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【屍人荘の殺人】そんなのアリ?をアリにしてしまう驚きのミステリ

衝撃のデビュー作「屍人荘の殺人」で話題になった今村昌弘さんの剣崎比留子シリーズは、続編が出るたびに新たな驚きをもたらしてくれる本格ミステリです。

古今東西、様々なミステリが生み出されてきましたが、そのどれとも違うおもしろさがあるのがこのシリーズのすごいところ。

今回は、マイベストミステリのひとつでもある剣崎比留子シリーズについて語ります!

トリックや犯人がわかるようなネタバレはしていませんが、ざっくりと物語の展開には触れていますので、ミステリは前情報ゼロで読みたいという方はここでページを閉じてくださいね。

「屍人荘の殺人」

剣崎比留子シリーズの1作目でありデビュー作でもある「屍人荘の殺人」は、ゾンビ×クローズドサークルというこれまで見たことのないミステリです。

ミステリを愛する大学のサークル、夏休みの合宿、OBの持つペンション…。ここまで本格ミステリの要素がそろっていたら、何らかの事件が起こることを期待してしまうのがミステリ好きというもの。でも、実際に起こる事件は、私たちの予想をはるかに上回る出来事でした。

これはどんなにミステリを読んでいたとしても予想できない!

また、私がこのシリーズの好きなところの1つとして、登場人物がわかりやすいというのがあります。

ミステリあるあるとして、登場人物が多すぎて誰かが殺されるたびに登場人物一覧まで戻らないといけない…というのがありますが、「屍人荘の殺人」では、登場人物の全員が特徴を捕らえた名前である上に、一通り登場したあたりで改めて登場人物の振り返りをしてくれています。なんて親切!

例えば今回登場する女性キャラクターは、とある事情で美人ばかりなんですが、みんな名前だけで美しさが伝わってきます。それでいてキャラが被らないように個性を出しているのが上手いなと思いました。ミステリ初心者にもやさしいです。

何より予想もつかない展開の連続に驚き続ける読書体験ができます。本当に、え!?なんで!?そんなことある!?と声に出ます。

最後の最後まで見どころがある素晴らしいミステリです。

また、シリーズを通して登場する謎の組織・斑目機関も、「屍人荘の殺人」の時点ではただの怪しい研究機関であるという印象。でもこれが後々のシリーズで重要になってくるんです…。

推理小説のお約束を打ち破る驚きの展開の連続が魅力で、読み始めたら最後、一気読み確実です。

「屍人荘の殺人」はコミカライズもされていると知り、こちらも読んでみました。

漫画版では比留子さんの美少女っぷりが見事に再現されています。明智さんのキャラデザもかなり好み。

小説とは導入やキャラの設定が多少違っていますが、全体のストーリー展開はかなり原作に沿っていると感じました。情報を出す順番を変えたりオリジナルシーンを追加することで、状況をわかりやすく描写しています。殺人描写もしっかりグロい。

ただ、結末はかなり違います。

そういった点では、忠実に小説を再現したコミカライズというわけではないかもしれません。しかし、原作ファンとしてすごく気になるというほどではなく(あくまでも私はですが)、こういう展開もあったのかも…というifストーリーとして楽しめました。

ちなみに明智さんの見せ場がかなりあるので、明智ファンは一読の価値ありです!

浜辺美波さん主演の実写映画も見ました。

映画の方は舞台となる館のクオリティが高かったです。雰囲気たっぷりで、ミステリ的な何かが起こるだろうなという空気感が伝わってきました。

建物の設定は少し違いましたが、ミステリ小説に登場するのとまったく同じ建物を用意するのはさすがに難しそうなので、その点ではかなり頑張って寄せているのでは?と思えました。

ただ、登場人物の設定は小説と違う部分が大きいです。ストーリーも映画の尺に収まるようにちょっとずつ変えていますが、それは実写化あるあるかな。

全体としては、コメディ調でラブコメ寄りになっているなと感じました。葉村は終始比留子さんにデレデレで、比留子さんも可愛いドジっ子っぽく演出されています。

ドラマ「99.9」と同じテイストを感じたので、もしかしたら制作陣が同じなのかも。

結末も小説とはちょっと違いますが、小説の設定を活かしつつ、1本の映画としてうまくまとまっていると思います。

個人的には、コミカライズも映画も小説のおもしろさを引き出しながら、漫画化、映像化しているなと思いました。オリジナル要素もありますが、漫画ならでは、映像ならではの表現だったので、違和感なく楽しめたんだと思います。

「<屍人荘の殺人>エピソード0明智恭介 最初でも最後でもない事件」

あまり知られていない剣崎比留子シリーズとして、書籍化されていない幻の短編「<屍人荘の殺人>エピソード0明智恭介 最初でも最後でもない事件」があります。

2019年12月に刊行された、東京創元社の「ミステリーズ!vol.98」(映画『屍人荘の殺人』公開記念特集号)に掲載された短編で、現在は電子書籍でのみ読むことができます。

時系列的には「屍人荘の殺人」の前のお話。クローズドサークルではなく日常ミステリに挑む明智と葉村を見ることができます。

大学内にすでにミステリ研究会があるのに、改めてミステリ愛好会を作ってしまう明智さんのこだわり、嫌いじゃないです。

実は明智を主人公にした短編はいろんな雑誌に少しずつ掲載されているので、いつか1冊にまとめられるのでは…?と思っています。

「魔眼の匣の殺人」

単行本2作目となる「魔眼の匣の殺人」は、予言×クローズドサークル。

予言者が予言した絶対に覆らない未来が徐々に現実になっていくミステリです。

それは、”男女が2人ずつ、4人死ぬ”というものでした。

こちらもかなりの衝撃作。そういう殺人もあるのか…と驚くと思います。ストーリーのあちこちに、もしかして…と疑ってしまうような要素が散りばめられていて、ミステリ好きは揺さぶられてしまうかも。

この作品、この設定、このトリックでしか表現できないものが詰まっていて、ミステリとしても物語としても完成度がかなり高いです。

また、1作目で登場した斑目機関について深く掘り下げているところもおもしろかったです。斑目機関は、綾辻行人先生の館シリーズでいうところの中村青司ポジションですね。

今後のシリーズでも、斑目機関にまつわる場所が題材になるんだろうなと思います。

「兇人邸の殺人」

単行本3作目は巨人×クローズドサークルというこれまた突飛な設定。

巨人なんて出してしまったら、ミステリも何もないじゃないか!と思うかもしれません。違うんです。巨人もしっかりミステリの一部なんです。

1作目、2作目がおもしろければおもしろいほど期待値が上がってしまうのがシリーズものあるあるですが、その期待を大きく上回るワクワクをもたらしてくれる3作目です。

3作目は、これまでとちょっと違ったストーリー展開で進んでいきます。何が違うのかというと、追憶パートと事件パートが交互に描写されていること、そして語り手が1人ではないということです。

それによって何が起きているのか…。それは実際に読んで確かめてみてください。

「兇人邸の殺人」では比留子さんがクローズドサークルの定義について語るシーンがあるんですが、それを読んで、剣崎比留子シリーズはクローズドサークルの種類すらも3作全て変えてきているということに気づきました。すごすぎます。

これまでのシリーズと同じく、最後の最後まで心揺さぶられるミステリになっています。

「屍人荘の殺人」「魔眼の匣の殺人」がここでこうつながってくるのか!という楽しさがあるので、できれば1作目2作目を読んであまり間を空けずに読んでほしいです。

最後に

ファンタジーともいえる要素をミステリに組み込んでしまう今村昌弘さんの物語はまさに唯一無二。どの作品も「犯人はなぜ殺人を犯したのか?」という部分にこだわって作られているのがわかります。

人間を描くのがとても上手いので、どのキャラにも強く感情移入してしまい、ミステリを読んでいるとは思えないほど心を揺さぶられます。

本当に…毎巻切ない…。

どの作品も、続編を匂わせる終わり方なのも心憎いです。

シリーズはまだまだ続いています。ここでしか体感できない不思議な読書体験ができることを保証しますので、ぜひ一度読んでみてください!


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