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鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。

鳥類学者だからって、
鳥が好きだと思うなよ。

新潮文庫

川上和人 著

ざっくり紹介●
鳥類学者である著者による
「生き物を愛する人にも、
そうでもない人にも、
絶対に楽しめる、
汗と笑いの自然科学エッセイ」です。


看板に偽りあり

クレームをつけたいわけではありません。
タイトルの重要性を改めて痛感しました。
という話です。
「このタイトルを見て、
鳥の悪口が書き連ねられているなんて、
思うわけがないだろう。
看板に偽りがあって当たり前じゃないか」
と皆さん思われるでしょう。
私もタイトルを見て直感的に考えました。
「とかいって、好きなんでしょ?」
鳥類学者だからって、
鳥が好きだと思うなよ。
いや、嫌いとは言っていない。という
反語であり、作者はツンデレのはず。
そう仮定して読み始めました。
まえがきでは
哺乳類や魚類の研究と比べて
人類への目に見えた貢献度が低い
鳥類研究の地味さを嘆きつつ、
図鑑には鳥類の巻が必ずあり、
テレビや新聞でも色鮮やかな鳥や
渡り鳥の来訪が取り上げられる事実から
「多くの人は鳥類を
憎からず思っているのだ」と
人類の潜在的鳥愛を説きます。
どれだけ読み進めても鳥愛全開です。
タイトルは編集者がつけたんだろうけど、
うまいこと引っ掻けられたな~と苦笑い。
でもそのお陰でいい本に巡り合えました。


調子のいい文章

「調子がいい」には2つの意味があります。
リズムがいい、という意味と、
ユーモアがある、という意味です。
この本は、
調子がいい(ユーモアがある)から
調子(リズム)がいいという感じ。
するすると読んでしまいました。
ユーモアは主に自虐と比喩。
自虐はとりあえず横に置いておいて、
比喩には考えさせられることが多かったです。
なにせ、元ネタが駄菓子、アニメ、映画。
小学生時代にナウシカに憧れた著者は
1973年生まれで、夫と同い年、私より11歳上です。
年代や守備範囲が被るので、
終始くすくす笑い。ですが、
ジブリはほぼ履修していても、
ガンダムは不勉強な私にとって、
普段は赤い機体に登場するシャアが
最後の死闘で操縦したジオングがグレーだった
なんて知りませんでした。
というか、
赤いザク、ズゴック、ゲルググがあり、
乗り分けていることすら知らなかった。
知っていたら、ここでくすっとできたのでしょう。
こんなに自分の無知を悔いたことはありません。
ユーモアには共通の知識が必要で、
これが時代とともに笑いが古くなる理由の
一端なのだと再認識しました。
とはいえ、専門知識の中に
ちょこちょこと差し込まれる
くすっと笑える一文で
こちらは終始リラックスして
読み進められます。
私もこんな文章が書ければな~と
羨ましく思いました。


進化し続ける西之島

西之島は2019~2020年の噴火で
約0.07平方キロメートルから
約2.8平方キロメートルへと
面積が拡大した小笠原諸島沖の無人島で、
著者のフィールドでもあります。
記録に現れるのは1702年。
スペイン船ロザリオ号に発見されたそうです。
そんな昔からずっと休眠状態だった火山ですが、
著者の誕生と同じ1973年に活動を再開します。
この噴火で西之島新島が誕生し、
すぐに旧島とつながりました。
島での海鳥の観察が著者の仕事です。
1995年から携わり、
現在も担当されているようで
最近のニュースにもコメントしています。
私が最初に島を知ったのは
2013年の噴火でもとの島のすぐ隣に
新島が誕生したというニュースが
テレビで報道されたときです。
何を研究しているわけでもありませんが、
出来上がった陸地しか知らなかった私は
急に現れてどんどん拡大する様に
密かにロマンを感じました。
イザナギが天沼矛(あめのぬぼこ)で
海をかき混ぜてつくったという日本列島。
海面から噴煙がもくもくと上がり、
青い海が火山灰だか噴石だかで
埋まっていく様子をテレビで見るだけで、
あの時代の人々が見たもの、
象徴化したかったものが
分かるような気がしました。
その後、10カ月ほど続いた噴火により
もとの西之島は飲み込まれました。
2019年の大噴火で植物や海鳥の住処が埋まり
生態系がリセットされてしまいましたが、
現在は予想以上の速さでしているといいます。
私の生きている間に、
西之島にヒトの住処もできるのだろうか、と
一人でワクワクしています。


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