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短編ストーリー「初めてのきらめきのなかで」

皆様、いかがお過ごしですか?
この時期、ソワソワされている方もいるかもしれませんね。
私も恋愛ネタは大好きなのでインスピレーションが爆発してしまって、
イルミネーションデートにでかけた、付き合って間もないカップルの物語を作ってみました。
どなたかの心に、寄り添えたら幸いです。

本篇↓

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手をつなぐ。
指の間の湿り気が気になる。
緊張で汗ばむ私の体の機能を恨む。

彼の顔を見る。
夜の街のイルミネーションを背景に
彼の笑顔が浮き上がって見えて
何か言ってるけれど、
あまりにいい顔してるから
頭に彼の言葉が全然入ってこない。

「話、聞いてる?」
その言葉で我に返る。
「えっと…なんだっけ?」
そんな失礼な返答に、彼は笑って応えるだけ。

「キレイだなぁって言ってたんだ」
「ごめん、そっか。うん、キレイ。」
そんな言葉しか出てこない私の声帯を憎む。

少し歩いて、目的地に着いた。
ここは高台の公園で、街のきらめきを眺めるのに絶好のポイント。


目の前に広がるのは見慣れた街のはずなのに

発光するホタルが踊り狂う藍色の湖を見ているような、
散らばる星々をおおらかに包み込む宇宙の中にいるような、

そんな空間にただ、ただ圧倒される。



そして、その横で同じ景色を眺める彼がいる。

それだけで私の胸はいっぱいになってしまって

溢れないように
溢れないようにって
耐えるので精一杯だった。

ダメ、もう立っていられないかも。
すぐそばにちょうどベンチがあったので、たまらず座ってしまった。

彼は慌てて近づく。

「大丈夫?歩かせ過ぎた?」
ううん、違う、違うんだよ。
一度に降りかかる感情に耐えきれなかったこの足を呪う。
「私、あの、緊張しちゃって。」
こんなはずじゃなかった。
そう思ってしまったら最後。目の前が揺らいだ。涙ってやつが自然と瞳に溜まる。

初デートなのにやらかしたな。
そう思ったのに、予想に反して彼は明るく笑った。
「あはは。俺だけじゃなかったんだ。」

そのあと、彼は私の隣に座って、
自分の手の汗が気になってたこと
私が楽しめてるかめちゃくちゃ気になっていたこと
公園まで歩かせ過ぎたかなぁって思ったこと
そして、緊張でどうにかなりそうだったこと

全てを、一気に吐き出して、そしてスッキリしたかのようにまた笑う。

私もつられて笑ってしまった。
なんだ、彼も同じように緊張してたんだ。

そのあと、ベンチに座って二人でいろいろ話をした。
でも、やっぱり寒さには勝てなくて、
そろそろ帰ろうということになった。
この時間が永遠に続いて欲しいと思ったけれど
「今度は、どこにでかけようか。」
彼からの自然な誘いは、つまりは「次」があるってことだよね。

嬉しくなって思わず私から繋いだ右手から
彼のぬくもりが伝わって、
全身にひろがる温度を
感じられるこの体のすべてが恋しくなる。


(終わり)



※この物語はフィクションです。登場人物、場所は架空です。


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