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【化け者心中】【化け者手本】元女形と鳥屋が挑む江戸のばけもの暴き

推し作家さんの1人である蝉谷めぐ実さんの新作が発売されました!しかもデビュー作「化け者心中」の続編ということで、また魚さまに会えると思うと嬉しくてたまりません。

せっかくなので「化け者心中」も読み返し、まとめて感想文を書いていきたいと思います。

「化け者心中」

これがデビュー作か...!と驚いてしまうほど完成度が高く、魅力にあふれた作品です。きっと「化け物」じゃなくて「化け者」なところがミソ。

装丁も凝りに凝っていて美しいです。赤に銀を合わせるセンスよ…。単行本の方はカバー下のデザインも素敵なのでぜひ隅々まで見てみてください。文庫本には表紙デザインを使った素敵な栞が付いています。どっちを買うか悩みどころですよね。両方買えばいいじゃない。

物語は人気女形の魚之助と江戸で鳥屋を営む藤九郎が役者の中に紛れ込んだ鬼を探す、ホラーのようなミステリのような不思議な時代小説です。

藤九郎は決して二枚目ではないけど気持ちのいい青年で、年相応に好いた相手がいて、何よりも鳥を愛しているところが素敵。初心なところも可愛いです。

一方魚之助は、芸術家にありがちなわがままお姫様なんですが、そんなところもまた魅力に感じてしまうほどの艶っぽさと色気があります。

江戸の人々を夢中にさせる役者なので、町娘はこぞって魚之助の髪型や小物を真似して、同じ着物を着ようとします。その熱狂っぷりが今の推し活に通ずるものを感じておもしろかったです。目を血眼にして質のいい役者絵を探すところなんて、ちょっとでも盛れてるブロマイド探してる現代人と同じじゃん。わかるよ、その気持ち。

そんな人気者の魚之助に全く興味がないどころか、「しょっちゃう呼び出されて迷惑なんですけど」という気持ちを隠さない藤九郎がまたいいんです。バディものが好きな人は絶対ハマると思うのでぜひ読んでみて欲しいです。

一見性悪なわがまま姫の魚之助なんですが、実はいろんなものを抱えている人物でもあります。それが少しずつ明かされていくたびに魚之助のことを好きになっていく自分がいました。嫌だ嫌だと言いながらも藤九郎が世話を焼いてしまう気持ちがよくわかります。

鬼の正体を追いかけていく過程もとてもおもしろくて、一体誰が鬼なのか、鬼の真意はなんなのか、考えれば考えるほどわからなくなってドキドキしました。

とびきり切なくて、少し不思議で、役者という生き物が愛おしくなる物語です。

「化け者手本」

続編の「化け者手本」では、鬼探しを経て少し関係性が変わった魚之助と藤九郎が新たな謎に挑みます。

もう冒頭から魚之助と藤九郎の距離がぐっと縮まっているのがたまらない。冒頭っていうか表紙からもう違いますよね。「化け者心中」と見比べてほしい!1人から2人になっているんですよ!

とはいえ、表紙の藤九郎は血を流しているし、魚之助の表情も少し不穏。これは気になります。作中では藤九郎は背が高いだけの冴えない男(そこまでは言ってない)扱いをされていますが、横顔を見ると鼻筋の通った男前じゃないですか!これ自己評価が低いだけで気づかないうちに想いを寄せられているパターンでは?

2作目も内容は芝居小屋を舞台にした謎解きなんですが、今回も合間に挟まれる芝居小ネタがおもしろかったです。

芝居好きと一口に言っても、役者推し、芝居小屋推し(事務所箱推しみたいなこと?)、脚本推しと色々あるみたいで、推し方にも品のあるなしがあるんだとか。

ちょっとした言い回しにもこだわりを感じるのが蝉谷さんのおもしろいところで、普通なら「手取り足取り」というところを魚之助相手の時は「手取り腿取り」という言葉を使ったり...。そういうところが好きです。どうして足ではなく腿なのか、それは1作目のネタバレになりかねないので実際に読んでたしかめてください!

2作目の新キャラ円蝶と魚之助の口論のシーンなんてヒリヒリしすぎて鳥肌が止まりませんでした。口調は丁寧なのにめちゃくちゃ喧嘩売ってくるじゃないですか。イラっとポイントを的確に突いてくる円蝶が怖いです。

江戸時代の歌舞伎とオカルトミステリ要素がうまくマッチしているこのシリーズですが、魚之助も藤九郎もどっちかというと芝居に夢中になっちゃってて犯人探しは二の次なので探偵には向いてないですね。犠牲者どんどん増えるから...!

今回出てくる演目は「仮名手本忠臣蔵」。少し前に「極楽征夷大将軍」を読んだので、足利直義!高師直!知ってる!知ってるぞ!という知り合いがテレビに出たみたいなテンションで読み進めました。

江戸ものなのに曽我兄弟の仇討ちを知らないんですか!?のくだりはあれかな、現代でいうところの日本人なのに新選組知らないんですか!?みたいな感じですかね。

私からすると馬琴も曽我兄弟も足利直義もみんなまとめて古典の中の人というイメージですが、江戸時代の人からするともうちょっと身近な存在だったのかなと思うとおもしろいです。

謎解きのくだりはネタバレになってしまうのであまり色々書けないんですが、1作目とはまた違った趣向でした。こっちはこっちでおもしろい!

そしてこれは3作目も期待してしまいますよ!という終わり方。まだまだ魚之助と藤九郎の珍道中を見ていたい気持ちで読了です。

最後に

江戸時代を舞台にした時代小説は数あれど、こんなに解像度の高い作品に出会ったのは初めて!というのが初読の時の思い出です。

特に歌舞伎に関する情報量がすごい。実際に歌舞伎を観に行ってみたくなるし、あわよくば江戸時代の歌舞伎も見てみたい、そんな気持ちにさせてくれる物語です。

時代小説好きはもちろん、あまり時代小説は読まないかもという人も楽しめる作品なので、幅広い層におすすめです!

蝉谷めぐ実さんの別の著書「おんなの女房」の感想文も書いているので、よかったらこちらも覗いて行ってください。


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