見出し画像

⑤「寛解」の地球 ムダづかいしてはいられない~佐久・望月―式部からの発信~鳴き続ける蟋蟀でいたい(農民作家・飯島勝彦)

 「おかげさまにて『寛解』に至り、以後在宅での治療になりました」 医療機関に勤めたことのある友人から、入院見舞いの返礼が届いた。「全快」の退院ではない表現が珍しく「広辞苑」を引いてみた。
 「寛解(かんかい)」は、くつろぐことのほかに「病気そのものは完全には治癒していないが、症状が一時的あるいは永続的に軽減又は消失すること」とあった。「大辞林」には白血病や精神病などが具体的に加えてある。友人に問うと、定期的に透析を受けるが、ふだんは服薬と食事療法を守れば暮らしに支障はないという。
 私の肺気腫も似ていて、もと通りの機能回復は不可能だが、濃縮器による90%濃度の酸素吸入を続けていれば、不自由ながらも日常生活に支障はない。つまり、友人も私も一定の条件整備があるから生きていられる。

 産業革命以後の体温が1.5度を超えると、もう地球はもとに戻れないと言われてきた。直近の極端な干天と豪雨の異常梅雨も、猛暑も、「温暖化」などという優しいものではなく、「地球は沸騰化の時代に入った」という国連事務総長の発言を誰も否定できない。
 地球は既に、どうあがいてももとには戻れない「限界点」=「どんなに対策をとり、どんなに努力を尽くしても決してもとには戻れないところ」にきてしまったのではないか。

 肺気腫と診断された10年前に、「この病気はもう良くなることはなく、以後はこれ以上悪くしないための治療です」といわれ、起床時の粉薬の吸入と20秒間のうがいを始めた。その7年後に急性肺炎で入院し、3年前から屋内は酸素管を、屋外は酸素ボンベを携帯する暮らしになった。障害のクラスが3級に上がり、福祉医療と後期高齢者医療の支援があるので自己負担は少ないが、国の負担は年100万円を超える。

 そして思うのが、地球も既に「全快」の機会を失い「寛解」状態に入ったのではないか、ということ。だとすれば私と同じに、これから地球が生きるためには莫大な資金と資源が必要になる。
 ムダづかいはできないのである。――が、この国はどうだろう?世界一のムダ使いは日本ではないか、と思えてならない。皮肉にも、酸素吸入をしながら息苦しい思いである。
 そのビッグ4をあげるとすれば、①辺野古米軍基地 ②原発 ③リニア ④万博=カジノである。

①=辺野古の大浦湾は、地盤が軟弱なため海底に杭を打ちこむ。最深部は海面下90mあり、国内の作業船は70mまでの能力しかないので、着手しても70m~90mの地点(滑走路の真下)は放置のまま。沈下が進み、軍用機発着基地として使えない。

②=トイレの無いマンションに汚物が溜まり続け、地震や台風のたびに放射線汚染物の流出に怯える。東電福島原発は、13年余経ってもデブリの処理に手がつかない。それでも耐用年数を勝手に伸ばして、柏崎刈羽原発を再稼働させる。あげく、汚物は海底から300mの地下へ10万年保管する、と。――其(そ)を地球が許すだろうか。

③=JR東海はリニアの完成を2034年に延期した。静岡ばかりでなく、長野工区の南アルプスや伊那山地でも、地質がもろいことやシールドマシンの不具合で掘削が難航。残土の捨て場やダンプ被害の不安が強まっている。世界が一瞬の電波で交信できるいま、9割がトンネル、原発一基分の電力を使い、走行路の10センチ上を浮上して疾走する。――地球が我慢できるだろうか。

④=来年4月に控える大阪万博は、参加国の辞退や規模縮小を抱え、逆に負担は倍額に増えて、世論は期待よりも中止の声が多い。
会場の夢洲は、焼却残滓や下水道汚泥で湾を埋めた現役の廃棄物最終処分場。化学反応の危険を無視し、大阪府と市は跡地に目論むカジノの既成事実化も狙い強行した。予め大量のガス抜き管を附設した危うい工事だったが、ついに3月下旬、メタンガスの爆発が屋外イベント会場のトイレで発生。観客を会場へ運ぶ地下鉄工事でも同様の事故が起きており、「いのち輝く」の大阪万博スローガンは地球への冒涜ではないか。

 ムダ使いとは、使った金が公共の益として残らないこと。これまでのもの、これからのものも、莫大な金額でありながら民の受益にならず、一部の者を一時的な億万長者にさせるだけ。億万長者が更なる大儲けを追及する資本主義は、今や万物の住み処である地球を「寛解」状態に病ませてしまった。そして、歴代政権と与党、政治家と政界と官僚と〇〇審議委員会――どれも、だれにも責任がない。個人が使った裏金でも逃げ道をつくってしまう総無責任時代。
 金があり、権力があっても、地球が病人では苦しむのは同じなんだがな、と嗤いつつも、公共の援助が途絶えれば「寛解」の私はいち早く苦しむことになる。「ムダづかいに早く気づけ」と呻かざるを得ない。

                           (2024年6月)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?