と穏当に提案する程度にしておきましょう。著者が忘れていただけなら感謝されます。

何度も繰り返しますが、「○○が書かれていない!」と騒ぐのは本当にみっともないです。シチューを注文して「ニンジンの切り方が大きすぎる」「コショウが入っていない」とクレームするようなものです。そんなときは自分で料理をしましょう(自分で記事を書けばいいという意味です)。

むしろ、なぜそれが省かれたのかを考察し、記事の狙いを理解するほうが建設的です。的外れに騒いでいる人に対して、著者は「記事の趣旨を読み取れない人なんだなぁ」と呆れています。もちろん、直接言うことはありません。そんな人を相手にするのは時間の無駄だからです。

世の中にはこうした齟齬が無限に生じており、なんとも悲しみが募ります。著者が書いていないことを無知や愚かさのせいだと考え、自分のほうが詳しいのだと誇示したい気持ちは理解できなくはないですが、これは一番恥ずかしい行為です。

ほとんどの場合で著者はわざとやっています。なぜなら、記事を書くうえで1から10まで仔細に記述するのが正解とは限らないからです。その記事のテーマや趣旨、著者が主として何について書こうとしているのかを察知することで、それに関係がない事柄や必要以上の細部に言及してしまうことを避けられるでしょう。

対象読者、狙い、テーマの理解に努める

ここまで簡単に、記事を読むうえでの3つのポイントを解説しました。文章をしっかり理解して自分の血肉にするにはまた別の精読という手法が必要ですが、少なくともこの3つを意識することで、「自分は記事をちゃんと読めていません」というシグナルを送ることがなくなり、恥をかくこともなくなるでしょう。

3つのポイントをまとめると、

誰に向けた記事なのかを判断する
→掲載メディアの性質を見るか、記事の冒頭に書かれてあるかを確認する

何のために書かれているのかを読み取る
→全体像や概要を知ってもらう記事か、詳細に解説する記事かを把握する

何について書かれているかを察知する
→テーマに直接関連しない事柄はあえて省略されていると意識する

ということでした。記事を読むうえで大切なのは全体を掴むことであり、細部にこだわることではありません(それももちろん重要ですし、論文などでは細部のミスが致命傷になりますが、今回はウェブ上の記事を対象にしたのでした)。なにより、怒り狂って敵対的にツイートする必要はまったくありません

これは自分が記事を書くときにも大事なことです。対象読者がはっきりしていないと、どの程度まで深く(あるいは浅く)書けばいいのか曖昧になります。何のために書いているのかを意識していないと、書くべきことと書かないでおくべきことの区別がつきません。そして、何について書いているのかを自覚しなければ、内容が横道に逸れて読者に知ってほしいことが伝わりません。

よく言われるように、創作とは何を足すかではなく何を引くかでクオリティが決まります。何でもかんでも足していくのは誰にでもできます。必要な事柄だけに絞り、贅肉を削ぎ落とすのは創作する人にとって美学であり実用です。

読むときも書くときも、「誰に」「何のために」「何について」をぜひ意識してみてください。それだけで、ほかの人より一歩進んだ読み方ができるようになるはずです。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます! もしよかったらスキやフォローをよろしくお願いします。